死に戻ったら冷淡だった夫が離れてくれないので今度こそ幸せになるためやり直します

倉桐ぱきぽ

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初恋の夢

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 * * *

 この日。
 ホリーは、ご機嫌ななめだった。
 今頃、本当ならば、兄たちと牧場へ行っていたのだ。この春に生まれた子馬の中から、ホック家が一頭、譲り受けることになっている。その下見を兼ねたハイキングであった。
 ホリーはずっと楽しみにしていて、前日はなかなか眠れなかったほど。

 それが急な来客があり、どういう訳か、兄弟の中でホリーだけが家に残されることになった。牧場へ行くことは、ずっとずっと前から決まっていたのに。
 ホリーは、乳母やメイドと出かける兄たちを、恨めしく見送ったのだった。

 父の友人だというシュトラール夫妻は、同じ年頃の男の子を連れてきた。
 その子守役に、自分は家に残されたらしい。
 そう悟って、ますます不機嫌になったホリーだったが。
 自分より二つ年下のリヒトは、礼儀正しく、おまけにイケメンだった。まるで弟ができたみたい。現金なもので、ホリーはすぐに彼を気に入ってしまった。

 ホリーはおやつを食べ終えると、リヒトを連れ庭へ出た。
 愛犬のマックスを紹介する。ホリーたっての願いで買い始めた、大型犬のクリームレトリバーである。その大きさに、いとこはびびって近寄ることもできなかったが。リヒトは、臆することなく、頭をなでてくれた。彼のそんなところもホリーは気に入った。

 そうして、マックスと一緒に駆け回っているうち、リヒトが派手に転んでしまった。手をついた時にできたのだろう、手のひらにはすり傷ができていた。
 ホリーは、応急処置に自分のハンカチを傷口に巻いてやる。

「ありがとう、ホリーちゃん」

 にっこり笑ったリヒトの顔に。

 ……か、かわいいーーーー!

 胸が、ドッキュンと、高鳴る。
 この瞬間。恋の矢が、ホリーに深々と突き刺さったのであった。

 そして、その年の誕生日。
 リヒトからプレゼントされたのは、一抱えほどもあるマックスそっくりのぬいぐるみ。ホリーの一番の宝物になった。



 * * *



「……リー……ホリー」

 名前を呼ぶ声に、目が覚めた。
 まだ、生きてる。
 ホリーは少し絶望したが、体はひどく重かった。全身がギシギシと痛み、ひどい頭痛がして、息をするのも苦しい。
 多分、このまま、死ぬのだろう。
 そう思っていたところへ、ふっと影が差した。
 
「ホリー⁉ しっかりしろ」

 心配そうに、顔を覗き込んできたのは、リヒトだった。しかし、ホリーはその顔に違和感を覚えた。まだ幼くて、あどけなさが残っている。その姿は、十年前、結婚した頃のリヒトだ。

「リヒト?」

 ホリーは何年かぶりに、その名前を口にする。

「ホリー、気がついたか⁉ よかった!」

 リヒトの顔に笑みが浮かんだ。
 彼が自分を見て、しかも微笑んでくれるなんて。

 ……あぁ、これは幻なのね。

 せわしなく呼吸をしながら、ホリーは思う。
 走馬灯と言うやつだろうか。それとも、自分の願望が見せる幻だろうか。
 どちらにしても、心は満たされていた。とても幸せだった。ホリーは泣きそうになりながら、微笑む。

「リヒト」
「どうした、ホリー?」

 もう、幻でいい。言っておきたかった言葉がある。
 幼い頃はいくらでも、簡単に言えたのに。年を取るごとに、なんだか、段々と言いづらくなって。結婚してからは、一度も口にしたことはなかった。

「リヒ、ト……」

 大好きよ。
 ホリーは最後まで言えず、まぶたを閉じた。


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