2 / 24
初恋の夢
しおりを挟む
* * *
この日。
ホリーは、ご機嫌ななめだった。
今頃、本当ならば、兄たちと牧場へ行っていたのだ。この春に生まれた子馬の中から、ホック家が一頭、譲り受けることになっている。その下見を兼ねたハイキングであった。
ホリーはずっと楽しみにしていて、前日はなかなか眠れなかったほど。
それが急な来客があり、どういう訳か、兄弟の中でホリーだけが家に残されることになった。牧場へ行くことは、ずっとずっと前から決まっていたのに。
ホリーは、乳母やメイドと出かける兄たちを、恨めしく見送ったのだった。
父の友人だというシュトラール夫妻は、同じ年頃の男の子を連れてきた。
その子守役に、自分は家に残されたらしい。
そう悟って、ますます不機嫌になったホリーだったが。
自分より二つ年下のリヒトは、礼儀正しく、おまけにイケメンだった。まるで弟ができたみたい。現金なもので、ホリーはすぐに彼を気に入ってしまった。
ホリーはおやつを食べ終えると、リヒトを連れ庭へ出た。
愛犬のマックスを紹介する。ホリーたっての願いで買い始めた、大型犬のクリームレトリバーである。その大きさに、いとこはびびって近寄ることもできなかったが。リヒトは、臆することなく、頭をなでてくれた。彼のそんなところもホリーは気に入った。
そうして、マックスと一緒に駆け回っているうち、リヒトが派手に転んでしまった。手をついた時にできたのだろう、手のひらにはすり傷ができていた。
ホリーは、応急処置に自分のハンカチを傷口に巻いてやる。
「ありがとう、ホリーちゃん」
にっこり笑ったリヒトの顔に。
……か、かわいいーーーー!
胸が、ドッキュンと、高鳴る。
この瞬間。恋の矢が、ホリーに深々と突き刺さったのであった。
そして、その年の誕生日。
リヒトからプレゼントされたのは、一抱えほどもあるマックスそっくりのぬいぐるみ。ホリーの一番の宝物になった。
* * *
「……リー……ホリー」
名前を呼ぶ声に、目が覚めた。
まだ、生きてる。
ホリーは少し絶望したが、体はひどく重かった。全身がギシギシと痛み、ひどい頭痛がして、息をするのも苦しい。
多分、このまま、死ぬのだろう。
そう思っていたところへ、ふっと影が差した。
「ホリー⁉ しっかりしろ」
心配そうに、顔を覗き込んできたのは、リヒトだった。しかし、ホリーはその顔に違和感を覚えた。まだ幼くて、あどけなさが残っている。その姿は、十年前、結婚した頃のリヒトだ。
「リヒト?」
ホリーは何年かぶりに、その名前を口にする。
「ホリー、気がついたか⁉ よかった!」
リヒトの顔に笑みが浮かんだ。
彼が自分を見て、しかも微笑んでくれるなんて。
……あぁ、これは幻なのね。
せわしなく呼吸をしながら、ホリーは思う。
走馬灯と言うやつだろうか。それとも、自分の願望が見せる幻だろうか。
どちらにしても、心は満たされていた。とても幸せだった。ホリーは泣きそうになりながら、微笑む。
「リヒト」
「どうした、ホリー?」
もう、幻でいい。言っておきたかった言葉がある。
幼い頃はいくらでも、簡単に言えたのに。年を取るごとに、なんだか、段々と言いづらくなって。結婚してからは、一度も口にしたことはなかった。
「リヒ、ト……」
大好きよ。
ホリーは最後まで言えず、まぶたを閉じた。
この日。
ホリーは、ご機嫌ななめだった。
今頃、本当ならば、兄たちと牧場へ行っていたのだ。この春に生まれた子馬の中から、ホック家が一頭、譲り受けることになっている。その下見を兼ねたハイキングであった。
ホリーはずっと楽しみにしていて、前日はなかなか眠れなかったほど。
それが急な来客があり、どういう訳か、兄弟の中でホリーだけが家に残されることになった。牧場へ行くことは、ずっとずっと前から決まっていたのに。
ホリーは、乳母やメイドと出かける兄たちを、恨めしく見送ったのだった。
父の友人だというシュトラール夫妻は、同じ年頃の男の子を連れてきた。
その子守役に、自分は家に残されたらしい。
そう悟って、ますます不機嫌になったホリーだったが。
自分より二つ年下のリヒトは、礼儀正しく、おまけにイケメンだった。まるで弟ができたみたい。現金なもので、ホリーはすぐに彼を気に入ってしまった。
ホリーはおやつを食べ終えると、リヒトを連れ庭へ出た。
愛犬のマックスを紹介する。ホリーたっての願いで買い始めた、大型犬のクリームレトリバーである。その大きさに、いとこはびびって近寄ることもできなかったが。リヒトは、臆することなく、頭をなでてくれた。彼のそんなところもホリーは気に入った。
そうして、マックスと一緒に駆け回っているうち、リヒトが派手に転んでしまった。手をついた時にできたのだろう、手のひらにはすり傷ができていた。
ホリーは、応急処置に自分のハンカチを傷口に巻いてやる。
「ありがとう、ホリーちゃん」
にっこり笑ったリヒトの顔に。
……か、かわいいーーーー!
胸が、ドッキュンと、高鳴る。
この瞬間。恋の矢が、ホリーに深々と突き刺さったのであった。
そして、その年の誕生日。
リヒトからプレゼントされたのは、一抱えほどもあるマックスそっくりのぬいぐるみ。ホリーの一番の宝物になった。
* * *
「……リー……ホリー」
名前を呼ぶ声に、目が覚めた。
まだ、生きてる。
ホリーは少し絶望したが、体はひどく重かった。全身がギシギシと痛み、ひどい頭痛がして、息をするのも苦しい。
多分、このまま、死ぬのだろう。
そう思っていたところへ、ふっと影が差した。
「ホリー⁉ しっかりしろ」
心配そうに、顔を覗き込んできたのは、リヒトだった。しかし、ホリーはその顔に違和感を覚えた。まだ幼くて、あどけなさが残っている。その姿は、十年前、結婚した頃のリヒトだ。
「リヒト?」
ホリーは何年かぶりに、その名前を口にする。
「ホリー、気がついたか⁉ よかった!」
リヒトの顔に笑みが浮かんだ。
彼が自分を見て、しかも微笑んでくれるなんて。
……あぁ、これは幻なのね。
せわしなく呼吸をしながら、ホリーは思う。
走馬灯と言うやつだろうか。それとも、自分の願望が見せる幻だろうか。
どちらにしても、心は満たされていた。とても幸せだった。ホリーは泣きそうになりながら、微笑む。
「リヒト」
「どうした、ホリー?」
もう、幻でいい。言っておきたかった言葉がある。
幼い頃はいくらでも、簡単に言えたのに。年を取るごとに、なんだか、段々と言いづらくなって。結婚してからは、一度も口にしたことはなかった。
「リヒ、ト……」
大好きよ。
ホリーは最後まで言えず、まぶたを閉じた。
99
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました
Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。
「彼から恋文をもらっていますの」。
二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに?
真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。
そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。
※小説家になろう様にも投稿しています
三度裏切られたので堪忍袋の緒が切れました
蒼黒せい
恋愛
ユーニスはブチ切れていた。外で婚外子ばかり作る夫に呆れ、怒り、もうその顔も見たくないと離縁状を突き付ける。泣いてすがる夫に三行半を付け、晴れて自由の身となったユーニスは、酒場で思いっきり羽目を外した。そこに、婚約解消をして落ちこむ紫の瞳の男が。ユーニスは、その辛気臭い男に絡み、酔っぱらい、勢いのままその男と宿で一晩を明かしてしまった。
互いにそれを無かったことにして宿を出るが、ユーニスはその見知らぬ男の子どもを宿してしまう…
※なろう・カクヨムにて同名アカウントで投稿しています
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。
結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。
四季
恋愛
結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる