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目を覚ましたら見慣れた天井と、お父様とお母様とアル兄様が心配そうな顔で覗き込んでいた。

エル姉様はソファに座って優雅にお茶を飲んでいるわね。 

「「「フィオナ!」」」

「心配かけてごめんなさい」

「それは気にしなくていい、エルシアから話は聞いた」

「無理をしなくてもいいのよ」

「これからは僕も側にいるからね」

「・・・ありがとう。ちょっと取り乱してしまいました」

また優しい家族に心配をかけてしまった。


フィオナごめんなさい。
私・・・分かっているつもりだった。
フィオナの記憶を映画を観ている感覚でしか捉えていなかったのね。

怖かったよね。
痛かったよね。
苦しかったよね。
悔しかったよね。

あの子を怖がる必要はなかったのに・・・自分で自分が情けなくなる。

でも、もう大丈夫だから。



「フィオナ、どうしたい?」

そんなの決まっている。
本音は殺られる前に殺りたい。それを今の私なら簡単に実行できる。
でも、それをしたら彼女と同じになってしまう。
だから・・・

「・・・何もしていない彼女を、私の感情だけで手に掛けようとは思いません。・・・暫くは様子を見ます。それに彼女が何か仕掛けてきても負けないだけの力が私にはありますから」


そうだ、私はこれからもこの世界で生きて行く。
あんな子の為にフィオナの手を汚すことはない。彼女に繰り返しの記憶があろうがなかろうが、理由はどうあれフィオナを何度も殺したのは間違いないのだから。
どうせ私が何もしなくても、あの子はあれだけの憎悪を私に向けてきたんだ。放っておいても何かしら仕掛けてくるばすだ。
生きる資格すら無いと判断した時、殺るならその時でいい。

「そうね・・・でも約束して。1人で悩まないこと。細かいことでも必ず報告すること。わたくし達に素直に助けを求めること。フィオナは1人じゃないの、わたくし達の愛する家族なのよ。それを忘れないで」

エル姉様は微笑んでいるけれど、"反論は許さないわよ"って目が恐いんですけど!

「や、約束するわ」

「なら、よろしい」

私の返事に満足そうな顔で頷くエル姉様が一瞬サラとダブって見えた。
うん、今日の私の不甲斐なさを知ったらジンとサラに何を言われるか・・・いや、いったい何をされるか・・・想像するだけで恐ろしい。

そうだったわ。
サラの予知でジンが私に会いに来てくれて、訓練という名の地獄のシゴキに耐え、Sランク冒険者まで登り詰めた。

そんな私があの子にビビること自体がおかしいのよ!

ふぅ~意識してゆっくり深呼吸を繰り返す。
徐々に落ち着いてきた。

「言い忘れていたけれど、フィオナを医務室に運んでくれたのはサウス公爵家のレオニール様よ。きちんとお礼を言いなさいね」

「レオニール?誰それ?」

「ええ!忘れたの?フィオナの婚約者になる予定だった子息だよ」

ああ!そんな人がいたわね。自分のことでいっぱいだったからすっかり忘れていたわ。
将来性ありの美少年だった気がするけど・・・

「・・・あまり覚えてない」

「分かったわ。どうせ彼も昼食は個室を使っているでしょうから、食後に一緒にお礼に行きましょう」

「は~い」

個室で会うならあの子にも会うことはないわね。









~レオニール視点~


昼休憩に入り、個室に向かっていると少し先にフィオナ嬢を見つけた。
立ち止まって食堂の廊下側から中の様子を見ているようだった。

何を見ているのか気になって俺もフィオナ嬢の視線の先に目を向けた。

何やら集団で揉めているようだ。
その中心にいるのは1人の令嬢のようだ。

なんだアレは?
庇われている令嬢は怯えているように見えるが、明らかにあれは演技だろ?
また今年も同じような手を使う女がいたか・・・そして、騙される男も・・・
愚かな男女に興味をなくした俺は視線をフィオナ嬢に戻した。

エルシア嬢が彼女の手を引いて歩き出そうとしたが、フィオナ嬢は動こうとしなかった。
だが、何だか様子がおかしい。
一点を見つめて震えているようだ。
また俺もその視線の方向に目を向けると、凄い形相でフィオナ嬢を睨んでいる女がいた。あの演技女だ。

フィオナ嬢の顔色はどんどん悪くなっていく。
あのままだと・・・危ないっ!
無意識に体が動いていた。
間一髪でフィオナ嬢を支えることが出来たが・・・細い。
こんなに華奢だったのか・・・

「すぐに医務室に運びます」

「え、ええ、ありがとう」

一体何があったんだ?
あんなに強い君が、何故あの程度の女に怯えていたんだ?
君とあの女との間に何かあるのか?

俺の腕の中にいる君があまりにも弱々しくて、こんな事を思うのは烏滸がましいが俺が守ってあげたいと思ってしまったんだ。

急いで医務室に運んだが、校医も昼休憩に行っているのかいなかった。
エルシア嬢の指示でベットに降ろしたがまだ顔色は真っ青だ。

エルシア嬢に昼食を食べに行くように進められても足が動くことを拒否する。

『フィオナ嬢が目を覚ますまで側にいたい。彼女から離れたくない』

言いたくても言えない言葉を飲み込んだ。

俺は・・・彼女にとってただの通りすがりの生徒の1人でしかないのだから・・・


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