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オーギュスト王国編
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「見えてきたわ!」
「マシェリア王国の学園とはまた違った趣きがあるわね」
「こっちはお貴族様しか通えないらしいからな。金をかけているんだろ」
はしゃぐリズベットと、思ったことを素直に口にしたマリエル。そしてレイの言葉は少しだけ嫌味が入っていた。
私もリズベットが指す方向に目を向けた。
学院が見えても懐かしさすら感じない。辛く悔しい思い出はあっても、一つもいい思い出はないから⋯⋯今も頭の中では前回の嫌がらせや蔑まれた視線、嘲笑う声が繰り返しフラッシュバックするのを、自分で自分に言い聞かせる。(今回は大丈夫。前回とは全然違う。義母もべティーも居なかった。お父様も私に歩み寄ろうとしてくれている。それに、リズベットもマリエルもレイも居る。私は一人じゃない。大丈夫、大丈夫)と⋯⋯
それでも憂鬱な気持ちになるのは仕方がない。
私の気持ちとは関係なく馬車は到着してしまった。
レイが先に降りると自然と手を差し出す。
この辺は当然とはいえ紳士的ね。
まずはリズベット、続いてマリエル、そして私が降りた。
取り敢えず職員室を目指す。
すたすたと歩く私に「リリーシアはここに来たことがあるの?」とマリエルに聞かれた。
「⋯⋯ないわ。⋯⋯でも学院から送ってきた案内図は頭に入っているから」
そうだった。
今の私はここへ来るのが初めてだった。
前回の記憶があるからなんて三人には言えないのに。
落ちつけ、落ち着いて私。今の私なら何があっても対処できるわ。
そうよ。それに学院に前回の私を知る人は居ないのだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私たち四人は別れることなく特別クラスだった。
この特別クラスは家格などは関係なく、実力で決まる。いわば成績が優秀な者ばかりのクラスってことだ。
王子妃教育を受けていた私は前回もこのクラスだった。
教師に促されて教室に入った瞬間、これからクラスメイトになる生徒たちからの視線に背中に冷たいものが流れた。
「大丈夫か?リリーシア」
「確かに顔色が悪いわ」
「熱は?」
「だ、大丈夫よ」
三人を安心させるために笑顔で応えた。
気持ちを切り替えられるよう余計なことは考えないようにした。
担任からマシェリア王国からの転入だと紹介され、まずは自己紹介ってことでレイ、マリエル、リズベットの順で挨拶をしていった。
ええ、ええ、分かりますよ。
レイも背も高くて優しそうな見た目は人目を引くよね。
リズベットは可愛い見た目で守ってあげたくなるような子だもんね。
マリエルは女性の中では背が高く、少しつり目の迫力美人。迫力があるのはスタイルにも現れている。ボンキュッボンってやつだ。
「リリーシア・ミラドールです」
『え?あの方が公爵家の?』
『深窓の令嬢だと言われている⋯⋯』
『どのお茶会でも見掛けないと思っていたら留学されていたのね』
ミラドール公爵家に私という娘が居ることは知られていたようだ。
今は私に嫌な視線を向けてくる様子はないけれど、前回ではこのクラスメイトたちには散々な目にあわされた⋯⋯だからこそ信用も出来ないし、親しくするつもりはない。
これから一年間の簡単なスケジュール説明のあと今日は解散になった。
馬車止めまで歩いていると、二度と聞きたくなかった声が聞こえた。
「ギリアン様ぁ~」
べティーの声だ⋯⋯
「マシェリア王国の学園とはまた違った趣きがあるわね」
「こっちはお貴族様しか通えないらしいからな。金をかけているんだろ」
はしゃぐリズベットと、思ったことを素直に口にしたマリエル。そしてレイの言葉は少しだけ嫌味が入っていた。
私もリズベットが指す方向に目を向けた。
学院が見えても懐かしさすら感じない。辛く悔しい思い出はあっても、一つもいい思い出はないから⋯⋯今も頭の中では前回の嫌がらせや蔑まれた視線、嘲笑う声が繰り返しフラッシュバックするのを、自分で自分に言い聞かせる。(今回は大丈夫。前回とは全然違う。義母もべティーも居なかった。お父様も私に歩み寄ろうとしてくれている。それに、リズベットもマリエルもレイも居る。私は一人じゃない。大丈夫、大丈夫)と⋯⋯
それでも憂鬱な気持ちになるのは仕方がない。
私の気持ちとは関係なく馬車は到着してしまった。
レイが先に降りると自然と手を差し出す。
この辺は当然とはいえ紳士的ね。
まずはリズベット、続いてマリエル、そして私が降りた。
取り敢えず職員室を目指す。
すたすたと歩く私に「リリーシアはここに来たことがあるの?」とマリエルに聞かれた。
「⋯⋯ないわ。⋯⋯でも学院から送ってきた案内図は頭に入っているから」
そうだった。
今の私はここへ来るのが初めてだった。
前回の記憶があるからなんて三人には言えないのに。
落ちつけ、落ち着いて私。今の私なら何があっても対処できるわ。
そうよ。それに学院に前回の私を知る人は居ないのだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私たち四人は別れることなく特別クラスだった。
この特別クラスは家格などは関係なく、実力で決まる。いわば成績が優秀な者ばかりのクラスってことだ。
王子妃教育を受けていた私は前回もこのクラスだった。
教師に促されて教室に入った瞬間、これからクラスメイトになる生徒たちからの視線に背中に冷たいものが流れた。
「大丈夫か?リリーシア」
「確かに顔色が悪いわ」
「熱は?」
「だ、大丈夫よ」
三人を安心させるために笑顔で応えた。
気持ちを切り替えられるよう余計なことは考えないようにした。
担任からマシェリア王国からの転入だと紹介され、まずは自己紹介ってことでレイ、マリエル、リズベットの順で挨拶をしていった。
ええ、ええ、分かりますよ。
レイも背も高くて優しそうな見た目は人目を引くよね。
リズベットは可愛い見た目で守ってあげたくなるような子だもんね。
マリエルは女性の中では背が高く、少しつり目の迫力美人。迫力があるのはスタイルにも現れている。ボンキュッボンってやつだ。
「リリーシア・ミラドールです」
『え?あの方が公爵家の?』
『深窓の令嬢だと言われている⋯⋯』
『どのお茶会でも見掛けないと思っていたら留学されていたのね』
ミラドール公爵家に私という娘が居ることは知られていたようだ。
今は私に嫌な視線を向けてくる様子はないけれど、前回ではこのクラスメイトたちには散々な目にあわされた⋯⋯だからこそ信用も出来ないし、親しくするつもりはない。
これから一年間の簡単なスケジュール説明のあと今日は解散になった。
馬車止めまで歩いていると、二度と聞きたくなかった声が聞こえた。
「ギリアン様ぁ~」
べティーの声だ⋯⋯
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