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第一章 グリマルディ家の娘

17,好かれる彼女

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 それから数日が経った。
 大会の興奮も冷めきらないうちに、次のレッスン日になる。
 俺とレイはいつものようにバイクでスクールまで一緒に向かった。

 だがこの日、なにやらスクールのエントランスの様子が違うんだ。俺たちが来る前から、クラスのメンバーやインストラクターたちが外で待機していたようだ。
 俺たちが──いや、レイがスクール前に到着するなり、皆がごぞって彼女のそばに駆け寄ってきた。

「レイ、この前はおめでとう!」
「最高のダンスだったよ」
「めちゃめちゃ興奮したぜ」
「やっぱりレイはクールなダンサーよね!」

 誰彼構わず一気に祝福の言葉を投げかけてくるものだから、レイは戸惑った表情をする。それでも頬をほんのり赤らめながら「ありがとう」と一人一人に返事をした。

 少し離れた場所で、俺はその様子を微笑ましく眺める。
 レイは普段からみんなに好かれていて、男女問わず人気者と言える。仲間たちに囲まれて幸せそうに笑う彼女を見ていると、なんだか自分のことのように俺まで嬉しくなった。

 建物の裏にある駐輪場へ一人でバイクを停めに向かう。ここの駐輪場は電灯が少なく、夕方を過ぎるといつも薄暗くなるのでちょっとばかし気味が悪い。

 不意に、背後から誰かの足音が聞こえて来た。振り向くとそこには──

「ヒルス」
「うわっ、メイリーか」

 思わぬ相手の登場に少々驚いてしまう。
 メイリーは俺を見てくすくす笑うんだ。

「今日もレッスン頑張ろうね」
「あ、ああ」

 みんながスクール前に集まっているのに、なぜメイリーだけはここにいるんだろう。
 俺はそそくさとその場から立ち去ろうとするが、突然、左腕を掴まれてしまう。

「ねぇヒルス」
「なんだ?」
「この前の大会で、あたしのダンス見ててくれた?」
「えっ? あ、ああ。見てたよ」

 さりげなくメイリーの腕から離れる。
 大会当日はレイばかり気にしていたが、メイリーのダンスも見ていたのはウソではない。

「あたしのダンス、どうだった?」
「どうだったって……そりゃすごかったよ」
「本当に?」
「ああ、別にウソなんて言ってない」

 そんな俺の返事に、メイリーはなぜか怪訝な顔をする。
 メイリーは毎年素晴らしいダンスを披露して、いい結果もたくさん残してきた。いつも必死に練習しているのも俺は知っている。
 だけど──メイリーは必死になりすぎて周りが見えなくなることがある。俺はそのことが少し心配だった。

「あたし、今年は二位だったよ」
「いつも上位で大したもんだよな」
「……でも、今年はレイばかり注目されてるよね」
「いや、まあ、たしかに。レイは初出場なのにトップスリーに入ったから驚かれたんだろ」
「……」

 メイリーは鋭い目つきをしてうつむいた。そっと顔を覗くと──その瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていたんだ。

「お、おい。どうしたんだよ。大丈夫か?」
「あたしだって……いつも頑張ってるのに……誰も認めてくれない」
「は? そんなことないだろ。メイリーの実力はジャスティン先生も買ってる」
「でも……」

 涙を拭き取り、メイリーはパッと顔を上げた。

「ヒルスはあたしのこと、どう思ってるの?」
「いや、だからいつもすごいと言っている」
「でも、レイが来てからヒルスはずっとあの子に付きっきりだよね」
「そりゃ……妹だからな」

 俺のその一言に、メイリーは眉間に皺を寄せた。

「……ウソつき」
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