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第一章
お調子者の妹
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こんな調子だから、色々サポートが必要になるんだ。
基本的にほとんどのことは一人でやれるけど、安全のために登下校は常に大人についてもらってる。
ランドセルは重すぎて、背負うと転倒のリスクがかなり高くなってしまう。だから毎日母さんが荷物を持って、教室まで送ってくれてるんだ。
ついでにふたつ下のうるさい妹も一緒に。
「にいに。今日は学童行く?」
平坦な道。
登校中、一歩先を歩く妹のリオが突然振り返り、ぐっと顔を覗き込んできた。
……おいおい。あんまり近づきすぎるなよ。杖がお前に当たったらどうする。バランスが崩れて転ぶかもしれないだろ。
すかさず母さんが僕の右手をギュっと握った。
妹は僕の身体について理解はしてるけど、たまに(と言うかかなりの頻度で)勢いよく接近してくる。
悪気がないのは分かるんだけどさ。少しくらい考えてほしいよな。
「リオ、お兄ちゃんにぶつからないようにね」
「うん、分かってるー!」
注意されても、リオは半分聞いてるようであまり聞いていない様子。
僕は小さくため息をつく。
「今日はリハビリがある。五時間目が終わったらすぐ療育センターに行くから、学童はお休み」
「えー、来ないの! つまんないなぁ~」
「ユナたちと遊んでればいいだろ」
「そうだけどー。でも、にいにがいないとつまんないの。帰ったらマリィカート一緒にやってくれる?」
「はぁ。仕方ないな」
リオは甘えん坊だよな。僕に対してだけでなく、母さんにも学童の先生にもそうだ。
三年生のくせして、あざとい奴。
「あとねーどうぶつの村とアウアークラフトもやりたい!」
「そんなにできるか……?」
「いいの、遊ぶの!」
絶対だよ! と言って、リオは勢いよく僕の腕を掴んできた。
──あっ。
声が漏れる前に、僕の身体は右脚から崩れるように倒れていく。母さんの握る手の力が強くなったけど、こうなるともうダメだ。
僕は思いっきり肘を打って倒れてしまった。
「コウキ!」
慌てたように母さんが僕の前にしゃがみ込む。
転んでしまうのはいつものことだ。ただ、ちょっと、今のは転びかたがすごく悪かった。
肘が、痛ぇ……。
しばらく悶えていると、肘から血が流れてきた。
こ、これも……いつものこと。でも、やっぱり辛い。
「リオ……お前、だから言っただろうが!」
思わず声が荒くなってしまう。
「うぅ……別に、わざとじゃないもん!」
頬を膨らませ、リオは涙声になる。
別に、そこまで深刻になることじゃない。でも、やっぱり転ぶ勢いがやばすぎた。
どうしてもイライラが止まらなかった。
母さんはそっと手を伸ばし、身体を支えて僕を立たせてくれた。
「あらー……ちょっと傷が大きいわね。保健室で見てもらいましょうか」
さすがの母さんも困った顔になってる。ハンカチを当ててもらったが、血は止まる気配がない。
「いい? リオ、いつも言ってるけど、お兄ちゃんはちょっとぶつかったり押したりしただけでバランスを崩しちゃうの。気をつけてね」
「ごめんなさい……」
リオはすっかり落ち込んでしまったようだ。
普通だったらちょっと腕を触られたくらいで転んだりしないんだよ。僕だって分かってる。リオも悪気があったわけじゃないことも。
とぼとぼと前を歩くリオは、何も喋らなくなってしまった。
「そこまで気にしないで。これからも注意してくれればいいのよ」と母さんが声をかけても無言で頷くだけだった。
暗い空気が流れる。そんなときだった。
「おはよー!」
この場の空気にそぐわないほど明るい声が後ろから聞こえてきた。
振り向くと、そこには──ニコニコの笑顔で、こちらに走ってくる女の子がいた。
ユナだ。
足が速い彼女は、あっという間に僕たちに追いついた。
「あら、おはよう、ユナちゃん。今日も元気ねぇ」
「うん! それだけが取り柄だし」
「そんなことないわ。ユナちゃんにはいいところたくさんあるわよ。リオも、元気でいてくれないかしらね?」
母さんはリオの背中にわざとらしく大きな声を向ける。でも、反応はない。
自己嫌悪に陥ると、リオはいつもこんな感じだ。
「リオちゃんどうしたの?」
心配そうにユナが隣に並んだ。それでもリオは無反応。
「ちょっとね……。たった今、間違ってコウキの腕を勢いよく触っちゃって。コウキが転んじゃったの。それで落ち込んでるのよ」
眉を八の字にしながら、母は優しい口調で説明する。
するとユナは目を見開いて僕の隣に並んだ。
「あっ、本当だ。コウ君、怪我してる」
「これくらい大したことないよ」
強がってみせるけど、本当はまだ痛い。血もどんどん流れてくるし。
「私が保健室に連れていってあげよっか?」
僕の右肘をじっと見つめるユナは、真剣な顔だった。
「いいの? ユナちゃん、お願いしても?」
「全然いいよ。任せて!」
「本当に助かるわ。いつもありがとう」
今日もユナは、当たり前のように手助けしてくれる。だから僕は、そんなユナに心を開いているんだ。
「ねえ、リオちゃん。今日、学童で一緒にお絵かきする?」
もう一度ユナはリオに話しかける。
少しの間返事もしなかったけど、リオはちょっと恥ずかしそうに首を縦に振った。
「よかった。約束ね!」
僕のことだけじゃなく、リオのことも気にかけてくれるユナ。僕よりも背が高くて、その後ろ姿を見るととても頼りがいのある存在に思えた。
基本的にほとんどのことは一人でやれるけど、安全のために登下校は常に大人についてもらってる。
ランドセルは重すぎて、背負うと転倒のリスクがかなり高くなってしまう。だから毎日母さんが荷物を持って、教室まで送ってくれてるんだ。
ついでにふたつ下のうるさい妹も一緒に。
「にいに。今日は学童行く?」
平坦な道。
登校中、一歩先を歩く妹のリオが突然振り返り、ぐっと顔を覗き込んできた。
……おいおい。あんまり近づきすぎるなよ。杖がお前に当たったらどうする。バランスが崩れて転ぶかもしれないだろ。
すかさず母さんが僕の右手をギュっと握った。
妹は僕の身体について理解はしてるけど、たまに(と言うかかなりの頻度で)勢いよく接近してくる。
悪気がないのは分かるんだけどさ。少しくらい考えてほしいよな。
「リオ、お兄ちゃんにぶつからないようにね」
「うん、分かってるー!」
注意されても、リオは半分聞いてるようであまり聞いていない様子。
僕は小さくため息をつく。
「今日はリハビリがある。五時間目が終わったらすぐ療育センターに行くから、学童はお休み」
「えー、来ないの! つまんないなぁ~」
「ユナたちと遊んでればいいだろ」
「そうだけどー。でも、にいにがいないとつまんないの。帰ったらマリィカート一緒にやってくれる?」
「はぁ。仕方ないな」
リオは甘えん坊だよな。僕に対してだけでなく、母さんにも学童の先生にもそうだ。
三年生のくせして、あざとい奴。
「あとねーどうぶつの村とアウアークラフトもやりたい!」
「そんなにできるか……?」
「いいの、遊ぶの!」
絶対だよ! と言って、リオは勢いよく僕の腕を掴んできた。
──あっ。
声が漏れる前に、僕の身体は右脚から崩れるように倒れていく。母さんの握る手の力が強くなったけど、こうなるともうダメだ。
僕は思いっきり肘を打って倒れてしまった。
「コウキ!」
慌てたように母さんが僕の前にしゃがみ込む。
転んでしまうのはいつものことだ。ただ、ちょっと、今のは転びかたがすごく悪かった。
肘が、痛ぇ……。
しばらく悶えていると、肘から血が流れてきた。
こ、これも……いつものこと。でも、やっぱり辛い。
「リオ……お前、だから言っただろうが!」
思わず声が荒くなってしまう。
「うぅ……別に、わざとじゃないもん!」
頬を膨らませ、リオは涙声になる。
別に、そこまで深刻になることじゃない。でも、やっぱり転ぶ勢いがやばすぎた。
どうしてもイライラが止まらなかった。
母さんはそっと手を伸ばし、身体を支えて僕を立たせてくれた。
「あらー……ちょっと傷が大きいわね。保健室で見てもらいましょうか」
さすがの母さんも困った顔になってる。ハンカチを当ててもらったが、血は止まる気配がない。
「いい? リオ、いつも言ってるけど、お兄ちゃんはちょっとぶつかったり押したりしただけでバランスを崩しちゃうの。気をつけてね」
「ごめんなさい……」
リオはすっかり落ち込んでしまったようだ。
普通だったらちょっと腕を触られたくらいで転んだりしないんだよ。僕だって分かってる。リオも悪気があったわけじゃないことも。
とぼとぼと前を歩くリオは、何も喋らなくなってしまった。
「そこまで気にしないで。これからも注意してくれればいいのよ」と母さんが声をかけても無言で頷くだけだった。
暗い空気が流れる。そんなときだった。
「おはよー!」
この場の空気にそぐわないほど明るい声が後ろから聞こえてきた。
振り向くと、そこには──ニコニコの笑顔で、こちらに走ってくる女の子がいた。
ユナだ。
足が速い彼女は、あっという間に僕たちに追いついた。
「あら、おはよう、ユナちゃん。今日も元気ねぇ」
「うん! それだけが取り柄だし」
「そんなことないわ。ユナちゃんにはいいところたくさんあるわよ。リオも、元気でいてくれないかしらね?」
母さんはリオの背中にわざとらしく大きな声を向ける。でも、反応はない。
自己嫌悪に陥ると、リオはいつもこんな感じだ。
「リオちゃんどうしたの?」
心配そうにユナが隣に並んだ。それでもリオは無反応。
「ちょっとね……。たった今、間違ってコウキの腕を勢いよく触っちゃって。コウキが転んじゃったの。それで落ち込んでるのよ」
眉を八の字にしながら、母は優しい口調で説明する。
するとユナは目を見開いて僕の隣に並んだ。
「あっ、本当だ。コウ君、怪我してる」
「これくらい大したことないよ」
強がってみせるけど、本当はまだ痛い。血もどんどん流れてくるし。
「私が保健室に連れていってあげよっか?」
僕の右肘をじっと見つめるユナは、真剣な顔だった。
「いいの? ユナちゃん、お願いしても?」
「全然いいよ。任せて!」
「本当に助かるわ。いつもありがとう」
今日もユナは、当たり前のように手助けしてくれる。だから僕は、そんなユナに心を開いているんだ。
「ねえ、リオちゃん。今日、学童で一緒にお絵かきする?」
もう一度ユナはリオに話しかける。
少しの間返事もしなかったけど、リオはちょっと恥ずかしそうに首を縦に振った。
「よかった。約束ね!」
僕のことだけじゃなく、リオのことも気にかけてくれるユナ。僕よりも背が高くて、その後ろ姿を見るととても頼りがいのある存在に思えた。
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