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第一章
お守り
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「目標があると、退院後の楽しみが増えるね!」
「ああ、そうだな」
どこがいいかな。大きな公園に行ってみる? それとも川辺をのんびり歩こうか。
ユナは嬉しそうに、散歩の計画を立てている。
どこだっていいよ、と僕が答えると、彼女は「ちゃんと真面目に考えて!」と頬を膨らませた。
だって、本当にどこでもいいんだよ。ユナと一緒なら、どこまでだって行ける気がするから。
僕たちがお喋りしている間にも、野良の茶トラは公園内でゴロゴロ寛いでいる。腹を出してあくびなんかもして、野良らしからぬ姿だ。
僕が茶トラのことをじっと見つめていると、ユナも野良の方に顔を向けた。
「あの野良ちゃん、この近所がおうちみたいだよね」
「そうだな。あいつの縄張りなんだろ。よく他の猫と喧嘩して相手を負かしてるみたいだし」
「へえ。強いんだね。ちょっとガキ大将みたい。コウ君の家のチャコちゃんはおっとりしてたから、同じ猫でも全然違うね」
「うん、チャコは本当に優しい仔だったからな」
──今でも思い出す。
生まれたときから一緒だったチャコ。家族の誰かが家に帰ってきたときは、一目散に玄関まで出迎てくれたし、添い寝もよくしていた。ニャンニャン言いながら後ろを付いて回るような、家族のことが大好きな猫だった。
僕もリオも父さんも母さんも、みんなチャコのことが大好きだ。
たまに思い出すと、また会いたいと思ってしまう。
「ねえねえコウ君」
僕が想いに耽っていると、ユナは突然何かを目の前に差し出してきた。
「これ、あげる」
「なんだ?」
小さな白い袋を渡される。中に何か入っているようだ。
「開けてみて」
言われるがまま見てみると──中には茶色い猫の絵が描かれたキーホルダーが入っていた。猫は二本脚で立っていて、前脚で『ひとつ葉のクローバー』を持っていた。
「お守りだよ」
ユナは笑顔でそう口にした。
「お守り?」
「うん。コウ君の手術が大成功して、リハビリも頑張って、今よりももっと歩けますようにって願いがこもってるの。それにこの猫、チャコちゃんにそっくりでしょう? 二本脚で立ってるんだよ。可愛いクローバーも持ってて素敵じゃない?」
目尻が、熱くなる。
マジで可愛い猫じゃん……。
僕はお守りを大切に握り締めた。
「本当にチャコみたいだな。でも、どうしてひとつ葉のクローバーなんだ? 普通三つとか四つだよな」
「クローバーってね、実は三つ葉と四つ葉だけじゃないんだよ。ひとつ葉もあるし、多いと五つとか、六つとか、それ以上もあったりするの」
「えっ、そうなのか?」
「うん。滅多に見つからないけどね。ひとつ葉なんてとくに珍しい。でもね、このクローバーにはコウ君にぴったりの花言葉があるんだよ」
「クローバーにも花言葉があるのか」
「そうだよ。ひとつ葉にはね『困難に打ち勝つ』っていう意味もあるの。コウ君はこれから大きい手術をするけど、絶対に成功する。そのためのお守り!」
「ユナ……」
胸が、じんわりと熱くなる。
ひとつ葉のクローバーを手にする猫は、僕の手の中で軽やかに立ち尽くしていた。
僕もいつか、こうなれたら……。
いや。「なれたら」じゃない。きっと僕にだってできるはずだ。杖も装具も手放して、普通に歩けるようになれるんだ。
ユナの瞳を見つめ、僕は大きく頷いた。
「ありがとう。大事にするよ」
──それからユナは「久しぶりにチャコちゃんのお線香を上げにいきたい」と言って、僕の家に来た。
チャコが生きていたとき、ユナも可愛がってくれたんだ。チャコもそんなユナによくなついていた。
線香を上げるとき、ユナは手を合わせてこんなことを口にする。
「コウ君の手術が成功するのを、チャコちゃんも一緒に見守ってね」
気のせいだと思うけど、その日のチャコの遺影がなんだか普段よりも輝いているように感じた。
「ああ、そうだな」
どこがいいかな。大きな公園に行ってみる? それとも川辺をのんびり歩こうか。
ユナは嬉しそうに、散歩の計画を立てている。
どこだっていいよ、と僕が答えると、彼女は「ちゃんと真面目に考えて!」と頬を膨らませた。
だって、本当にどこでもいいんだよ。ユナと一緒なら、どこまでだって行ける気がするから。
僕たちがお喋りしている間にも、野良の茶トラは公園内でゴロゴロ寛いでいる。腹を出してあくびなんかもして、野良らしからぬ姿だ。
僕が茶トラのことをじっと見つめていると、ユナも野良の方に顔を向けた。
「あの野良ちゃん、この近所がおうちみたいだよね」
「そうだな。あいつの縄張りなんだろ。よく他の猫と喧嘩して相手を負かしてるみたいだし」
「へえ。強いんだね。ちょっとガキ大将みたい。コウ君の家のチャコちゃんはおっとりしてたから、同じ猫でも全然違うね」
「うん、チャコは本当に優しい仔だったからな」
──今でも思い出す。
生まれたときから一緒だったチャコ。家族の誰かが家に帰ってきたときは、一目散に玄関まで出迎てくれたし、添い寝もよくしていた。ニャンニャン言いながら後ろを付いて回るような、家族のことが大好きな猫だった。
僕もリオも父さんも母さんも、みんなチャコのことが大好きだ。
たまに思い出すと、また会いたいと思ってしまう。
「ねえねえコウ君」
僕が想いに耽っていると、ユナは突然何かを目の前に差し出してきた。
「これ、あげる」
「なんだ?」
小さな白い袋を渡される。中に何か入っているようだ。
「開けてみて」
言われるがまま見てみると──中には茶色い猫の絵が描かれたキーホルダーが入っていた。猫は二本脚で立っていて、前脚で『ひとつ葉のクローバー』を持っていた。
「お守りだよ」
ユナは笑顔でそう口にした。
「お守り?」
「うん。コウ君の手術が大成功して、リハビリも頑張って、今よりももっと歩けますようにって願いがこもってるの。それにこの猫、チャコちゃんにそっくりでしょう? 二本脚で立ってるんだよ。可愛いクローバーも持ってて素敵じゃない?」
目尻が、熱くなる。
マジで可愛い猫じゃん……。
僕はお守りを大切に握り締めた。
「本当にチャコみたいだな。でも、どうしてひとつ葉のクローバーなんだ? 普通三つとか四つだよな」
「クローバーってね、実は三つ葉と四つ葉だけじゃないんだよ。ひとつ葉もあるし、多いと五つとか、六つとか、それ以上もあったりするの」
「えっ、そうなのか?」
「うん。滅多に見つからないけどね。ひとつ葉なんてとくに珍しい。でもね、このクローバーにはコウ君にぴったりの花言葉があるんだよ」
「クローバーにも花言葉があるのか」
「そうだよ。ひとつ葉にはね『困難に打ち勝つ』っていう意味もあるの。コウ君はこれから大きい手術をするけど、絶対に成功する。そのためのお守り!」
「ユナ……」
胸が、じんわりと熱くなる。
ひとつ葉のクローバーを手にする猫は、僕の手の中で軽やかに立ち尽くしていた。
僕もいつか、こうなれたら……。
いや。「なれたら」じゃない。きっと僕にだってできるはずだ。杖も装具も手放して、普通に歩けるようになれるんだ。
ユナの瞳を見つめ、僕は大きく頷いた。
「ありがとう。大事にするよ」
──それからユナは「久しぶりにチャコちゃんのお線香を上げにいきたい」と言って、僕の家に来た。
チャコが生きていたとき、ユナも可愛がってくれたんだ。チャコもそんなユナによくなついていた。
線香を上げるとき、ユナは手を合わせてこんなことを口にする。
「コウ君の手術が成功するのを、チャコちゃんも一緒に見守ってね」
気のせいだと思うけど、その日のチャコの遺影がなんだか普段よりも輝いているように感じた。
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