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呪術師?いいえ、神(敵視)です
しおりを挟むそういえば、もう一つ大事なことがあったな。
「俺は一体、誰なんだ?」
いや、俺は俺なんだが。
「俺は、なぜかこの家の家具の配置を身に覚えもないのに把握している。それは、この体の元の主の生活習慣とか過去の記憶が原因って考えられるんだが……」
転生の秘術について、俺は詳しく知らないことのほうが多い。
それはなぜかというと、術の存在自体は有名だが、術を使い、転生した後の人物の情報が一切途絶えているからだ。
つまり、転生の秘術が、どのような条件で、どのような対象のどんな要望を叶えるものなのか、一切不明なのである。
俺は、そんな術を思いつきで何も考えずに使った。
つまりは、そういうわけである。
「いやいや、考える材料が本当に少なかったし、あの時の魔王軍の劣悪な環境下で思考がまともに働くわけがないんだ。それに、いろいろ不穏な噂ばかり耳にする魔王軍に見切りをつけようとする兵ばかりで、一人や二人抜けても誰も告げ口するなんてこと……」
気づけば、まただ。
「あぁもう! また過去の記憶を掘り返しちまう!」
とにかくだ。
「とにかく! 〝コレ〟はどういうことだ?」
俺は、先ほど服の内側から床に落ちた、見覚えのある〝残滓〟を少し摘まむ。
見た目は、真っ黒い粉状の物。麦粉よりは粗目で、砂糖や塩に近い。
そして、それは呪術師の呪詛眼が使える者でしか、見ることも触ることもできない物。
「厄粒砂……」
これは、呪術師の呪術の後に残る代物。
服の内側には、先ほど床に落ちた分だけだったようで、この量だけならば影響は皆無に等しい。
だが、塵も積もれば、呪術神殿を生む。
特定の需要があるため、好き物の呪術師にとって宝の山だったりする。
「なんでこんなものが俺の転生先の奴の体に……。そもそも、これは呪術師に呪いをかけられた奴か物にしか残らない比較的特定しやすい物。今の状況じゃ情報が足りないな。仕方ない、後で考えるっきゃないな」
そんなことよりも、だ。
「それよりも俺にはとても気になることがある! そ・れ・は!」
言葉に出すのも、勿体つけたいウズウズ感。
「この新しい俺の体になった奴の記憶を覗く!! 俺はさっきからとても不思議な感覚がして仕方なかったんだ! なんだこの建物、「家」の詳細なところまで知るわけもないのに分かっている感覚は! それに、なんだ……いや、
誰だこの少女は……。かなり……奥底に眠ってて、記憶を読むのも難しい……。だが、この感じは、魔法による作為的な物だ……。だー! 読みづらい!」
俺は、ベッドのある寝室からダイニングへと移動した。
テーブルとイスの手作り感。キッチンはしっかりしているが、こだわりがあるようには感じられない質素な感じ。
部屋全体にしてもそうだ。
まるで家具がない。必要最低限でも、もう少し道具やいろいろなものがあるだろう。
と、夢のマイホームに憧れる俺でも思うくらいだ。
考えることも多いが、とりあえず椅子に座ってやることをやる。
「とにかく、この人間が誰か。そして、どうして俺がこの人間に転生したか。それはこれから先とても重要になるはずだ」
俺は、この体の元の持ち主の記憶を深く読み解き始めた。
『俺の名は、シア……』
誰かの声が聞こえた。気がした。
なんというか、頭に直接声が聞こえた、カンジダ。
「ナニコレコワイ……。でも、シアってのはすごく聞き馴染みのある名前だ……」
続けていく。
「ふむふむ。名匠の子……鍛冶の知識があるのか! それでこの体格なんだな! だが、病気で長く寝たきりの生活になったのか」
あ……。
この記憶はまずい。まずいというか、苦い記憶だ。
『……』
まただ。
今度は声すら届かないくらい小さい声だ。
さて。
誰と尋ねずともこういった事態に、呪術師は対応可能だ。
「呪詛眼……‼」
俺は、目を瞑ったまま呪詛眼を発動する。
「さあ話してみろ。俺に話したいことがあるんだろう? つっても、お前の体を奪った奴なんかに抵抗はあるだろうが……」
俺は少し待った。
すると、声が、少しずつ大きく、近寄ってくるように聞こえ始めた。
『……れですか。……様でしょうか。少し話を聞いてくださいますか?』
「ああ、もちろんだ。聞いてやる。だが、もう少し聞きやすく話してくれ。お前のことだ。俺が聞かなくて誰が聞く」
俺にしては寛容な受け答え。
『感謝します。俺は、シア。鍛冶師の息子です。それから、「神様」が乗り移った体の元の持ち主です』
ん? 「カミサマ」?
俺は、聞きなれない、というより敵視すべき対象の名に、思わず冷や汗が溢れだした。
こいつ、俺を神と勘違いしてやがる。
しかし、話の先が気になる。とりあえず、話を合わせとくか。
動揺を隠しきれるかわからないが。
「あ、ああ。だろうな」
『やはり、さすが神様ですね』
「そういうのはいい。何か訴えたいことがあるんだろう。早く話せ」
『は、はい。実は、俺の記憶のことなんですが……』
やはりか。
「記憶の封印とでも呼ぶべき魔法のことだな?」
『はい。実は、その記憶には、俺が死んだら解ける制約があったのですが……その……』
「ん? どういうことだ? 解けてないが?」
『あの……俺は、昨日息を引き取る寸前までいっていたんですが……いえ、意識はすでに死んでいたというのが正しいです。しかし……』
「?? ということは?」
『体がまだ死んでおらず、その体に神様が下りてきてしまい、解けるはずの魔法がそのままになってしまったようなのです……!』
ん~~~????
アレ、俺なんかやってね? やってんじゃんね?
「あの、だ。その、一つ尋ねたい」
『はいなんなりとお答えします』
「その記憶は、どうしても見たいか?」
『‼ できるならば‼』
うぐ。
かなりまぶしい希望の力を感じる。
つまりアレだ。
死を待ち望む奇特な人間がいて、その死後に解放される記憶が、転生の秘術を使って、ちょうどこの体に生まれ変わった俺のせいで記憶が解放されずに、彼の死後の楽しみを台無しにしてしまった。
俺、大罪人じゃんね? まぁ、魔王軍にいたしね?
だが、なんだ、この罪悪感。
過去に、散々人間を呪い、魔王軍に貢献し、呪術師としての才能だけでたまに命も狙われる立場だったりして。
まるで罪悪感なんて感じたことも、そんな意識すらしたことも考えたこともなかった俺なのに。
すっげぇ、重く圧し掛かるコレはなんだ。
『どうしましたか? 神様?』
「いや……」
人間になって、転生して、丸っきり感覚が変わってしまったな。
俺は、人間になったんだ。
それくらいしか、今はまだわからないが、今だけは。
「応じよう……」
『え?』
「その願い、神として、そして贖罪として、叶えることを約束しよう!」
『本当ですか!?』
「嘘は言わない! 俺はそれなりの強者だからな! こんな魔法の解術など、すぐにやって見せよう!!」
『うれしいです! 生前からどうしても見たかった自分の記憶なんです!』
「その気持ち、わかるぞ……!」
『ではさっそくよろしくお願いします!』
「え?」
『魔法を解いてください! 神様!!』
「…………‼」
ん~~~~~~~!!!!
ちょっとまってね?
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