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1章.無能チート冒険者になる
7.無能チートとテンプレ展開?
しおりを挟む冒険者ギルドの中に足を踏み入れると、幾つもの視線が私達に向けられた。
酒場も兼任しているらしく、まだ夕食には早そうなのに、食事や酒盛りをしている冒険者で溢れていた。
値踏みするような視線、物珍しそうな視線、様々な視線の中、絡み付くような粘着質な視線を向けてきた冒険者が、円卓に足を乗せながら、話しかけてきた。
「おいおい! 『大鎧の』セヨン様のお帰りだぞ! なんだぁ、冒険者から子守りにでも転職したかぁ?」
酔っているのか、赤ら顔をした男がそう言うと、同じ卓を囲む、彼のパーティーと思われる集団が、下品な笑い声を上げた。
なんか、この人達嫌い。ファミレスとかで、周りの迷惑を考えずに騒いでいるDQNみたい。
「大鎧?」
「……ワタシの、二つ名、みたいなもの」
「わぁ、セヨンさん凄い!」
私の疑問に、セヨンさんが小さな声で、答えてくれる。
二つ名のある冒険者とか、凄いカッコいい!
そんな私の称賛に、水を差す奴がいた。
「ぎゃはははは! なんだチビスケ知らないのか? ドワーフにとって二つ名は、自分で鍛えた武器が付けられるもんなんだよ。でも、そいつはな、なまくらな武器しか作れない、ドワーフの恥さらしでな。まともに作れるのが防具だけだから、二つ名に防具の名が付けられてんだよ!」
DQN野郎が薄ら笑いを浮かべながら、『大鎧』の意味を教えてくれた。
どうやらドワーフ的には、防具の二つ名は不名誉なことだったらしい。
DQN野郎の後ろから聞こえる、酷く耳障りな奴の仲間の笑い声に紛れ、私の隣から、小さな、本当に小さな、歯を食い縛る音が聞こえた。
きっと、私を助ける為に振るった剣は、セヨンさんが打ったものなんだろう。確かにあの剣は折れてしまった。
言い返さないセヨンさんを見ると、DQN野郎の言葉は一部正しいのかもしれない。
セヨンさんが、よくドワーフを強調するのも、劣等感を感じているからなのかもしれない。
でも、感情の表れない鎧の中で、悔しさに唇を噛んでいるセヨンさんを想うと、暗い感情が沸々と込み上がってきた。
「子守になるぐらいなら、娼婦にでもなりゃいいのによ! テメェの中身は小せぇが、見栄えはいいからな。一晩ぐらいなら可愛がってやるぜ? 『大鎧のセヨン』ちゃん」
その言葉が私の我慢の限界だった。
真壁家には、ある家訓があるのだ。
「あ? 臭い口を閉じろよグズ野郎」
恩には恩を、仇には仇を。
私の恩人に仇なす奴は、誰であれ叩き潰す。
「なんだとガキ、いまなんつった?」
「トンボ、喧嘩、駄目」
額に青筋を浮かべ、グズ野郎が卓から足を下ろして立ち上がった。
私を止めるため、肩に置かれたセヨンさんの手を掴み、ニッコリと笑顔を貼り付かせて、私はセヨンさんに語りかけた。
「セヨンさんの鎧は、なんの為にあるかわかりますか?」
「ト、トンボ? えっ? ワタシを、ま、守る……ため?」
まるで怯えたように、戸惑いながら答えてくれるセヨンさん。いやはや、優しいセヨンさんらしい答えだけど、ちょっとジョークが過ぎるよね。だから、私は答えを教えてあげた。
「違うよね。セヨンさんの立派な鎧は、セヨンさんを馬鹿にするグズ共を、撲殺する為にあるんでしょ?」
「ーーーーー」
今度こそ、絶句してドン引きしているセヨンさん。解せぬ。
いつの間にか、周りの冒険者も静かになっており、冒険者ギルドの中が静寂に包まれた。
「おい、そのグズってのは、まさか俺のことじゃないよな?」
そんな静寂を破ったのはグズ野郎だった。
「グズじゃなければ馬鹿だよね? 考えてもみなよ、二つ名になるほど立派な鎧だよ? しかも大型の全身鎧」
だからなんだと、怪訝そうに眉間に皺を寄せるグズ野郎。理解の遅いその頭に教えてあげる。
「大きさ相応に重さもあるそれを、セヨンさんは自由自在に操れる。拳が当たれば骨が折れ、体当たりされれば全身がひしゃげる。そんな隙間のほぼ無い堅牢な鎧は、並大抵じゃ傷つかない」
そこまで語り、グズ野郎の目を見据える。
「アンタ、それに勝てるの?」
「……………」
グズ野郎がどれくらい強いか知らないが、セヨンさんより強いとは思えなかった。
鎧が武器にならないなんて、誰が決めたのか。
やろうと思えば、拳一つで人は死ぬ。硬い鎧ならさもありなんだ。
攻撃力と防御力が別れているゲームじゃないんだ、防御力の高さが攻撃力に上乗せされることもある。
その事をようやく理解したのか、グズ野郎は、赤ら顔を青く変えている。
「……ざ、ざけんなっ! ガキが知ったようなこと言いやがって! 俺がそんな鎧女に負ける訳ねぇだろ!」
舐められまいという、バカにはバカなりの矜持があるのか、グズ野郎が椅子に立て掛けていた、鞘に入ったままの剣を、私に向けて構えた。
ギルド内で、鞘から剣を抜かないだけの理性は残っているらしいけど、残念、私の理性は飛んでいる。
「っトンボ!」
私を庇うため、前に出ようとしたセヨンさんを手で制し、私はグズ野郎を睨み付ける。
「私の名前の元になった武器。その名前の由来は、飛んできた蜻蛉が刃に当たっただけで二つに切れたことから、そう名付けられたんだって」
私だって考えていた。セヨンさんの好意に、甘えるだけでいいのかと。必死に私にできることを考えていた。
そして、それはセヨンさんが教えてくれた。
防具が武器になるならば。
壁が武器になってもいいじゃないか!
いくら魔力を込めても厚くならないなら、逆に極限まで薄くする。剣の刃よりなお薄く、紙の一枚よりなお薄く、イメージするなら分子の隙間を抜けて切断する、極薄の刃。
「セヨンさんが防具なら、私は武器だ。私の名前、存分に思いしれ!」
戦国最強とも言われたご先祖様 (父親がファンなだけで、別に子孫ではない)。私に力を分けてください!
「蜻蛉切り!」
私は無能チートを発動させて、手を振るった。
壁に使えない壁魔法が発動し、手の動きに合わせ、極薄で透明な刃が、グズ野郎の持つ剣を通り抜ける。
「なっ?!」
グズ野郎の剣、私の『蜻蛉切り』が通り抜けた所から上側が、ゆっくりと地面に落ちた。
グズ野郎は目を見開き、鞘ごと半分になった剣を唖然と見つめている。
「セヨンさんは見ず知らずの私を、命懸けで助けてくれた。セヨンさんの武器が私の命を繋いでくれた。その私の恩人を馬鹿にするやつは、私が『そう』してやる」
「……トンボ」
私が切断された剣を指差し、宣言するとセヨンさんが私の肩に手を置いた。
私はセヨンさんに笑顔を向ける。
「トンボ、ギルド内で魔法使う、ダメ」
「えぇ……」
まさかの注意。感動して、セヨンさんも泣く位するかなと思っていた私は、しょんぼりしてしまった。
「でも、ワタシの代わり、怒ってくれた。トンボ……ありがとう」
どこか恥ずかしそうに紡がれたその一言で、セヨンさんと出会うきっかけになった無能チートが、少しだけ好きなった。
ーーーーーーーーーー
リアルチートな逸話の多い、本多さん。
戦場で一度も傷負わなかったとか、強すぎひん?
10
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