無能チートで冒険者! ~壁魔法も使いよう~

白鯨

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 1章.無能チート冒険者になる

18.無能チートと氾濫の影

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 ラプタスの街の門まで戻って来た私達に気付き、あの新人冒険者4人組と、門番さんが走り寄ってきた。


「2人共! 無事でしたか! この子達から話を聞いて、特徴から2人の事だとは、わかったのですが、冒険者が森の中で襲われても、我々では即座に動けず……申し訳ありません。ですが、無事でなによりです」


 門番が門を放置して、勝手に動くのはマズいし、冒険者は基本自己責任だから、門番さんが謝る必要ないのにね。真面目だねぇ。


「門番さんには門を守るという、大切な仕事がありますからね。しょうがないですよ、気にしないで下さい」
「それより、これ、見る」


 私の言葉に、ホッとした顔をした門番さんに、セヨンさんが鎧の指で、私達の背後に浮いている、オークの死体入りの、アイテムボックスを差した。


「こ、これは、オーク?! いや、死体か……それより浮いている?」
「そこは気にしない、もっとよく見る」
「よく見る……って! これは! まさか、武装しているオークだと?!」


 門番さんの目が、驚愕に見開かれる。
 セヨンさんも普通じゃないと言っていた、オークが武装している事の意味とは、なんなのか。


「ワタシ達、これから、ギルド報告する。そっち任せる」
「っは、はい! わかりました! 領主様には警備隊の方からお伝えします!」
「ん、トンボ、オーク1匹、証拠として、残す」
「わ、わかりました。じゃあ1匹、お渡ししますね」


 領主とか、知らない内に話が大きくなってるよ! と、置いてきぼりをくらいつつ、セヨンさんの指示に従うしかない。
 門番さんの前に、アイテムボックスを1つ動かし、壁魔法を解除する。
 重い音を立てて、オークの死体が地面に落ちる。
 壁魔法で閉じ込められていた血の臭いが、辺りに広がった。門番さんは壁魔法には驚きつつも、死体自体は平気そうだったが、新人冒険者4人組は、気分の悪そうな顔をしていた。


「ありがとうございます! では、預からせていただきます! 誰か、手伝ってくれ!」


 門番さんは死体を軽く確認し、胸に拳を当てて頭を下げると、ヒトを呼びに門の中に戻って行った。


「あ、あの、先程は助けてくれて、ありがとうございました」


 残された4人組の中から、リーダーらしい男の子が、一歩前に出て、私達にお礼を言った。遅れて、後ろの3人も頭を下げた。


「私達がオークを引っ張って行っちゃっただけだから、気にしないで。むしろ、巻き込んでゴメンね」
「い、いえ、僕達はじめての依頼で、フォレストウルフを狩りに行ったんですが、あの時、逃げろって言われても、驚いて反応できなくて……だから、お姉さん達が残ってくれたんですよね? 僕達を逃がすために、だから……」
「いいのいいの。私だって初依頼で緊張してたんだから。先輩冒険者のセヨンさんがいなかったら、私も動けずやられてたよ、きっと。だから、お礼を言うならセヨンさんにしてね」


 私が原因なのに感謝されるのは、居心地が悪いったらない。
 だから、セヨンさんに矛先を反らす事にした。自慢の鎧で受けきってください。
 セヨンさんは、そんな私の心の声が聞こえたのか、盛大にため息を吐いた。


「殿は誉れ言って、残るの決めたの、トンボ。オークを倒したのも、トンボ。それに……」
「ぐっ……それに?」
「冒険者として、困ってる人助ける、当たり前、言ってた」
「ぐがっ、なん……だと」


 セヨンさんが4人組に、私の武勇伝みたいな事を言って聞かせる。
 それを聞いた4人組が、光り輝く目を私に向けてきた。スゲーと言う声が耳に届いた。
 うわー鳥肌が! 恥ずかしい! 地味に嘘は吐いてないから質が悪い。


「セヨンさん! やだな! セヨンさんがいないとやられてたじゃないですか。2人! そう、2人の活躍の結果じゃないですか! そういえば、私達冒険者ギルドに報告することがありましたね! じゃあまたね!」


 とりあえず誤魔化しながら捲し立て、セヨンさんの背中を押して門の中に向かう。別の門番さんに手続きしてもらい、逃げるように街に入った。ただ最後に、いい子達みたいだからアドバイスをすることにした。


「新人は薬草採取からはじめるといいらしいよ! ギルドの向かいにある『フィレオの道具屋』って店にいくと、店長が色々教えてくれるから、行ってみてね!」


 彼らがアドバイスを聞くかどうかは、わからないけど、1人でも冒険者が生き残れるように、願うばかりである。



 冒険者ギルドに入ると、ぎょっとした視線が向けられてきた。
 それはそうだろう、昨日騒ぎを起こした奴が、オークの死体と、緑色の箱を、背後に浮かせて入って来たのだから。
 ざわつくギルド内を私とセヨンさんは、一直線に受付に向かった。


「エル、ギルマス、会わせる」
「ひぃ! オ、オーク?! 殺さないでぇ!」


 急ぎ、短く用件を言うセヨンさんと、オークの死体を見て、パニックになるエルティスさん。
 2人共、落ち着きなよ。


「エルティスさん、オークは死んでますから、安心して下さい」
「ひぃぃ! トンボ様までぇ!」


 おいこら、いい加減怒るぞ? しかも、私の方がビビってる説まであるぞ、これ。


「エル、落ち着く、ギルマスに大事な話ある、武装したオーク、森に出た」
「なっ! それは本当ですか?!」
「証拠、実物持ってきた」
「そのオークですか……確かに鎧を着ていますね」
「武器も持ってた、槍と、メイス」
「わかりました、ギルマスの部屋までご案内します」


 仕事モードになったエルティスさんの案内に従い、私とセヨンさんは、2階のギルドマスターの部屋の前まで通された。
 エルティスさんが、扉をノックすると、昨日聞いたギルマスの低い声で返事があった。


「ギルマス、エルティスです、緊急の案件で、セヨン様とトンボ様をお連れしました」
「緊急の案件だと……入れ」


 エルティスさんが扉を開け、押さえてくれたので、私とセヨンさんとオークの死体入りアイテムボックスは、部屋の中入った。
 ギルマスの部屋は、一番奥に執務机があり、手前に応接用の椅子と机が置かれており、昔入った校長室と、よく似た家具配置になっていた。
 なんで校長室に入ったかは聞かないでね。

 ギルマスは、オークの死体に眉をひそめたが、直ぐに異常に気が付いたのか、椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「武装オークが出たのか! 場所は?」
「東の森、スダの木の群生地の奥、2体確認した、1体は、警備隊に預けた」
「よし、対応は完璧だな。実物を持たせたなら、領主様からも直話が来るだろう。ギルドでも対応策を考えねばな……」


 トントン拍子で話が進んでいくけど、いい加減、何が起きているのか聞きたかった。


「あの~、武装したオークの、なにが危険なんですか?」
「む! そうか、トンボは昨日冒険者になったばかりだったな。冒険者になる際に、エルから話があったと思うが、有事の際に冒険者にはギルドの一員として、働いてもらうという規約があっただろう? その有事とは、何の事を指すか覚えているか?」
「えっと、スタンピードと呼ばれる魔物の氾濫……でしたっけ?」
「そうだ、そしてスタンピードには幾つか種類がある。普通オークは武装などしない、あっても木の棒や、冒険者から奪った武器を流用するだけだ。しかし、防具は違う。冒険者から奪っても、体格に合わず、捨てられるものなのだ。しかし、頭の良い個体が指示を出し、防具を調整させれば話は別だ」
「えっ、まさか!」

 思わずオークの死体を見た。身に付けている皮の鎧は、拙いながら、植物の蔓などでサイズ調整されていた。

 増えすぎた魔物が、エサ場を求めて起こすスタンピード。生態系が崩れ、逃げ出した魔物が起こすスタンピード。そして、もう一つ。

 森の中、周囲を警戒しながら歩く、武装したオークの姿を思い出す。まるで兵隊のようだと思ったけど、“まるで”じゃない。あれは正しく兵隊だったんだ。
 それは門番さんも、ギルマスも焦る筈だ。


「そうだ、あの森には、オークロードが居る可能性がある」


 ロード系の魔物に率いられた魔物が起こすスタンピード。
 私達は正に、その危機に直面していたのだから。





ーーーーーーーーーー

 領主っていたんだぁ。(小並感)
 
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