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1章.無能チート冒険者になる
19.無能チートとミスリル
しおりを挟むカン! カン! カン!
セヨンさんが金槌を振るう度、火花が散り、金属は形を変えていく。
幼女に見えるセヨンさんが、巨大な金槌を軽々振るう姿を見ると、改めてここが異世界なのだと実感する。
そう、私の異世界生活も、3日目に突入したのだ。
あの後、まず、領軍は街の防備を固め、冒険者ギルドは数組のパーティーを斥候に出して、オーク達の拠点を探るという方針で、領主様と冒険者ギルドの間で話がついたらしい。
私達『グル・グルヴ』は、できたてほやほやのひよっ子パーティーだから、当然、斥候の話などはなく、早期発見に貢献したとして、少しの報酬を渡されるだけで、一先ずの役目を終えた。
そして冒険者全体に、調査が終わり、安全が確認できるまで、森に入るのを禁止する通達があった。
つまり、私達『グル・グルヴ』は、冒険者生活2日にして、早くも休日を迎えていたのだ。
オークの発見、討伐報酬と、薬草採取の報酬(エルティスさんは、私達が採って来た大量の薬草に、顔を引きつらせていた)で、それなりのお金を手にしたけど、次に活動できる見通しがついていないため、なるべく貯めておくことにする。とセヨンさんと話し合って決めた。
本当は、休日には街の中を見て回ろうと思っていたけど、街に出たら屋台とか、露店とか、誘惑が多く、お金を使わない自信がなかったため、私は猫の目亭で、おとなしくしていようと思っていた。
そんな暇な私に、セヨンさんが鍛冶をするから見学するか。と聞きに来た所から、冒頭へ繋がっていった訳である。
ここは猫の目亭の裏庭、その隅っこで、セヨンさんは、自分のマジックバッグから取り出した、炉に火をいれ、赤く熱した金属を叩き始めたのだ。
マジックバッグに色々入ってるとは、言っていたけど、炉が入っているとは思わなかった。
マジックバッグから、ヌルっと大きな炉が出てきた時は、驚いたものだ。
「セヨンさんは、結局何を作ってるんですか?」
「新しい鎧。トンボの話、興味深い。参考にする」
叩いた金属を、再び炉に戻しながら、私の質問に答えるセヨンさん。その目は炉の中に注がれ、私の方を見ることはなかった。
今のセヨンさんは、なんか職人みたいでカッコいい。
そして、セヨンさんの言う興味深い話とは、昨日冒険者ギルドから宿に戻り、鎧を脱ぐ、というより、鎧から出てくるセヨンさんを見て、ロボット見たいだ。と呟いた事に端を発する。
私の呟きを耳敏く聞きつけたセヨンさんに、質問され、ロボットとは何か話したのだ。
ちなみに、私の言うロボットとは、当然スーパーロボットと呼ばれている、熱血系のアニメのものである。
理由は、私がどろどろした戦争の話より、勧善懲悪の話の方が好きだからだ。
少し熱が入ったけど、そんな話をセヨンさんに聞かせたんだけど、じゃあ、つまり。
「ロボットを作ってるんですか?!」
「違う、鎧は鎧。でも、拳を飛ばす、合体する、その発想、なかった。いい刺激なった」
「新しい発想の新しい鎧……ですか」
「トンボ言った、鎧を武器にする。それを、実現させる」
そう言って、炉の炎を見つめるセヨンさんの瞳が、子どものように輝いていた。
「そういえば、それって鉄じゃないですよね、白っぽいし……」
「これ、ミスリル。魔法銀とも、言われる金属」
「これがミスリル……」
「ミスリル、鉄より硬く、鉄より軽く、魔力流しやすい、凄い金属。ただ、扱い難しい」
ミスリルと言ったら、ファンタジー世界筆頭の知名度を誇る金属だ。
そんなミスリルを、セヨンさんは炉から取り出して、再び金槌で叩きながら詳細を教えてくれた。
ミスリル鉱は採掘の段階では、不純物が混じっているらしく、その時は、普通の銀と同じ位の柔らかさらしい。
インゴットの段階でも、あえて不純物を残したまま、整形されているらしく、精錬する時に熱して叩く事で、徐々に不純物が抜けて、ミスリル本来の硬さになる。
剣にするなら剣の形に、鎧にするなら鎧の形に、不純物を取り除きながら整形するのが基本とのこと。
ただ、不純物が取り除かれるほど、整形は難しくなるため、不純物が抜けきる瞬間に、整形を終わらせるのが理想的とされ、ミスリルを熱する温度と時間、叩く回数と力加減を見極めるのは、元々希少であり、扱う人間が少ないのもあって、熟練の鍛冶師でも難しいと言われている。
目で見て、音で聞き、叩く感触で。神経を研ぎ澄ませて、はじめてミスリルを扱えるのだ。
つまり。
「私が話しかけてるのって……邪魔?」
「そんなこと、ない。トンボと話すと、良い鎧、できる気がする」
「そうですか? なら、いいんですけど」
セヨンさんがそう言うならと、私は改めてセヨンさんがミスリルを叩くのを、見学しはじめた。
セヨンさんの手際は、素人目にも良く見えた。そこら辺は、さすがドワーフと言った所か。
「ミスリルが凄い金属ってのはわかったんですが、その分希少なんですよね? セヨンさんは、よくそんなに持っていましたね」
炉の側に積まれたミスリルのインゴット。今のセヨンさんの鎧を、全身ミスリル製にしても余りそうな量がある。
「ミスリル、確かに希少、値段高い。ワタシ冒険者になって、20年ぐらい、少しずつ、集めてた」
「20年もですか……それはまた」
「ワタシが、良い武器、作れるように、なったら、ミスリルで武器、作るつもりだった」
「鎧にして……良かったんですか?」
「ワタシは、鎧を作るため、ミスリル集めてきた。今は、そう思ってる。これも、トンボのおかげ」
セヨンさんが一瞬私の方を見て、歯を見せてニッと笑った。
その清々しい笑顔は、もう本当に『大鎧』の二つ名を誇り、素晴らしい鎧を作ろうとしているように見えた。
「あっ、叩き過ぎた、失敗」
「わちゃ、次は気を付けましょー」
余所見した所為で、失敗したミスリルの塊を余所に分け、セヨンさんは新たなインゴットを炉に入れる。
気負わず、再び私とお話しながら、セヨンさんの鍛冶は続いた。
「あんた達! いつまでトンテンカンと、やってるつもりだい! もう夕方だよ! 一日中煩いったらない、これ以上は近所迷惑さ。泊まってる客からも苦情が来ちまうよ」
女将のウルさんに声をかけられ、ようやく今が夕方になっている事に、気が付いた。
「もう少し~、っと、できた!」
「おっ! セヨンさん、それで完成ですか?」
「ん~、まだ、外側ができた、だけ、仕上げ、残ってる」
セヨンさんは自分が作り上げた、鎧のパーツを満足そうに見ている。
ぶっちゃけ、ミスリルの扱いに慣れてきたのか、どんどん作る速度が上がり、1日でかなりのパーツを作り上げていた。
「聞いてんのかい! って、これミスリルじゃないか! それもこんな沢山……あんたの武器にするなんて勿体ない!」
「武器違う、これ鎧、ワタシの鎧」
「あん? あんたが鎧って、あれだけ武器武器言ってた奴が、どんな風の吹き回しだい?」
かなり失礼な事を言うウルさんに、セヨンさんは気にしてなさそうな、自然体な表情で返した。
予想外な返答に、胡乱げな目をセヨンさんに、むけるウルさん。
「ワタシの鎧、良い鎧。ミスリル使って、もっと凄い鎧、作る!」
「ふ~ん、これもトンボの影響かい?」
「さぁ、私はセヨンさんの作る、鎧と武器に、助けられてばかりで、感謝しているだけですけどね」
「まっ、変に気負わなくなったのは、良いことさ。ちょっとガキっぽくなってるけど」
完成した鎧を想像しているのか、キラキラした瞳を空に向けるセヨンさんを、私とウルさんは微笑ましく見守った。
ウルさんが、セヨンさんに厳しいことを言ったのは、彼女なりの気遣いなのかもしれない。
私のそんな考えを感じたのか、ウルさんが顔を反らし、背を向けて宿屋の裏口に向かい、歩き出した。
「ほらっ、いい加減戻ってきな! さっさとそのデカイ炉と、作ったものを片付けて、入っておいで! 急がないと夕食抜きにするよ!」
照れ隠しのような、ウルさんの声に促され、私とセヨンさんは、慌ててその場を片付けはじめたのだった。
ーーーーーーーーーー
セヨンさんのマジックバッグの中には、持ち運び可能な万能炉を含む、鍛冶道具一式と、大量のミスリルインゴットが入っていました。
そりゃ、容量ギリギリにもなるわ。
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