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1章.無能チート冒険者になる
20.無能チートと魔方陣
しおりを挟むセヨンさんが、鎧のパーツを作り上げた、次の日。
私とセヨンさんは、引き続き猫の目亭の裏庭に来ていた。
「今日、昨日作った、鎧のパーツに、魔方陣、刻む」
「魔方陣ですか?」
「まほーじん!」
なんと、今日はスペシャルゲストで、猫の目亭の看板娘兼天使の、ミウちゃんが来ているのです。
ミウちゃんは、昨日の鍛冶の音を聴いて、私達が面白い遊びをしていると思ったらしく、今日はお手伝いのお休みをわざわざ貰い、私達の所にやってきたのだ。
元々この裏庭自体が、ミウちゃんの遊び場として、走り回れるように作られたらしく、貸してやってるんだから、ミウの面倒を見ろと、ウルさんに脅され……もとい、お願いされたのだ。
娘の為に庭を作るとは、愛が重い。
まぁ、私はミウちゃんと過ごせて役得なんですけどね!
「まほーじんってなーに?」
「魔方陣、マナの変換を行う、装置? みたいなもの」
「?」
「魔方陣、魔力送る、マナ、魔方陣の模様で、火とか、水に、変わる」
「???」
かー! 小首を傾げるミウちゃん可愛い!
そして、セヨンはミウちゃんにどうわかりやすく伝えるか、四苦八苦している。
すがるように見てくるセヨンさんに代わり、私がミウちゃんに説明してみる。
「魔方陣ってお店屋さんなんだよ」
「おみせやさん?」
「そう、火を売ってるお店とか、水を売ってるお店とか、模様によって変わるんだよ」
「おおー」
「お店屋さんでお買い物する時、何が必要か、ミウちゃんはわかるかな?」
「おかね!」
「凄い正解! でも、魔方陣のお店屋さんは、お金の代わりに、魔力を使って買い物するんだよ」
「おかねのかわりに、まりょく……」
「魔方陣に魔力を払うと、模様によって、火とか、水とか、色んなものを売ってくれるんだよ」
「わぁ! まほーじんすごい!」
私の説明を理解したらしく、ミウちゃんは、凄い凄いと、魔方陣を褒めはじめた。
この解釈で間違いないですか? とセヨンさんの方を見ると、口を開けたまま呆けた顔をしていた。
「トンボ、説明上手、びっくり。トンボは、もっと、残念な子だと、思ってた」
「残念な子ってどういう事ですか?!」
「とんぼはざんねん!」
「ミウちゃんまで?!」
くそぅ! とんだ風評被害だよ!
「それで、セヨンさんは魔方陣を刻んで、何をするんですか?」
「ごめん、ごめん、不貞腐れないの」
「とんぼ、ごめんね」
くっ、生セヨンさんの頭撫で撫でとは。こんなことで誤魔化されは……はわ~。小さなセヨンさんの手、柔こくて気持ちいいわ~。
許す! 今なら解脱して、どんな事でも許せそうな気がする。
「うっ、なんか、トンボ、目が怖い」
「セヨンおねぇちゃん、わたしもー!」
「あぁ……セヨンさんの撫で撫でタイムが終わってしまった」
「はい、ミウ、なでなで……それで、魔方陣刻む、すると、魔力の通り良くなる」
「でも、セヨンさんって、無属性の魔法しか使えないんじゃ……」
セヨンさんは、ミウちゃんのリクエストに応え、頭を撫でながら魔方陣を刻む利点を、解説してくれる。
「トンボの良い例えした。お店、お金払えば、誰でも買える。魔方陣、魔力流せば、誰でも使える。無属性、関係ない」
「へぇ~、魔方陣って便利ですね」
「そう、魔力流せば、色んな効果得られる。グリーヴに、風の魔方陣刻む、速く走れる。胸当てに、地の魔方陣刻む、硬くなる」
防具に刻む魔方陣は、思っていた以上に有用そうに聞こえた。
「でも、魔方陣、効果を決める、複雑な指示ほど、複雑なる……お店例えると、えっと、売ってる物、珍しいほど、準備、大変?」
「???」
「いやいや、わざわざお店で例えなくても、大丈夫ですよ」
頑張ってミウちゃんに、わかりやすいように説明しようとして、迷走しはじめたセヨンさん。
「ミウちゃんがお母さんに、お使いを頼まれたとします」
「うん! みう、おやさいとか、おにくとか、たりないときかいにいくー!」
「その時に、お野菜とお肉と、飲み物と食器と、ミウちゃんのお昼を、屋台で買ってきてって言われたら、どう思う?」
「えー、おぼえられないよー!」
「そうだよね。一度にいっぱいお願いすると、魔方陣さんも大変なんだよ」
「そっか! まほーじんさんも、みうといっしょだぁ」
「でも、買うものが、絵で紙に描いてあるのがあったら、ミウちゃんもお使いできる気がしない?」
「どうかなぁ、でも、えがあれば、みうもできるかも」
「魔方陣さんも、一度にいっぱいお願いする時は、いっぱい絵を描かないといけないんだよ」
「まほーじんさんも、たいへんなんだね。せちがらいよのなかだよ!」
なんとか、ミウちゃんにわかって貰えるよう、説明できた。
というか世知辛いって、誰だミウちゃんにそんな言葉を教えたのは。
一応、これで合ってます? とセヨンさんの方を見ると、今度は少しムッとした表情をしている。
さては、自分が上手く説明できないから、私に嫉妬しているな。いじけたようにつき出された口が可愛く、思わず笑ってしまった。
「もうトンボが、教えればいい。ワタシ、鎧に魔方陣刻む」
セヨンさんは、基本の魔方陣が描かれているという本を、私達に渡すと、鎧のパーツを掴んで背を向けて座り込んでしまった。
あーあ、拗ねちゃった。しばらく放って置いて様子を見るか。
私はそう決め、ミウちゃんに向きなおった。
「じゃあ、ミウちゃん。地面に魔方陣の絵を描いて遊ぼうか?」
「まほーじんさん、かくー!」
本を開くと、最初の方は、基本の六色六属性の魔方陣についての解説が図付きで描かれているページだった。
「まずは、水を出す魔方陣を描いてみようか」
「みずー!」
火を出す魔方陣は危ないかも知れないし、無難なところで水を選んだ。最悪発動しても、ずぶ濡れですむだろう。
ただ普通に描いても面白くなさそうだし、私は水の魔方陣で絵描き歌を作ってみた。
「まーるいお盆がありましてー♪」
「まーるいおぼんがありましてー」
「さんまいお皿をおきましょお♪」
「さんまいおさらをおきましょー」
「スープがふたつ♪ 豆粒ひとつ♪」
「すーぷがふたつー、まめつぶひとつー」
「みんなのお腹もぐーるぐる♪」
「みんなのおなかもぐーるぐる」
「よっつのフォークで食べましょう♪」
「よっつのふぉーくでたべましょー」
「お手てを合わせて、あっという間に水ーの魔方陣♪ いただきまーす!」
「おててをあわせて、あっというまにみずーのまほうじん。できたー! いただきまーす!」
「おおー、ミウちゃん上手ー!」
「えへへ、おうたたのしいねー!」
我ながら、即興の割によくできたんじゃないか? ミウちゃんも喜んでくれたし、良かった良かった。
私は、地面に木の枝で描いた魔方陣を見て、大喜びするミウちゃんの頭を撫でながら、セヨンさんの様子を伺った。
するとセヨンさんは、鎧に魔方陣を刻む手を止め、私達の描いた魔方陣を睨んでいた。
「トンボ、その歌、どこで覚えた?」
「えっ、覚えたもなにも、即興で作っただけですよ? 絵描き歌ですよ」
「絵描き……歌? おかしい、普通、魔方陣の記号、覚えて描くの大変。なのに、トンボ、ミウ、簡単そうに描いた」
私は魔方陣を、記号の組み合わせではなく、ひとつの絵として認識していた。
それに、絵描き歌を知ってるから、どんな言葉が絵描き歌として歌い易く、覚え易いかもわかっている。魔方陣を見ながら、後はストーリーっぽく絵を決めればいいだけだった。
こっちの世界に絵描き歌が無いなら、確かにおかしく映ったかも。
「まぁ、基本の魔方陣みたいに、複雑ではないものじゃないと、歌が長くなって覚えられませんけどね」
「むぅ、そう断言されると、確かに中途半端。だけど、基本の魔方陣、知ってる、便利」
「まぁ、絵描き歌で魔方陣チートなんて、都合よくいきませんからね」
私はもう、異世界チートだなんて、調子に乗りませんよ。
料理チートだって、私が作れる料理なんて、たかが知れてる。
お菓子を作ったことはあるが、大体が一種類一度きりで、細かい作り方なんて知らないし、材料だってそれほど覚えてない。
調味料だって、醤油とか味噌の作り方なんて、知ってる訳がない。“大豆を発酵させる”とか、“麹菌”がどうのこうのと、断片的な知識しかない。
当然、知識チートだって、専門的な知識は知らない事の方が多いだろう。
所詮、私は普通の女子高生。マンガや小説みたいなチートは期待できないのだ。
あっ、泣きそう。
「ああ、でも」
私は暫しセヨンの顔をじっと見た。
「仲間チートはあるかも」
「ん?」
「いえ、セヨンさんは心強い仲間だなって」
「トンボ……」
先程の不機嫌さも吹き飛んだらしく、嬉しそうに微笑むセヨンさん。
「とんぼー! つぎのまほーじんはー?」
「はいはい、次は風の魔方陣を描いてみようか」
「ワタシも、魔方陣刻む」
木の枝を振り回し、続きをねだるミウちゃん。
私とセヨンさんは、顔を見合せひとしきり笑うと、それぞれのやるべき事に戻った。
ーーーーーーーーーー
普通の(武将系)女子高生。
女子力はお察しである。
10
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