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1章.無能チート冒険者になる
17.無能チートと撤退戦
しおりを挟む「オーク……!」
「あれが……オーク」
実験の為に、アイテムボックスから少し離れた先で、そいつらを見つけた時の、セヨンさんの動揺の仕方は、普通ではなかった。
ファンタジーでも、魔物として敵対することの多い、オーク。
見た目は、鋭い上向きの牙が生えた猪の頭が、毛に覆われた太めの人間の身体に付いた、私の知っているオークそのままの姿だった。
それが2体。互いに死角を補うように、周囲を警戒しながら歩いていた。
「トンボ、オーク、こっち、まだ気付いてない、街戻る」
「そんなにヤバイ魔物なんですか?」
セヨンさんの囁き声に、私もできるだけ小さな声で返した。
「オーク武装してる。あれ普通じゃない」
「普通じゃない?」
「いま話してる暇ない。戻る優先」
「わ、わかりました」
確かにオークは、その身に皮の鎧を着け、1匹は、手に矛先が金属の槍を持っいて、もう1匹は、同じく金属性のこん棒(メイス?)を持っていた。
セヨンさんは、どこか焦った様に、いつもより早口で喋った。それを聞き、私も何かがおきている事を悟り、素直に従うことにした。
その時、オークが鼻をひくつかせ、顔をいろんな方向に向けはじめた。
「風向き変わった! トンボ、撤退! 走る!」
セヨンさんの言葉より先に、オークの目が確かに、私達の隠れていた茂みに向けられた。
どうやら、あの鼻は飾りじゃないらしい。
「わかりました!」
私は返事をすると、即座に走り出した。
背後から、獲物を見つけて歓喜する、豚に似た鳴き声が聞こえた。
その見た目に反し、オークの足は速かった。
走っても走っても、差が広がらないのだ。
「追われるの、多すぎ、ませんか、私!」
「トンボ、黙って走る!」
愚痴を言いながら、陸上部で鍛えた健脚で、走り続けると、薬草を採取した所まで戻ってきた。
そこには、私のアイテムボックスを取り囲んで観察している、4人の少年少女の姿があった。
私より若いであろう彼らは、私から見ても新人だとわかる、見た目がキレイ過ぎる装備を身につけた、冒険者だった。
「逃げろ!! オークが来てる!!」
急に飛び出してきた私達に、驚いた様子で固まる新人くん達。
混乱しているのか、セヨンさんの忠告を聞いても、武器を構えることもしないその姿に、私はある決断をする。
「はやくしろ!!!」
「「「「は、はい!」」」」
再度セヨンさんの怒声が飛ぶと、ようやく我に返り、動き出した4人組は、私達の来た方向と反対側に走りはじめた。
「街に向かうんだよ!」
その背中にそう言いながら、私は逃げてきた方向、つまりオークの迫ってくる方に、身体を向けた。
「トンボ?! 何してる?! 走る!」
「島津の退き口ですよ、セヨンさん」
「なに、いってる?!」
「オークを連れてきたのは、私達のミスです! なら、彼らが逃げられる様に、時間稼ぎをしないといけません!」
「バカ! そんな事……」
私だって、本当は見て見ぬふりをしたかったし、一瞬彼らを囮にして逃げる事も考えた。
それでも! 私は昨日助けられたんだ!
「それに、“冒険者が困ってる人を助ける”のは、普通なんですよね?」
「っ……トンボのアホ! バカ! 考えなし! 帰ったら絶対説教する! 覚えてろ!」
うわぁ、セヨンさんにここまで罵られたのは、はじめてだ。ああ、でも……。
走っている時もそうだった。セヨンさんがいるだけで、心に余裕が生まれるんだ。
本当に心強い仲間だ。
「私は“捨てがまり”になるつもりはありませんよ! それに、殿は撤退戦の誉れだ! かかってこい! オーク共!」
頬を叩き、震える手足に渇を入れる。
島津の退き口では、追う側だったけど、ご先祖様(子孫ではない)! 私に勇気を御貸しください!
「来ました! まず、私が仕掛けます!」
猪突猛進。その言葉が似合う勢いで、オークが茂みを突き抜けて、向かってきた。与し易いと判断したのか、その目は私を捉えている。
確かに私の方が弱いけど、舐めんな!
「壁魔法『すねこすり』!」
先頭を走る槍持ちオークの脛辺りに、小さく分厚めの壁を出現させる。
「ブゴォ?!」
壁に、前に出そうとした足を引っ掛けられ、走る勢いそのままに、槍持ちオークは盛大に転がった。
地面に全身を打ちつけ、それでも即座に身体を起こそうとする、槍持ちオーク。
しかし、痛みからか、その動きはひどく緩慢で、私に土下座をする様な形で、差し出された頭に向かい、私は手を振り下ろした。
「『蜻蛉切り』ギロチンバージョン!」
ガラスのように透明な刃が、槍持ちオークの首に落ちた。それはまるで、断頭台にかけられた受刑者のようだった。
一拍遅れ槍持ちオークの頭が落ちた。
動きさえ止めてしまえば、私の壁魔法の切断能力なら、オークの首を落とすのは簡単だった。
しかし、槍持ちオークに止めを刺している間に、メイス持ちオークは、もう私の側まで来ていた。
でも、大丈夫!
「させない!」
セヨンさんが、私とメイス持ちオークの間に立ち塞がる。セヨンさんが守ってくれる。そう確信していた。
「フゴオォォ!」
割って入った大鎧に怯むことなく、メイス持ちオークは、その手の武器を振りかぶった。
叩きつけ。
単純ながら、メイスの重さと、オークの膂力を合わせたその一撃は、とてつもない破壊力をもって振り下ろされた。
兜の上に両腕をクロスさせ、その一撃を迎え撃つセヨンさん。
ぶつかり合う鉄と鉄。
衝撃すら伴った轟音が辺りに響く。
果たして大鎧は健在だった。セヨンさんは、膝を着くこともなく、その一撃を受けきったのだ。
流石! セヨンさん!
「でやっ!」
渾身の一撃を受け止められ、その動きを止めるメイス持ちオーク。
セヨンさんが、守ってくれると信じていた私は、すでに動いていた。
セヨンさんの横を抜け、セヨンさんとメイス持ちオークの間に壁を出現させる。
そのまま、オークの横を走り抜けながら、メイス持ちオークの首目掛け、メイスを振り下ろした腕ごと、『蜻蛉切り』を切り上げた。
頭とメイスを持った手が地面に落ち、その後を追うように、オークの身体がゆっくりと倒れた。
終わった。
そう思った途端、心臓がとてつもない速さで動いているのに気が付き、地面に座り込んでしまった。なんだかどっと疲れたぁ~。
「トンボ、ケガない?」
「大丈夫です。セヨンさんこそ、メイスを受け止めていましたけど、大丈夫ですか?」
「ワタシの鎧頑丈。中に音響いて、耳うるさいだけ、問題ない」
「ああ、確かに響きそうですね」
冗談まじりにそう言うセヨンさんに、私は笑顔で答えた。
セヨンさんにもケガがなかった様で、本当によかった。
「トンボ、戦いの音聞いて、オーク、また来るかも、速く街戻る」
「了解です。実験も成功みたいですし、薬草も持って帰りましょう」
見えない所まで離れても、戦いの最中、新たに壁魔法を使っても、残り続けた私のアイテムボックスに目を向ける。
改めてアイテムボックスを動かそうと思ったら、勝手に魔力のパス? のようなものが繋がり、浮かべて動かせるようになった。
「トンボ、オークの死体。同じように、運べる?」
「えっ? はい、やって見ます……うぷっ」
そして、地面に倒れたオークの死体を見て、私は吐いた。
戦っている間は気にならなかったけど、改めて見ると、断面とか、オークの死顔とか、かなりグロかった。
今までだって、生きるために、他の生き物を殺したモノを食べてきた。それでも、自分の意思で生き物を殺したのは初めてだった。
驚いたことに、罪悪感や忌避感は無かった、ただ、今までの人生で、“善くないこと”と教えられ、当たり前だと思っていた事を犯してしまった、拒否反応のように感じた。
これが、生き物を殺すっことか。
「……トンボ、大丈夫か?」
セヨンさんが心配そうに声をかけてくる。
一通り吐くとスッキリした。私は水筒の水で口を濯ぎ、セヨンさんを安心させる為に笑顔を向けた。
「もう、大丈夫です。冒険者として、乗り越えないといけないことでしたから」
なんとなく、今後盗賊とかに襲われて、反撃で同じ人間を殺す事になっても、もう吐いたりはしないだろうな、と感じていた。
私って案外、異常だったのかな?
なんとなくショックだったけど、この世界で、冒険者として生きていくなら、むしろ都合がいいのかなと思っておく。
「……そう、なら、頼める?」
強がりではなく、私が本当に大丈夫そうだと判断したのか、セヨンさんは納得してくれた。
「了解です。『トンボ式アイテムボックス』」
向き直り、オークの死体を見ても、もう、吐き気は覚えなかった。グロいとは思ったけど。
オークの死体を、それぞれ2つのアイテムボックスで囲み、浮かせてみた。
オークの重さで、壁が割れないか心配だったけど、それなりの厚さにしたからか、大丈夫そうだった。
「あれっ?」
「トンボ!」
ホッと一息吐いたところで、立ちくらみを覚え、ふらついてしまった。
セヨンさんが支えてくれたので、倒れはしなかったけど、身体に上手く力が入らない。
「トンボ、それ、魔力足りない。魔力ポーション飲む」
「ありがとうごさっうぷっ……ごく……ごく……マズッ!」
私のポーチから青色のポーションを取り出し、栓を開けると、問答無用で私の口に突っ込んできたセヨンさん。
ポーションを飲んだ途端、身体に力が戻ってきた。なるほど、この戻ってくる力が魔力なのか。
凄い即効性だけど、おっちゃんの言に嘘はなかった。とんでもなく不味いよこれ。
「ぷはー、もう大丈夫です。ありがとうございました、セヨンさん」
「ん、良かった。体調心配、速く街戻る」
「そうですね。さっさとここを離れましょう」
オークを撃退した私とセヨンさんは、その死体2つと、薬草の詰まった、3つのアイテムボックスと一緒に、ラプタスの街に向かい歩きはじめた。
ーーーーーーーーーー
トンボの戦国知識は、戦国時代好きな父親の話を聞いて覚えたもので、トンボ本人が歴女と言う訳でも無いため、中途半端です。
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