無能チートで冒険者! ~壁魔法も使いよう~

白鯨

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 1章.無能チート冒険者になる

35.無能チートの帰還

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 目を開けると知らない天井が目にはいった。いやマジでどこだ?
 怠さの残る身体を頑張って起こすと、お腹にとんでもない衝撃が。


「トンボーー!!」
「ぐぼぁへっ?!」


 私のお腹目掛けて飛び込んで来たのは、目を真っ赤に腫らせたセヨンさんだった
 というか息できない! セヨンさんの馬鹿力で抱きつかれると、色々なものが漏れるし、折れる。女の子にあるまじき声を出してしまったよ!


「ゼヨンざん、ぐるじい……!」
「トンボ、倒れて、息してなくて、でも息吹き替えして、でも目覚めなくて、心配したんだぞ! すっごい! すっごい、心配したんだぞ! この馬鹿ぁ!」


 おおぅ、現実世界ではそんなことになってたんだ。
 そして、またセヨンさんを泣かせてしまった。私も罪深い女だぜ。
 その罪に対する罰なのか、息ができず私の意識は遠のいていく。ああ、光の向こうでうっかり神が手招きしてる。やめろ! 私を導くな!


「おい、セヨン! 娘っ子をまた死なせる気か!」
「う? わー! トンボ、ごめん!」
「我が人生に一片の悔い無しっ! ぐふっ!」
「ぎゃあー! トンボが死んだ!」


 扉を開けて入ってきたフィレオのおっちゃんが、私の顔色を見て即座にセヨンさんに注意をしてくれた。
 しかし時既に遅く、私はセヨンさんの叫び声を聞きながら、再び意識を手離した。




「成る程、じゃあここは、ギルドの治療室なんだ」
「うむ! 俺様は元僧侶だからな! この治療室を開放し臨時の診療所にしていたのだ! まったく、貴様が運ばれてきた時は肝を冷やしたぞ!」
 

 運ばれた時、私は既に呼吸も心臓も止まっていたらしい。しかし、急に私が光輝いたと思ったら、息を吹き返したそうだ。
 なにその神の奇跡。私も見たかった。


「俺様が診た所、外傷は無く、内蔵や魔力経路も無事だった」
「うっかり神が治してくれたよ」
「む? また神と邂逅したのか」


 良かった。うっかり神のことだから、なにかやらかしてるかと疑ったよ。


「って、俺様が診たって……まさか!」


 乙女の秘密を見たのか?!
 私は自分の身体を抱きしめ、おっちゃんにジトッとした目を向ける。


「もっとボインボインで、最低でも200センチより大きくなってから言ってくれ」


 逆に、凄い白けた目を向けられてしまった。
 解せぬ。


「大丈夫! トンボとワタシ、まだ成長する!」
「いやー、私はできますけど、セヨンさんはもう……」
「?!」


 だってドワーフはもう見た目変わらないでしょ? だからそんな裏切り者を見るような目で見られても。


「ふむ! とりあえず起き上がれるなら問題あるまい。外ではすでに宴が始まっているぞ! お前達も行ってこい!」


 おっちゃんに促されて扉を開けると、治療室の中は防音されていたのか、騒がしい音と声が聞こえてきた。


「トンボ様、お目覚めになったんですね!」
「あっ、エルティスさん、お疲れ様です」


 治療室から出ると、ちょうどギルマスの部屋から出てきたエルティスさんが、私に気付いて走り寄ってきた。
 その顔はどこかホッとした表情をしている。
 もしかしたら心配かけちゃったかな?


「当たり前です! 魔力ポーションを大量に飲んで、気を失ったトンボ様が運ばれてきた時は、気が気ではありませんでしたよ」
「すいません、私も同じ事は二度としたくありません」
「ギルドで働いていますと、依頼に出たまま帰らない方も少なくありません。ですから私は受付を完璧にこなし、冒険者の皆様が少しでも多く、生きて帰ってこれるよう努めています」


 そんな思いがあるから、エルティスさんは、サブマスなのに受付嬢をしてるんだ。
 内心納得していたら、エルティスさんに睨まれた。


「ですが、冒険者が無茶をして、勝手に死なれでもしたら、私達の無念は如何程のものか! トンボ様はわかっておられるのですか?!」
「ごっ! ごめんなさい! エルティスさん!」


 額に青筋を浮かべ、普段は出さないような声を出すエルティスさんに、思わず背筋が伸びる。
 エルティスさんは、謝る私を暫く睨んだ後、疲れたような深いため息を吐いた。


「はぁ~、今後はエルでかまいません。ただ二度と無茶はしないでくださいね」


 おお! エルティスさん……じゃない、エルさんがデレた!


「トンボ様は今回多くの冒険者の命を救いました。トンボ様の頑張りで、冒険者で命を落とした者は一人もいませんでした」
「……そっか」


 本当に、本当に良かった。


「ギルドを代表して、トンボ様には御礼申し上げます。ありがとございました。そして、帰ってきてくれて、ありがとございます。お帰りなさいませ」
「エルさん……ただいま戻りました!」


 そういえば、ギルマスはどうしたんだろうか? 

 
「新人冒険者に無理をさせ、命の危機に晒させたのですから、当然お説教の後は、今回の始末書の処理をしています」
「あわわ……」


 普段ビビりなのに、実はギルドで一番怒らてはいけないのは、エルさんなのでは?


「まぁ、今はギルマスの事は放っておきましょう。それよりも……皆様お待ちしていますよ?」
「え?」


 私はエルさんに案内され、ギルドの階段に向かう。
 先程から聞こえていた喧騒が大きくなり、ギルドのホールが見えてきた。
 すると、どこから持って来たのか、酒場だけでなく、ホールにまで円卓や椅子が用意され、冒険者達は宴会騒ぎの真っ最中だった。


「おお! トンボの嬢ちゃんが起きてきたぞー! 我らが勝利の女神に乾杯!」
「「「「乾杯ー!」」」」


 既にできあがっているロジャーが、調子のいいことを言って、ジョッキを高く掲げた。
 中身が溢れて自分にかかっても、気にすることなく笑っている。
 皆も同じように私の無事を喜び、笑顔で騒いでいる。

 私はその光景を見て、泣きそうになったんだ。
 だって実感できたから。
 誰も死なずに、済んだんだって。
 私は皆を守れたんだって。
 私は私の居場所を守れたんだって。
 その実感が、泣きたいほど嬉しかった。

 恩返し、できたかな?
 私は隣のセヨンさんを見る。
 恩返し、できたよね?
 ニコリと笑うセヨンさんの手を掴み、私は駆け出した。
 
 無能チートしか貰えなかったけど。
 もう普通の女子高生には戻れないけど。


「私達も混ぜろーーーー!!!」




 困っている人を助けられる。
 普通の冒険者に、私はなったんだ!
 




ーーーーーーーーーー

 1章完

 ここまでが、トンボが渡り人から、本当の冒険者になるまでの話です。
 これからは冒険者として、活躍していくトンボを書いていきたいと思っています。
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