無能チートで冒険者! ~壁魔法も使いよう~

白鯨

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 1章.無能チート冒険者になる

閑話.ギルマスと期待の新人(ギルマス視点)

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 最近は活きのいい新人が少ない。
 大型新人でも入ってくれれば、ギルドにも活気がでていいんだがな。
 そう思っていたら、早速活きのいい新人が出てきやがった。

 マカベ・トンボ。ちと変わった名前だが、ロジャーの売った喧嘩を買って、魔法でロジャー剣を斬ったらしい。
 しかもあの人見知りのセヨンが保護者になると言った。
 ずっと燻っていたセヨンに、良い影響を与えてくれたのかね。


 さっそくトンボがやらかした。なんと初依頼で武装したオークなんてもんを見つけてきやがった。
 しかも変わった魔法で丸ごと持ち帰ってだ。
 これは早急に領軍と対策を練らないとな。
 なに? もう面会できる? トンボが報告した門番が副団長?
 そうか、休みの日まで働いてるんだっけか。俺には考えられないな。
 お前も知ってるだろ? 
 俺はしたくて休日に仕事してるんじゃなくて、残ってるから仕方なくしてるんだ。


 あのクソ軍団長め! なにが、オーク探しは我々誇り高い領軍には相応しくないだ。
 確かに斥候は冒険者の方が得意だが、ギルドに頼む人間の態度じゃないぜ!
 領主様と同じ貴族とは思えないね。
 まぁいい、スタンピードに備えてフィレオの旦那にポーション類の大量発注をしないとな。
 また忙しくなるぜ。


 最近は冒険者達の間で、トンボの話題が出ているのをよく聞く。
 恐がらないし話やすい、さっぱりとした性格だから、可愛がる奴らが多い。
 若干愛玩動物みたいな扱いだが。
 依頼の方も、そつなくこなしていく。
 というか、何日かに分けて行う倉庫の大移動を、たった2人で、しかも1日で終わらせた。
 こいつら商人からしたら、喉から手が出る程欲しい人材だよな。
 それにセヨンが鎧を新しくして、武器を持つのを止めたらしい。
 ん? 持つのを止めたんじゃなくて鎧が武器? なんじゃそりゃ。
 なんにせよ、将来有望な新人だってことだ。


 遂にスタンピードが起きた。
 エルと共に集まった冒険者に指示を出して、俺自身も現役時代に使っていた装備を引っ張り出した。
 俺も元はBランク冒険者。しかもその中でもAランクに。
 ってなんだよ? もう何回も聞いたって? じゃあもう一度聞け。ん? 今はそれどころじゃない? 
 確かにな、じゃあスタンピードが済んだら聞かせてやる。


 トンボの奴、やりやがった。
 あいつ貴族を魔法でぶっ飛ばしやがった。
 ありえねぇ。がスッキリしたぜ。
 よくやった。
 だからフォロー位はしてやる。
 副団長なら話もわかるだろ。
 俺は部下に合図を飛ばして呼びに行かせた。
 そしたら軍団長の奴、横領していたらしく、指揮権剥奪されやがった!
 ざまぁみろ! 
 スタンピードへの対応は、副団長が指揮する領軍とすることになった。


 先ずは陣地構築だ。
 俺が指示を出していたら、トンボの奴が急に深刻そうな顔で、きつつきなる戦法を話はじめた。
 オークがそんな考えて戦うなんて聞いたことがない。
 だが、副団長はその戦法とオークに心当たりがあったらしい。
 カルロスに確認に行かせたら、本当に別動隊がありやがった。
 ここまで来るとさすがに疑問に思う。
 トンボは何者なんだ?
 いや、今はスタンピードに集中だ。
 領軍の手を借りられないとなると、冒険者にもそれなりの被害がでるな。特殊個体のオークロードがいるとなると、2割で済めば良い方か。
 そう呟いたら、トンボが走り出した。

 
 木箱を持って戻って来たトンボは、急に自分の事を渡り人だと言いはじめた。
 しかも、セヨンのやつまで信じろと言ってきた。
 そして、俺の勘も信じろと言っている。冒険者時代に、何度も世話になったこいつが、嘘を言うとは思えなかった。
 信じよう。
 

 トンボが話した作戦は至ってシンプルだ。釣り出されたオークをトンボの壁魔法とやらで殲滅する。
 変に凝った作戦より、冒険者もやりやすいだろう。
 やるか。
 俺はトンボに許可を出した。


 トンボはドデカイ壁を作り出した。
 なるほど壁魔法とは言ったもんだ。
 だが、壁でどうオークを殲滅するってんだ?
 そして気が付いた、トンボの足下に転がる大量の魔力ポーションの空き瓶に。
 死ぬ気かよ! 止めようとした俺の前に、セヨンが巨大な腕を突き出した。
 新しい鎧を作ったとは聞いていたが、こんな化け物鎧だとは聞いてないぞ!
 ミスリル製の手甲を使うセヨンを突破するのは、俺でも難しい。
 それぐらいセヨンの防御の技術は高い。だからパーティーを組んだ時は喜んだが、こういう使い方じゃないだろ!
 しかし、2人共、覚悟が決まった目をしてやがる。
 だったら好きにすればいい。だが、俺を冒険者をみすみす死なせたギルドマスターには、しないでくれよ。


 それは、伝説の中の光景だった。
 巨大な魔方陣が宙に浮かび上がり、徐々に光を帯びていく。
 魔方陣がオーク達を覆い、一際強く輝いた。
 そして、全てのオークを巻き込んだ、炎による浄化がはじまった。
 炎の魔法を防ぐには、魔方陣を刻んだ、炎に耐性を持った装備を身に着ければいいが、それでも炉の中に入れる訳じゃない。
 炎の所為で呼吸ができなくなるからな。
 そうでなくても、これだけ長く炙られたら、炎耐性なんて気休めにもなりゃしないか。
 本当にとんでもない大魔法だぜ。


 そう思ってたら、オークロードの野郎生きてやがった。
 持ち前の生命力で強引に炎の中を突っ切ってきたんだ。
 不覚。特殊個体だってのはわかってたじゃねぇか! 寝ぼけてんのか俺は! 
 間に合わねぇ、俺はそう思った。
 だが、セヨンがオークロードの剣をデカイ手甲ひとつで止めた。そして、がら空きの腹に残った手甲を叩き込んだ。
 念動は自分の筋力以上の力はでないはず。
 ドワーフの怪力つったってよ、ありゃ異常だ。
 もしかして、セヨンが武器を壊すのって、自分の力に武器が耐えきれないからなんじゃねぇの?

 
 結局、冒険者に死者はゼロだった。
 まぁ、トンボは死にかけたが、今は無事に眠っている。
 身体が光はじめた時は驚いたが、あれも渡り人だからなのかね?
 なんにせよ、これから祝勝会だ!
 あん? 新人の無茶を止められず、死にかけさせたくせに祝勝会に参加するとは何事かって?
 固いこと言うなよ。あっはい、すいません。
 ええ! マジかよ! 後生だエル、酒を少しだけでも!
 おい! なんだこの書類は! 始末書?
 冗談だろ? あっおい! エルティス!
 ちくしょー聞く耳持たずかよ。


 活きのいい新人を望んだがよ、仕事を増やせとは言ってないんだよ。
 街の中からも見えた魔方陣に対する、問い合わせの数がやべぇよ。こりゃ領主様から呼び出しくらうのも時間の問題だな。

 頼むからこれ以上俺の仕事を増やさないでくれよ! トンボ!





ーーーーーーーーーー

 セヨンさんは怪力チートキャラ。
 
 
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