無能チートで冒険者! ~壁魔法も使いよう~

白鯨

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 2章.不意討ちの祭と風の試練

2.不意討ちの領主邸

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「トンボ、本当に、いいの?」


 テーブルを挟んで、向かいに座っているセヨンさんが、上目遣いで心配そうに聞いてきた。
 

「いいんですよ、別に私達が会いたい訳じゃないんだから」


 セヨンさんが、心配していることとは、昨日ギルマスから言われた、領主との面会があるのに、領主に会わず、猫の目亭で昼食を取っているからだろう。
 正確には会いには行ったのだが、すぐに引き返してきたのだ。

 だって、領主邸前の門で止められて、セヨンさんのマジックバッグとか、私のナイフとか、預かりたいって。
 防犯とか考えれば理解できるから。それはいい。
 でも、“これを着けていただかなければ、領主様に会わせることはできません”って、身に着けると魔法を使えなくなる魔道具の着用を、要求してくるんだもん。
 そりゃあ拒否して帰ってくるよ、そこまでして会う必要性ないからね。


「いたー! おいトンボ! なんで領主様の所に行っていない?!」

「ギルマス。だって相手が私に、魔封じの魔道具を着けさせようとしたんだよ? 信用してませんって、言ってるようなもんじゃん」


 だったらこっちも信用しないよ。
 無力化されて、利用されたらたまったもんじゃないし。

 わざわざ猫の目亭まで来たギルマスに、そう言って説明した。
 すると、よく知る顔がギルマスの後ろから顔を覗かせた。


「すみませんトンボさん。お怒りごもっともです。しかし、あの門番は噂を聞いて、領主様の為にと自主的にあのようなことをしたらしく……」

「……マナンさんまで来たんだ、噂って?」


 副団長自ら来るとか、冒険者ギルドも領軍も暇なのかな?


「どうしてそうなる……それだけお前が、通常では信じられんことをしたんだよ!」

「噂とは、トンボさんが軍団長を魔法で攻撃した件です。貴族相手でも関係なく攻撃する狂犬のような冒険者だと……」


 なんと! そんな根も葉もない噂が!


「噂、間違って、ない」

「二つ名を『狂犬』に変えるか?」


 クソッ! ギルマスもセヨンさんも、2人して好き勝手言って!
 へいへい、私が悪うございました。


「いえ、噂は所詮噂です。私も領主様にはトンボさんは敵対しなければ優しい女の子だと、お伝えしていましたから。今回の件は領主様の命ではなく、本当に門番の独断だったのです。副団長の私が出てきたのも、領主様が今回の不幸な行き違いに対する誠意だと思ってください」

「流石マナンさん! よくわかってる!」


 ささくれだった私の心に、マナンさんの優しい言葉が染み渡る。
 そうだよね、私優しい女の子だよね。


「マナンさんがそこまで言うなら行きましょう! ただし、魔道具は無しで! そこは譲れませんよ」

「ありがとうございます。当然ですね、武器の類いも身に付けたままで結構との事です」


 おお、中々太っ腹じゃない、領主様。
 そうして私とセヨンさんは、改めて領主邸に向かうことになったのだ。
 別れ際、ギルマスが「責任問題にならなくてよかった」と心底安堵していた。


 そして戻ってきた領主邸。
 マナンさんに案内され中に入る。
 門を通る際、私に魔道具を着けようとした門番が慌てて頭を下げてきた。どうやら色々注意されたみたい。
 領主邸の中は広く、正に豪邸と言った風情であった。
 というか、当たり前のようにメイドさんがいるよ! マジもんのメイドが!


「領主様、マナンです。『グル・グルヴ』のお2人をお連れしました」

「入ってくれ」


 私がメイドさんに興奮している間に、領主の居る部屋にまで来ていたらしい。
 マナンさんが「失礼します」と言って、扉を開けてくれる。
 私達はそのまま、扉を押さえてくれているマナンさんの前を通り、中へ入った。
 部屋の中はギルマスの部屋の様な、執務室兼応接室の作りになっていた。当然こっちの方が豪華だけど。
 

「取り敢えず座ってください」


 執務机から、そう声を掛けられた。
 柔らかく若々しい声だ。
 声の主は、金髪碧眼の30代前半の様な見た目のイケメンだ。
 この人が領主かな、結構若いんだな。
 もっと髭の生えたおじさんを想像していたので、少し驚いた。
 
 声に従いソファーに座っておく。
 男がこちらに歩いてくると、対面に腰掛ける。
 マナンさんは扉を閉めると、男の座るソファーの後ろに立った。護衛も兼任してるのかな?


「はじめまして。ラプタス領主、レオナルド・ラプタスと申します。今朝は私の通達が行き届いておらず、不快な思いをさせてしまい、すみませんでした」

「へ?!」


 なんと、領主のレオナルドさんは、貴族なのに平民の私達に頭を下げてたのだ。
 私の中では貴族=軍団長だったので、いきなりの低姿勢に私は変な声を出してしまった。


「貴族が簡単に頭を下げるのが不思議ですか?」

「まぁ……そうですね」


 私の内心を見透かしたような。
 いや、社交界で他の貴族相手に腹の探り合いとかやってるなら、私の様な小娘の心など、実際見透かしてるんだろう。


「簡単な話です。スタンピードの時に私も見たのですよ、あの壁の向こうで輝く魔方陣を……そして、冒険者ギルドから提出された報告書と、部下に調べさせた貴女の人となり、それらを鑑みた結果、決して敵対すべきではない。という結論に至りました」


 この世界には個人情報の保護とか無いのか!
 でも、領主としては当然なのかな。


「素性の知れない新人冒険者が、いきなりオークの軍勢を殲滅させる程の魔法を使ったのなら、警戒するのは当たり前かと」

「そう言っていただけるとありがたいです」

「でも、囲いこんだり、利用しようとは思わなかったんですか?」


 敵対する気は本当になさそうなので、この際気になったことを聞いてみる。


「別の領の話ですが、過去に同じような事例がありました。その時は囲いこもうとした貴族家は、その冒険者本人によって爵位の剥奪がされるまで報復を受けたそうですよ」


 どこかで聞いたような話だ。
 さてはSランク冒険者の話だな。


「貴女個人にしても、街の中であの魔法を使われたら、ラプタスの街は半壊するかもしれません」

「そんなことしませんよ?」

「それも敵対しない限りは、ですよね」


 冒険者も仲良くなった街の人も、皆住んでる街を壊す事なんてしないよ。
 やるならこの屋敷だけにするよ。
 そんな私の内心を読んだのか、柔らかい笑顔だったレオナルドさんの頬がひくついている。


「な、なんにせよ、私達に敵対の意思はありません。今回はその表明と元軍団長の処罰について説明をしようかと」

「軍団長……」


 あの時の軍団長の言葉を思いだし、自然と顔が強張る。


「勿論! 貴女を罰するつもりはありません! しかし元軍団長は、私の父の代に彼の実家の貴族家から預けられた者なのです。投獄などすれば、その貴族家との関係が悪化してしまいます。彼の実家はうちの領と隣り合う領にあり、嫌がらせに関税などが上げられると、困ってしまうのです」

「つまり、謹慎を解いて軍団長の座にもどすと?」


 貴族同士のやり合いに平民を巻き込まないでよ。とは思うけど、見栄を重視する貴族ならそんなもんか。


「いえ、初犯であることを鑑みて、マナンを軍団長にして、元軍団長を団長補佐の役職を新たに作り、実権のない事務的な仕事を与えるつもりです。元軍団長はあれで事務処理能力は高いですから。それに本人的にも今回のことは堪えたみたいですよ」


 あの軍団長がねぇ。本当かな?


「マナンさん出世おめでとうございます。元軍団長の処分についてはわかりました。それで街の皆に迷惑がかからないなら私はそれで構いません。ただ、元軍団長に伝えてください」

「なんと、ですか?」

「……次はないって」


 これは元軍団長だけでなく、レオナルドさんやマナンさんにも向けているつもりだ。
 しっかり見張ってくださいねって。


「わ、わかりました。では本日はありがとうございました」


 また笑顔がひきつったレオナルドさんと、挨拶をしてソファーから立ち上がると、扉の向こうから、どたどたした足音が近いてきた。


「お父様! 英雄様が来てるって本当ですの?!」


 そんな事を言いながら扉をぶち開けて、金髪ドリル娘が入ってきた。





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 この前はじめて『ダ・ヴィンチ・コード』見ました。
 おもろかったよ。
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