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2章.不意討ちの祭と風の試練
3.不意討ちの意味
しおりを挟む扉を開けて入って来たのは、私と同い年位の、レオナルドさんと同じ金髪碧眼の女の子。泣きぼくろがセクシーだ。
なによりの特徴が、そのドリルのようにカールされた髪型だった。
「サナトリア、今は来客中だよ。先ずは謝罪と挨拶を……」
「これは失礼いたしました。わたくしレオナルド・ラプタスが一子、サナトリア・ラプタスと申します」
「私は冒険者パーティー『グル・グルヴ』のマカベ・トンボです。隣に居るのがパーティーメンバーのセヨン・カルーアです」
ちなみにセヨンさんは、領主邸に入ってからフリーズしてしまっている。
セヨンさんにとって、貴族の家に招かれるのは、相当緊張する事らしい。
右手と右足を同時に出して歩いてたよ。
「まぁ! では、貴女様が英雄様でしたのね!」
「英雄様?」
「オークロードの戦略を見破った慧眼。オークの軍勢を殲滅せしめた魔法。冒険者の犠牲を是としなかった高潔な精神。正に貴女は英雄と呼ばれる人間でしょう!」
鼻息荒く、ぐいぐいと迫ってくるサナトリア。しかし、その目が微妙に冷めているように見えた。
それに、私は自由を愛する冒険者なんだよね。英雄はお呼びじゃないんだけど。
「それが事実であれば、ですけれど」
「ふ~ん」
一転値踏みするような視線を向けるサナトリア。
「そういう訳でわたくしと戦ってくださいませ! 英雄様!」
「どんな訳だいサナトリア?! お客様に失礼な事を言うんじゃない!」
とんでもない事を言い出したサナトリアに、レオナルドさんの怒声が飛んだ。
しかし、当の本人は涼しい顔をしている。
「あら、わたくしはお父様が恐れる英雄様が、どれだけ戦えるのか、実際の所が知りたいだけですわ」
成る程、つまりサナトリアは、英雄と持ち上げてるけど、本当に私にその価値があるのか、自分の父親が下手に出る必要があるのか、知りたい訳だ。
サナトリアから見ると私は、街を守った英雄であると同時に、父親を困らせる厄介者にも見えるのかもしれない。
どうりで冷めた目をしているはずだ。
「私は構わないよ」
「なにを?!」
「それでこそですわ!」
私が応じると、親子で正反対のリアクションをする二人。
「別に模擬戦をするだけでしょ? 大丈夫、結果がどうなろうと、領主様と敵対する気はないよ」
ちょっと試したいことがあるし、身内の為に動く子は好きだしね。
「流石は英雄様ですわね! では早速、庭に出てでやりましょうか」
「あぁ、どうしてこんなことに……」
こめかみをお腹を押さえて嘆くレオナルドさんを、マナンさんが支える。
そのまま私達は領主邸の庭まで、全員で移動した。
さすが豪邸。改めて見ると庭も広かった。
来客用のガワだけでなく、奥には実用に向いた訓練用の広場もある。
これなら模擬戦もできそうだ。
「ここはお父様にお願いして作っていただいた、わたくし個人の訓練場ですわ」
「そういえばサナトリアさんは、どのくらい戦えるの?」
「お嬢様は学園で、勉学だけでなく、魔法、剣術、においても主席を取るほどの腕前です。冒険者に例えるなら、Cランクの冒険者と同等には戦えるかと」
マナンさんが、自慢気に私の質問に答えてくれた。でも、その例えは気にくわない。
だってCランクといえば、セヨンさんと同じで、私より上って事でしょ?
確かにマナンさんの話を聞く限り、ただのですわ口調のお嬢様ってだけじゃなさそうだ。
でも、セヨンさんと同等はない。
「あら? そこはBランクの実力はあると言ってくださいまし」
「ははは、笑わせよる」
その大言壮語、私が吐けなくしてやる!
「武器は刃を潰した物を使用します。ルールは、そうですね、大きな怪我を負わせる攻撃は禁止で、相手を無力化させるか降参させれば勝ち。これでどうでしょうか?」
「追加で、武器を相手に取られるか、破壊されても負け、っていうのを追加しない? 大きな怪我を負わせずに無力化ってのは難しいし、降参しないと言い続ければ負けないとか、面倒でしょ?」
「確かに貴女の魔法は、オークの軍勢を殲滅するほどの魔法らしいですしね、いいでしょうそのルールも追加しましょう」
笑いそうになるのをこらえ、一番大事な確認をしておく。
「そういえば、サナトリアさんは私の二つ名って知ってるの?」
「? すみません、英雄としか聞いていませんので、冒険者としての名声は存じ上げておりませんわ。教えていただけるのですか?」
ニヤリ。
おっと、こらえきれず、思わず笑ってしまったぜ! まだ付いたばかりだから仕方ないよね!
レオナルドさんもまだ知らなかったのか、首を傾げている。
唯一私の二つ名を知っていたらしいマナンさんが、サナトリアに教えようとするのを、私は人差し指を口に付けて、黙っているように牽制する。
「戦えばわかるよ。ちなみに私はDランク冒険者だよ」
私がそう言うと、サナトリアの私に対する警戒度が明らかに下がった。
「まぁ、英雄のごとき活躍をしても、評価はされないものなのですね」
メイドさんに持って来させた、様々な種類の訓練用の刃を潰した武器から、サナトリアはレイピアを手に取った。
私は重すぎず軽すぎない、手頃なサイズの片手剣を手に取った。
そして、互いに少し離れて向かい合った。
「マナン、合図を……」
何か言いたげなマナンさんが手を上げる。
サナトリアがレイピアを静かに構えた。
応えるように、私も片手剣をそれらしく構えて見せた。
冒険者の戦い方、教えてやる!
「はじめ!」
「秘技、『ゴブリン殺し』!」
マナンさんが、手を振り下ろした瞬間、私は手にした武器を、思い切りサナトリアに向かってぶん投げた。
異世界に来て、はじめて戦ったゴブリン相手に使った『不意討ち』だ。
「なっ?!」
それなりの重さで勢いよく飛んでくる武器を、レイピアで弾くのは至難の技だ。
サナトリアは、勢いよく飛んでくる武器を咄嗟に避けるしかない。
「そら! 壁魔法『すねこすり』!」
「むぎゃ?!」
避けた先で突然足下に現れた壁に、足を取られたサナトリアがそのまま転んだ。
私がはじめて殺したオークと同じ状況だ。
「『蜻蛉切り』ギロチンバージョン!」
だから同じように、私は蜻蛉切りを繰り出した。
ただし、サナトリアの首にではなく、サナトリアの持つレイピアに向かって。
「はい、私の勝ちー!」
ぶい! とマナンさんがにピースサインを送る。
それを受け、マナンさんが再び手を上げた。
「勝者! トンボさん!」
「くっ! こんなの認められませんわ!」
マナンさんが下した私の勝利宣言に、レイピアの柄だけを持って、地面に座り込んだサナトリアが待ったをかけた。
「なんで? 私はルールを遵守して、貴女の武器を破壊したのに?」
「そ、それは! そうですけれど……」
「まぁいいよ、もう一度やってあげる」
「えっ?」
私がそう言うと、怪訝そうな顔をするサナトリア。
しかし、私だってまだ試したい事ができていないのだ。
「ほらっ、立って武器持って!」
サナトリアは立ち上がり、新しいレイピアを手に取り、先程と同じ場所で構えた。
レイピア何本あんだよ! 得意武器だから在庫が多い? そうなんだぁ。
「次は油断しません!」
「本番に次は無いんだよ、だから冒険者はいつも楽しく笑ってるんだよ。後悔しないようにね」
私が教えてあげると、サナトリアは悔しそうに唇を噛んだ。
それでも、目の奥の戦う意思は萎えていない。
この負けん気の強い所は嫌いじゃない。
「私は武器はいらないよ」
「その余裕、後悔いたしますわよ!」
「では……はじめ!」
マナンさんが合図をだす。
「『猛る火のマナよ、焔の弾となり、彼の者を』くっ!」
魔法を使おうとしたサナトリアの顔面に向けて、私は剣の腹で叩くように、作った壁を振るった。
先程の経験を生かし、今度はしっかりと壁魔法を避けて見せたサナトリア。しかし、詠唱が止まってしまう。
冒険者は動いたり、避けたりしながらでも詠唱できるように訓練する。って、先輩冒険者が教えてくれた。
学園とやらでは教わらないんだろうか。
「ほらっ、足元注意!」
「んなっ?!」
と言いつつ、レイピアを持つ手を叩く。
一度転ばされたことで、目が足下に向いてしまったサナトリアは、叩かれた拍子にレイピアを取り落とした。
「敵の言葉を鵜呑みにするな! ほら、今度は頭!」
「あがっ?! もう! なんなんですの!」
次は宣言通り、サナトリアの頭上に出した壁を、タライ落としのように頭にぶつける。
いい具合に翻弄されながらも、落ちたレイピアを拾ったサナトリアが、離れているのは不利と判断したのか、私に接近しようと走り出そうとした。
「残念そこは、壁魔法『ぬりかべ君』がいる!」
「なんですの! この邪魔な壁は!」
私の壁魔法は普通に出した場合、ガラス位の強度しかない、だが裏を返せば、ガラス位の強度はあるのだ。
加速がつく前に、目の前に壁ができれば、そのまま割って進む勢いが足りず、ぶつかって止まるのだ。
更に、突きに特化したレイピアでは、脆い壁でもそう簡単には壊せない。
「はははっ! 魔法は出される前に潰す! 接近戦はそもそも近づけさせない! 相手の嫌がる事をする! これぞ兵法の基本なりぃ!」
「もっと正々堂々戦いなさーい!!」
くくくっ、負け犬の遠吠えが心地よいぞ!
うん、悪役にでもなった気分だ。
でも楽しいから良しとする。
私はサナトリアが降参するまで、そうして邪魔をし続けた。
私の確かめたかった事も確認できたしね。
「くっ! こんな……!」
「これで私の2連勝!」
「貴女は! 先程のような戦い、英雄として恥ずかしくないのですか!」
負け犬サナトリアが、私に文句を言ってきた。負けた癖にそういう事言って、恥ずかしくないのかな?
「むきー!」
「はははっ! ごめんごめん、からかい過ぎたね! でもさ、そもそも私は英雄じゃないの。普通の冒険者だよ?」
「ですが!」
なおも食い下がろうとする、サナトリアの言葉を手で制し、私は続けた。
「オークの軍勢を殲滅したのだって、冒険者の皆が危険な囮をしてくれたからだし、あの時に使った魔法はマジで命懸けだし、オークロードからはそこにいるセヨンさんが守ってくれたしで、私一人じゃなにもできなかったよ」
私の言葉に、庭にいた人間の視線がセヨンさんに集まり、更にカチカチに固まるセヨンさん。
ヤバい可愛い。
「それにさ、オークの軍勢は私が居なくても、冒険者だけで十分殲滅できたの。私は冒険者に犠牲が出るのが嫌だし、困っていた皆を助けたかっただけ。それは英雄だからじゃなくて、冒険者だからなの。わかった?」
「そうなのですか?」
「そうなの! だから、私は冒険者らしく戦うんだよ! 私の二つ名は『不意討ち』のトンボ、だからね」
「ふ、不意討ち……」
私の二つ名を聞いたサナトリアの顔が、面白いように固まった。
そして吹き出した。
「くっ、ふふふっ、おーほっほっほっ!」
なんと! サナトリアはあのお嬢様笑いをしはじめたのだった! しかも手の甲を頬に当てながら。
ドリルヘアといい、お嬢様笑いといい、レベル高いなぁサナトリア。
「なら、あの戦い方も致し方ありませんね。冒険者の強さ、改めて実感致しました。わたくしの敗北ですわ、マカベ様」
どこかスッキリした顔で、敗北を認めたサナトリア。
「トンボでいいよ、サナトリアさん」
「わたくしのことは、サナとお呼びくださいまし」
うん、実は期待してた。サナトリアって長いんだもんね。
「まぁ、ふふふっ」
「今日から私達は友達だね!」
「いいんですの?」
「私の母が言ってたよ、真剣に殴り合ったら友達だって!」
「そ、そうですの。随分ユニークな方ですのね……でも、嬉しいですわ! よろしくお願いしますわね、トンボさん!」
私とサナは握手を交わし、友達になったんだ。
異世界ではじめて、同年代の友達ができたよ!
「そうだ、セヨンさんも紹介するね! って、いつまで固まってるの! セヨンさーん!」
「ワタ、ワタシは、グル、グルのセ、セセッ、セヨンで、す。りょ、領主さ、さまにおかれ、おか、ましては、ほ、本日は晴天なり」
「まだその段階?!」
その後、なんとかサナにセヨンさんも紹介して、私達の領主邸訪問は終わった。
レオナルドさんは、なんとも言えない顔をしていたけどね。
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不意討ちが効く同格と格下相手には、滅法強いトンボであった。
目指せタイトル詐欺!
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