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2章.不意討ちの祭と風の試練
1.不意討ちの二つ名
しおりを挟む「お前、今日からDランクに昇級な」
スタンピードの祝勝会から数日。
療養中という名目で、まったりごろごろと惰眠を貪っていた私に、ギルドマスターから呼び出しがあった。
なんだろうかとギルドにやって来た私は、すぐにギルマスの部屋に通された。
そして、部屋の中で待ち構えていた、スキンヘッドの強面男のギルマスが、開口一番そう通告してきたのだ。
「それマ? 流石は私! もう昇級だなんて、最年少最短記録なんじゃね?」
「あ? マ? なんだそりゃ。それも渡り人の言葉か?」
おっと、思わず女子高生だった頃のクセがでてしまったな! 私はもう冒険者だけど!
しかもDランク冒険者だけど!
「よくわからんがウゼェ! それに、最年少最短記録は、Sランク冒険者のひとりが、冒険者ギルドに登録可能な10歳で、登録翌日にはBランクになったのが、そうだったはずだ」
まーたSランク冒険者かよ。チート系主人公はどっかいってくれませんかねぇ。
「まぁ、そう不貞腐れるな。お前の功績を考えると、Cランクに上げてもいいんだが、盗賊なんかの討伐実績がないと、Cランクには上げられんのだ」
「あー……そういうやつかぁ。言葉を喋る奴が相手でも、怯まず倒せるかを見るため?」
「そうだ、よくわかったな」
前の世界で読んだマンガで、見たことある設定だからね。
「でも、最短記録では1日でBランクになったんでしょ?」
「初依頼の薬草採取の帰りに、貴族の乗った馬車を襲う盗賊団を倒したんだとよ」
本当に主人公してるな。それで馬車の中には女の子が乗っていて、婚約者になったりしたってか?
「初依頼でオーク2匹倒した奴が何言ってんだか。それにしても、よく貴族の婚約者になったなんて話知ってたな」
「マジなのかよ?! 私も貴族のパトロンとか後ろ楯とか欲しい! 羨ましい!」
「ほう、貴族の後ろ楯が欲しいと」
「うっ……」
なんか、ギルマスの目が怪しく細められた。なにか嫌な予感が。
「まぁ、盗賊の討伐を達成したら、Cランクに昇級してやる。ちなみにセヨンもCランクに戻す事になったから、お前達『グル・グルヴ』のパーティーランクもCに上がる。受けられる依頼も増えるから、これからも頑張れよ」
「お、おう、でも、セヨンさんのランクが戻るのは嬉しいね! 私もさっさとランクを上げてお揃いになるぞー!」
やけにあっさり話題を戻したギルマスに、身構えていた私は若干拍子抜けしてしまった。
しかし、そんなことよりも、私の所為でランクを落としたセヨンさんが、無事元のランクに戻ったことを喜ぼう。
「もうひとつ、いい知らせがあるぞ?」
「おっ? なになに?」
だから、見たこともない清々しい笑顔を向けてくるギルマスの違和感に、私は気が付かなかった。
この時点で、さっさと帰ればよかったのに。
「領主様がお前に会いたいとさ。喜べ、領主様は貴族だぞ?」
「きょ、拒否権は?」
「あると思うか?」
うわー! 行きたくなーい!
軍団長の件とか、スタンピードの件とか、詮索されて、追及されて、監獄行きか、利用されるかしちゃうんだー!
「安心しろ、領主様はいい人だよ」
「その人物紹介は信用ならないよ!」
いい人なんて、他人に都合がいい人なんだよ? 私に都合がいいかはわからないじゃん!
それに、あの軍団長を採用していた訳でしょ? やっぱり信用ならないよ。
「とにかく、これは決定事項だ。頼んだぞ、『不意討ち』のトンボ」
「は? 今なんて言ったの?」
「詳しくはロジャーにでも聞いてみろ。領主様には明日伺うと伝えておく。もちろんセヨンも一緒で構わない」
「ちょっと? 聞いてる?」
「じゃあな!」
そのまま私はギルマスの部屋から、追い出されてしまった。なんだったのあれ?
仕方がないのでギルマスの言っていた人物に話を聞いてみることにした。
ギルドの2階から大きな声でその名を呼ぶ。
「ロジャー! ロージャー!」
「なんか用か?! てか、犬みたいに呼ぶんじゃねぇ!」
「うわっ、もうできあがってるよ」
ロジャーは、冒険者登録しに来た私に絡んできた冒険者で、『獅子のたてがみ』というパーティーのリーダーをしている男だ。
出会いの経緯もあり、私のロジャーに対する扱いは、基本的に悪い。
取り敢えず、ギルマスの言っていたその名前を呼んでみた。すると、ギルド併設の酒場から返事があった。
声の方へ行くと、まだ昼頃だというのに、顔を赤らめたロジャー達『獅子のたてがみ』が、ジョッキを掲げて挨拶してきた。
「よう、トンボ嬢ちゃん! スタンピードでの働きでCランクに戻れたからな、そのお祝いだよ。昼間から酒飲めるなんて、サイコーだぜ?」
「そりゃおめでと。でも、駄目な大人の典型だね。まぁいいや、ギルマスが『不意討ち』って私のこと呼んでたんだけど、なんか知らない?」
「おっ聞いたのか? トンボ嬢ちゃんの二つ名だぜ? 羨ましいねぇ!」
「は? 二つ名?」
なんと! いつの間にか私にも二つ名がついていたらしい!
それにしても『不意討ち』って。
「……カッコ悪い。もっと良いのなかったの? 『勝利の女神』のトンボとかさ」
「ぎゃはははは! 勝利の女神って柄かよ! 笑わせんじゃねぇや!」
「お前が最初に言い出したんだろ! そもそも『不意討ち』って、バラしちゃいけないやつ! 名乗った時点で「あっ、コイツ不意討ちするんだ」ってわかっちゃうやつ!」
なんで不意討ちなんだよ! 私不意討ちなんて……。
そういえば、最初のゴブリンも、ロジャーに絡まれた時も、不意討ち気味だったかな? それに、セヨンさんとの模擬戦でも、スタンピードでも、不意討ちをした気が……。いやいや、不意討ちだって立派な戦術。
それもこれも、私の壁魔法が不意討ちじゃないと使えないからだよ。
これも全部うっかり神が悪い。
「他にも『絶壁』のトンボなんて二つ名もあるぜ?」
頭を抱える私を見て、ロジャーが追加情報を教えてくれた。
なんだよ、カッコいい二つ名あるじゃん!
「『絶壁』かぁ。壁魔法使うから壁の文字がついたのかな? それとも皆にとって私が、越えられない壁になってしまったという畏怖から来てるとか?」
私が納得していると、ロジャーが変な顔で笑いを堪えたていた。
なになに? なんか私変な事言った?
「フィレオのおっさんが言ってたんだよ、“トンボは正に『絶壁』であった”ってな。ぷぷっ」
そう言ったロジャーの視線は、私の胸に向いていて……。
あぁそういえば、スタンピードで倒れて意識を失った時に、おっちゃんが診てくれたんだっけ?
あれ、つまり、これは……?!
「うわぁぁぁ! 個人情報ー! 乙女の秘密ー! あのクソ巨人なんてことを!」
おっちゃん殺すおっちゃん殺すおっちゃん殺すおっちゃん殺すおっちゃん殺すおっちゃん殺すおっちゃん殺すおっちゃん殺す!
「いやぁ、おっさんもなかなかに上手い事言うよなぁ! 二つ名だけに二つの意味が込められてるとか! ぎゃはははは!」
「「「「……………」」」」
ロジャーがそう言った瞬間、ロジャーの笑い声だけを残し、酒場がシンと静まりかえった。
普段なら追従して爆笑する『獅子のたてがみ』のメンバーですら、沈黙し顔をそらしている。
周りからは「あいつ勇者なの?」「いいや、自殺志願者だろ」「ドラゴンの尾を踏みに行く、ある意味勇者だがな」「ロジャー、良い奴だったよ」なんて言葉が聞こえてきたけど、私の関心は目の前で笑うクズ野郎と、腐れ道具屋にどう生き地獄を見せるかにしか向いていなかった。
「なぁ? 楽しいか?」
「そりゃお前、たのヒィッ!」
私はロジャーの髪を掴み、無理矢理こちらを向かせる。
ロジャーと目が合った瞬間、息を飲むような悲鳴がその口から漏れた。
私は楽しそうに笑っていたはずだ。
「私もこれから楽しむよ……お前でなぁ!」
「やめ、ぎぃやあぁぁぁ……!!」
楽しい処刑のはじまりだ。
結局、不本意だが私の二つ名は『不意討ち』で落ち着いた。
今後、私を『絶壁』と呼ぶ奴は、誰であろうと、いま私の足下に転がるゴミグズのようにしてやる。
そう心に決めた。
ーーーーーーーーーー
2章スタートしました。
感想で出していただいた『絶壁』の二つ名も、その通り使わせていただきました。
連続する台詞にも1行間を空けるようにしたのですが、見やすくないならもどします。
見やすいなら、過去の話も同じ改変をします。
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