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第二章 箱庭の発展と神の敵対者
4.白と黒の管理者
しおりを挟む「君達に集まって貰ったのは他でもない。遂に箱庭を本格始動させる時が来たからだ!」
冒険者ギルドから戻った私は、明日の領主邸訪問の準備をしてから、箱庭のログハウスの前に箱庭の住人全員を集め宣言した。
「本格始動って……今までかなり発展させて来たとに?」
早速セヨンから予測していたツッコミが入る。
「それはあくまで“ガワ”だけだ。箱庭には肝心なものがないだろ……」
そう、この箱庭世界にはあるものが足りないのだ。
私も何度か言っていたが。
「この箱庭には、生き物が足りないんだよ!」
「……ここまで環境ん種類ば増やして整えたんも、多種多様な生き物ば放す為か……納得」
セヨンのリアクションが薄い。
もっとこう、「な、なんだってー!」みたいなのを期待してたのに。
「しかし、今の段階では生き物に必要な肝心なものが不足している」
『肝心なもの……ですか?』
『わかった! 食べ物っすね!』
「いや、はじめに生き物ん種類と生息域ば限定すりゃ、コタローが栽培しとった植物で十分賄えるはずばい」
最近食う喜びを覚えたカルデラが、直ぐに思考を胃袋に直結させるが、セヨンに否定されている。
「この箱庭には昼夜の概念がないんだ。私が操作すれば変えられるけど、“夜になれ”……ってな具合に」
『よるだー! おほしさまがきれー!』
『ーーん!』
みんなの前で実際に夜にして見せる。
ちなみに箱庭世界の夜に出ている月と星は映像で本物じゃない。
どうやって確認したかって?
空を飛んで上昇しまくってたら、透明な壁に頭ぶつけて落っこちたからだ。
あの時は死ぬかと思った。
「……そんな訳で、今から管理者を追加したいと思う」
「昼夜と生き物ん管理ばさせるんか?」
「ん? 生き物は管理するもんじゃないだろ? 住みやすい環境は創るけど、後は好きに生きさせるさ。私達は基本見守るだけだ。まぁセヨンが畜産したいなら止めないけど……」
「うーん、過保護なんか、そうやなかとか……わからんなぁ」
人間として介入する事はあるだろうが、神としては放任でいいだろう。
事ある毎に神様が出張って頼りにされても困るし……。
神頼みなんて人事を尽くしてからするもんだ。
「まぁ、特定エリアを任せる予定はないけどな。性質を考えれば、ある意味箱庭全体が管理エリアみたいなものになる筈だし」
「昼夜ば司りどこにでんある存在……管理者にするんは六属性ん残り、光と闇か」
「そうだ。どこにでもあるなら、見守る目としては最適だろ?」
フィレオのおっさんの言じゃないが、見守る目は多い方がいいからな。
『あたらしい子がふえるー!』
『ーーん!』
「ばってん、何ば管理者にするったい? またうちが魔法生物ば造るんか?」
「本来は私もそうするつもりだったが……ちょうどいい物がある」
ずっと“追加”をどうするか考えていた所に、冒険者ギルドでロジャーから面白い話を聞いてしまったのだ。
私はポーチから二つの物を取り出した。
「“生きた魔石”って言われてるんだろ……これ」
「それは……ダンジョンコア!」
生きている。
つまり魔法生物に近いなら、管理者にもなれるだろう。
ちょうど二つに別れているんだから、光と闇それぞれの管理者にしてみようじゃないか。
「元々神様が壁魔法の権限を使用できるように創った物だから、壁魔法との親和性は抜群だ」
「面白か! 早速やってみよう!」
うんうん、セヨンならノッてくると思ったぜ。
『おい、あれは大丈夫なのか?』
『知らないっすよ、心配ならコタローの姉貴が止めてくださいっす』
『馬鹿者、ああなったお二人を私が止められる訳なかろう』
『なら自分はもっと無理っすよー』
『大丈夫ー、なるようになるよー』
『ーーん』
なんかペット達がこそこそ話しているが、丸聞こえである。
「大丈夫、一応考えてあっての事だ。それに、いざとなったら再び真っ二つで四等分にしてやるさ」
コタローは純粋に心配してくれているだけだろうから、安心させるように笑って答える。
ペット達はそれを受けて頷きを返す。
「……じゃあ、いくぞ?」
念のためセヨン達には離れてもらい、地面に置いたダンジョンコアに手を向ける。
「ダンジョンコア……お前に新たな役目を与える! お前を今日からこの箱庭の光と闇の管理者に任命する!」
私は権限の一部をダンジョンコアに譲渡する。
瞬間、地面に置かれたコアが浮かび上がり、まるで鼓動を打つように明滅しはじめた。
鼓動を一つ打つたび、昼と夜が入れ替わる。
そして明滅が一層強くなり、ダンジョンコアが砕け散った。
それぞれ光と闇の粒子になったコアが集まり、二体の人形を形作った。
光の粒子は金髪ロングの快活そうな女の子に。
黒の粒子は黒髪ショートの眠たそうな男の子に。
髪型や服装は違っているが、顔の造りは全く一緒の双子の様だ。
『ボク、爆・誕、なのだ!』
『僕も生まれ変わりました』
白のロリは白いゴスロリに王冠をかぶった骸骨のぬいぐるみを持ち、元気に決めポーズ姿で。
黒のショタは黒い半ズボンにベストと蝶ネクタイでピシッと決め、礼儀正しい言葉使いで。
光と闇の管理者が現れたのだ。
『ふはははは! 人間共、ボク達を恐れ頭を垂れろー!』
『それで僕達の糧になれるんですから光栄ですよね』
スゲー尊大な態度。
しかもこれ、なんか死王の思想に染まってないか?
どうするかと私が頭を悩ませたその時、私の背後から放たれた一条の水線が、白黒双子の頭を掠め地面に小さくも深い穴を穿った。
『ひょえ!』
『あわわ!』
いきなりの事に、思わず悲鳴を上げてへたり込む双子。
『仲よくしないとダメだよー』
やったのはもちろんピンだ。
ピンは管理者を兄弟家族だと思っており、喧嘩等を嫌う。
少し前、コタローとカルデラがおやつの奪い合いをした時も、二匹を頭だけ出した状態で水の塊に閉じ込める、通称水団子の刑に処していた。
ああ見えてかなりのスパルタなのだ。
『ボクはダンジョンコアなのだぞ!』
『元だがな』
『神様に創られた至高の存在ですよ』
『姐さんは神っすけど』
『『ううう~!』』
「どうやらダンジョンコアやった時ん記憶はあるごたーなあ」
どうやらダンジョンコアはダンジョンマスターの影響を受けるらしい。
白い方は死王っぽいぬいぐるみ持ってるし。
「お前らは人間が嫌いなのか?」
『ひょえ~! き、嫌いって答えたらまた……』
『もう真っ二つは嫌ですよー!』
お互いに抱き合い、プルプル震え出す白黒双子。
あー、当然私が真っ二つにした記憶も残ってんのか。
「あん時は悪かったな。ダンジョンを消す方法を他に知らなかったんでな……それに、もう真っ二つにする気はねぇよ」
流石に子どもの姿をした奴にそんなことするのは後味が悪すぎる。
『……ふ、ふはははは! ボク達の作戦は大成功なのだ!』
『やはり子ども相手に無体はできないみたいですね』
「へぇ、じゃあセヨンみたいに見た目がガキなだけで中身は別か」
『『…………あ』』
「あんまり“おいた”が過ぎると、お仕置きしちゃうぜ?」
『ひょえー!』
『ご、ごめんなさい!』
うーん、軽いジョークのつもりで言ったんだが、完全に私がトラウマになってんな。
仕方ないから、ちょっと物で懐柔してみるか。
「よし! おやつにすんぞ」
『おやつっすか! やったーっす! いやー、実はずっと姐さんからスゲー美味しそうな匂いがしてて、思わず噛りたくなってたっす!』
「おい! 怖ぇーこと言うな!」
喜んでくれるのは嬉しいが、カルデラにそのままバクリといかれたらシャレにならん。
『おやつだと?! 知っているぞ! 食べ物の事なのだ!』
『うん、ダンジョンで冒険者が、おやつって言いながら何か食べてました』
ダンジョンでおやつって……どんな冒険者だよ緊張感ねぇな。
『そいつら、おやつ食べたら凄い幸せそうな顔してたのだ!』
『ダンジョンポイントも増加しました』
白黒双子はおやつに興味があるのか、恐る恐る私に近付いて来た。
そして顔を寄せて匂いを嗅ぎはじめた。
『確かにお姉ちゃんから、なんか良い匂いがするのだ!』
『これが美味しそうな匂いですか』
うおっ! お姉ちゃんだって!
さっきまで怖がっていた私に抱きつきながら、匂いをふんふん嗅いでくる双子。
ヤベー、一気に可愛く見えてきた。
「どれどれ……ふんふん、確かになんか甘か匂いがする。最近嗅いだことんある匂いばい」
遂にセヨンまで寄ってきて、ドラゴンと子ども三人にまとわりつかれている図になっている。
「エメト、悪いけど石のテーブルと椅子を作って、ピンはキッチンのオーブンからおやつ出して皿に移して持って来てくれ」
『ーーん』
『はーい!』
二匹に指示を出すと素早く動いてくれる。
エメトは《土操作》で、あっという間に大理石みたいなピカピカのテーブルと椅子を作ってくれ、ピンは家の中におやつを取りに行く。
「ほら、井戸の水で手を洗って席に着け。そうすりゃおやつの時間だ。コタローとカルデラは分身喚んどけ」
『もう来てるでござる!』
『自分もっす!』
分身と味覚の共有もできるので、食費削減の為二匹には分身での食事をお願いしている。
まぁ、本体は本体でコタロー菜園で取れた物を仲良く味見してるけど。
井戸は昨日家を建てた後で掘り、セヨンに手押しポンプを付けて貰ったのだ。
「はえーよ……じゃあ準備ができたらおやつにすんぞ」
『はーいなのだ!』
『わかりました!』
子どもらしい元気な返事をする白黒双子。
コタローがそうだったように、肉体に精神は引っ張られるらしい。
自由に動く肉体を得た今尚更だ。
「全員席に着いたな。じゃあ手を合わせて」
『こ、こうなのか?』
『手を合わせる……』
私の真似をして手を合わせる白黒双子。
「いただきます」
『いただきますなのだ!』
『いただきます』
今日のおやつは卵を使わず作ったクッキーだ。
さすがに何時取れたかわからない卵を使う勇気は無かった。
だが、クッキーは砂糖を少なくして、甘さ控え目に作ってある。
なぜならメインはクッキーではない。
『この赤いの、甘くて美味しいのだ!』
『これが甘味! ほのかな酸味も初めてです!』
「そう、それが箱庭産の苺ジャムだ。美味いだろ?」
甘さ控えめクッキーにジャムを乗せて食べる事で、香ばしいクッキーと苺ジャムが合わさり、無敵の組み合わせになる。
箱庭の魔力をたっぷり吸い、一粒ずつしっかり育てた苺だからこそ、メインを張れるのだ。
「美味いもの食うと嬉しいし、楽しいだろ」
『うん! ボクおやつ好きなのだ!』
『はい! 僕も気に入りました!』
パクパクとクッキーを口に運ぶ双子。
口元がジャムでベトベトだ。
「その感情もダンジョンポイントになるんだろ?」
私は双子の口をハンカチで拭いながら話を切り出した。
『そうなのだ! 人間の感情がダンジョンポイントになるのだ!』
『恐怖だけでなく、喜びも糧になります』
「私に真っ二つにされるかもって恐怖するのと、美味しいおやつ食べて喜ぶの、お前らはどっちが良かった?」
『……おやつの方がいいのだ』
『……僕もです』
「だろ?」
子ども相手なら、言葉だけじゃ中々伝わらない。だから先ず体験させてやるのが一番なのだ。
だてに親戚同士の集まりで毎回ガキ共の世話してねぇぜ。
「今後この箱庭には生き物が増えていく。だが、私はそれを恐怖で支配する気はない。むしろ楽しく笑ってられる場所にしたいと思っている」
『『………………』』
「今までの事や死王の事を忘れろとは言わねぇけど、お前らはもう自分の足で歩いて、自分の言葉を喋れるんだ。私が色々楽しいこと教えてやるから、一緒に箱庭を創ってみないか?」
ダンジョンコアとしてずっと一ヶ所に留まり、死王や冒険者の事しか知らなかったんだから、今後は私が教えてやればいい。
『確かに……お姉ちゃんと一緒の方が楽しそうなのだ!』
『うん、僕もお姉さんと楽しい場所を創りたい!』
美味いものを食べ、生きる楽しみを一つ知った白黒双子は、恐怖より喜びを優先してくれた。
一時はどうなることかと思ったけど、説得できて良かったぜ。
それじゃあいつもの、いってみよー!
「なら、お前らに名前を与える! お前はソル、お前はナル、今日から光と闇の管理者だ! よろしくなソル、ナル!」
ラテン語で太陽をソル、月をルナと呼ぶ。
ルナだと女の子っぽいので、逆さにして双子っぽく“ル”で終わるように合わせたのだ。
『ボクの名前はソル!』
『僕の名前はナル』
『『よろしくなのだ(お願いします)! お姉ちゃん(さん)!』』
「おう!」
『ぼくもー! よろしくねー!』
『ーーん!』
『菜園の手伝いも期待しているぞ!』
『自分にも後輩ができたっす!』
『仲間がいっぱいなのだ!』
『みんなで一緒も楽しいですね』
ペット同士も和やかに挨拶をしている。
しかし、人型の生き物をペットと呼んでいいものなのか……。
まぁ、大まかな括りはペットって事でいいや。
「話がまとまって良かったなトンボ」
「セヨン……お前も口元ジャムだらけだぞ」
私がいい話をしている間も、一人クッキーを食い続けていたの見てたぞ。
私に指摘され、慌てて口元を拭うセヨン。
「…………そげんことより、ソルとナルんステータス見てみぃ。とんでもなかぞ」
「ステータス?」
私はセヨンに言われるまま、『ステータスボード』越しに、先輩達に胴上げされてはしゃぐ双子に目を向けた。
○ソル ライトエレメントコア・メス 285歳
職業・トンボの従魔
スキル
《光操作lv3》《状態異常無効》《迷宮作成(生物召喚)》
称号
《光の管理者》《箱庭の住人》《ダンジョンコアの欠片》
○ナル ダークエレメントコア・オス 285歳
職業・トンボの従魔
スキル
《闇操作lv3》《状態異常無効》《迷宮作成(物品召喚)》
称号
《光の管理者》《箱庭の住人》《ダンジョンコアの欠片》
やっぱりあったか! 《迷宮作成》スキル!
実は少しだけ期待していた部分もあったのだ。
ダンジョンコアを使えば魔物の召喚が可能で、元々ダンジョンコアと壁魔法は同じもの。
それはつまり、壁魔法でも生物を創るのが可能になるって事だ。
しかし、私の《壁魔法》のレベルでは、まだ生き物は創り出せない。
「だがこれで、ダンジョンポイントがあれば生き物召喚しまくりだな! 物品召喚ってのも気になるけど!」
「……トンボは、はじめからこれば見越して管理者にしたんか」
確かにダンジョンコアを管理者にしたら、ダンジョンコアの権能を引き継いだりしないかなぁ、なんて考えて管理者にしたんだが。
見事に企みが成功したのだ、なんか裏技みたいな方法だけど。
「さぁ、これで箱庭を本格始動できるな!」
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