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第二章 箱庭の発展と神の敵対者
5.領主邸訪問と新たな妹分
しおりを挟む世の中そんなに上手くは行かないもので。
生物召喚には大量のダンジョンポイントが必要だったのだ。
しかもダンジョンポイントは初期値にリセット済み。
昨日はソルとナルの歓迎会と、召喚リストの確認だけで終わった。
生物召喚のリストには魔物以外にも、牛や鶏など普通の生物もあった。
ギリギリ召喚できるのが微生物だけだったのを知り、神様によるテコ入れがあったのだろうと察した。ぐぬぬ……。
しかし、微生物だけでも召喚できたのは僥倖だった。
これで川に生き物が棲めるようになったのだから。
ポイントと生き物の交換レートがぶっ壊れているので、生き物は地道に捕まえて来るのが一番って結論は出た。
物品召喚は罠から魔道具まで、様々な物を召喚できるらしい。
ダンジョンポイントをとんでもなく必要とするが、神級魔道具すら召喚できるみたいだった。
それを知ったセヨンが奇声を上げていたな。
私のオーダーだと、私が詳しい構造を知らない物は創れないが、物品召喚はそれと関係なく召喚できるので、便利っちゃ便利だが。
ソルには悪いがあまり活用する機会はないかも。
それこそ箱庭の中にダンジョンでも創らない限りは……。
っと、考え事をしてたら着いたな。
「でっけー門だな。流石領主の邸宅」
やはり領主ともなると、これぐらいのお屋敷に住まないと格好が着かないのだろう。
「すんません。フィ……領主様から依頼を受けた、冒険者のトンボっすけど」
私は門に立っていた門番に話しかけた。
「話は聞いています。念のためギルドカードを確認させて下さい」
「はいよ」
私は門番にギルドカードを渡す。
門番はギルドカードを確認すると、辺りを見渡してから聞いてきた。
「従魔も一緒に来ると聞いていましたが?」
「マジックハウスの中にいる」
「それはまた珍しい物を……わかりました。今人を呼びますので少々お待ちを」
言うと門番は懐からベルを出して一振りした。
すると、リンと澄んだ音が響いた。
ベルの音で人を呼ぶのか?
いや、庭も広いし屋敷まで距離があるから聞こえないだろ。
「ようこそおいでくださいましたトンボ様。私ラプタス家の執事長を務めさせて頂いておりますムートンと申します」
いつの間にか、白髪の整えられた口髭とオールバックのナイスミドルが立っていた。
来ちゃったよ。
しかも執事でムートンって、ダジャレかよ!
「ど、どうも。トンボだ……す」
「ふふ……では、ご案内いたします」
くっ、笑われてしまった。なんだ“だす”って!
にしてもムートンさんカッケーな。
声も渋いし、所作の一つ一つが堂に入っていて、ファンだった海外の映画俳優に似てるんだよなぁ。
ムートンさんに応接室まで案内される。
領主邸が広すぎて案内が無かったら迷子になるレベルだ。
私の家何十個分だよ。
応接室に着くと、ギルドの数ランク以上も高級そうなデカイソファーとテーブルがあり、そこで待つよう言われた。
ムートンさんはフィレオのおっさんを呼びに行ったらしい。
待っている途中、本物のメイドさんが紅茶とお茶菓子を持って来てくれ、少しテンション上がった。
これが萌えってやつか?
「おお来たか! 待っていたぞトンボ! ……何をしておるのだ?」
私がお茶菓子をポーチに放り込んでいると、フィレオのおっさんがやってきた。
その後ろにはムートンさんも一緒だ。
「あー、持ち帰りたいなら、幾つか包ませるが?」
何故かフィレオのおっさんが憐れみの目を向けてきた。
「おい、勘違いすんな。うちのペットに分けてただけだ」
「そうだったな! トンボはマジックハウス持ちであった! ならばムートン!」
「はい、トンボ様の分と従魔の分、新たにご用意いたします」
おっ、ラッキー。
実は最初は一人で食おうとしたんだが、ポーチから視線を感じて渋々分けてたんだよ。
食いしん坊が増えた分、私の取り分が確実に減ってるからな。
「で? 娘ちゃんは?」
「今は勉強の時間でな。悪いがもう少し待っていてくれ」
確か五歳だったな。
幼稚園の年長組か小学一年生って歳で勉強か。
地球では普通だったけど、普通の学校がないこの世界だと、五歳で勉強なんて貴族や商人の子ども位しかしない。
貴族の娘ってのも大変そうだ。
「それより聞いたぞトンボ」
「なにを?」
「昨日あの後、鍛冶ギルドにも顔を出してな。報告書だけでは不明な点をモヒートから聞いて来たのだが、ガンボ村を半砦化したことだ」
「……ガンボ村は自衛意識高いなぁ。凄いなぁ」
「馬鹿者。全部聞いておるわ」
チッ……あの爺さん、余計なこと喋ってないだろうな。
「なんでも昨日のスライムとゴーレムが作ったとか……?」
「ピンとエメトは特殊個体だから色々できるんだよ。見た目は小さいけど強いぞ」
「その二体量産はできんのか?」
「二匹はカルーア工房のセヨンに作ってもらったんだけど、偶然できたらしくて再現性は無いらしい」
という設定だ。
じゃないと、ピンとエメトの性能を知って欲しがる奴が出てくるからな。
「ならばよし! もし量産可能であれば大勢の職人が職を失う所であったからな! 悪用する者も現れるだろうしな」
そう、ピンとエメトがいれば壁も砦も城も家も、様々な物を簡単に作れるだろう。
だからそういう設定にしたのだ。
実際に再現は不可能だしな。
「だが、トンボがいれば砦を簡単に作れる事に変わりはない。今回は不問とするが、あまり簡単に砦化しないようにしろ」
「ぬ?」
「場所によっては軍事拠点と思われ、要らぬ誤解を招く事になる。ガンボ村に関しては、ミスリル鉱床採掘拠点とするための防備強化の一環で通す予定だ」
「あー……悪い。そこら辺は考えて無かった」
そりゃそうか、砦なんて村の防衛よりも、軍事拠点として使われるもんだしな。
最悪、私が作った壁の所為で戦争勃発なんて可能性もあったのか。
「今回は不問にすると言ったろう。まぁ、どうしても悪いと思うなら、ガンボ村への視察に同行して貰おうか」
「は? また視察?」
「またとは言うが、俺様は行ったことがないしな」
「いやいや、視察するにしても普通は名代みたいなのを送るんじゃないのか?」
なに領主自ら行こうとしてんだよ。
「ミスリル採掘はラプタス領の一大事業になる。俺様自ら行かずどうするというのだ」
「そういうもんなの?」
私はフィレオのおっさんの背後に立つムートンさんに問いかけた。
「旦那様はご自分で確認しないと気が済まない質でして……」
困ったように微笑むムートンさん。
どうやら色々苦労しているらしい。
「またガンボ村か……」
でも箱庭に放つ生き物を確保するのに、あの村は最適かもしれないな。
「向こうで自由時間くれるなら引き受けよう」
「いいだろう。正直、ロジャーとモヒートから、行く先々でトンボは何か起こしてきたと聞いているから、次は何が起こるか楽しみだな」
「ひとをトラブルメーカーみたいに言うんじゃねぇ!」
断ればよかったか?
私が早速後悔しはじめたその時、応接室の扉がノックされた。
「おとーさま、リリーナです。お勉強終わりました」
「おおリリー! 入ってよいぞ!」
鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえ、フィレオのおっさんが勢いよく立ち上がる。
扉を開けて入ってきたのは、金髪碧眼のお人形さんみたいな子だった。
ワイルドなフィレオのおっさんから、こんな美少女が生まれるなんて、生命の神秘だな。
ちょこちょこと、ドレスの裾を踏まないように歩く姿はとても微笑ましい。
そんな娘ちゃんをフィレオのおっさんが抱き上げ頬擦りしはじめた。
「よくぞ勉強を頑張った! 偉いぞリリー!」
「おとーさま、お髭が痛いです」
キャッキャと嫌がりながらも楽しそうな娘ちゃん。
その姿を私が見ているとパッと目が合った。
私が手を振ると、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「お、おとーさま、降ろしてください!」
「む? もうか? いつもならこのまま大回転「おとーさま!」……わかった」
強めに言われたフィレオのおっさんは、渋々と言った様子で娘ちゃんを降ろした。
娘ちゃんは乱れた髪などを直すと、またちょこちょこと歩き出し、私の前までやってくると。
「失礼いたしました。わたくしはリリーナ・フォン・ラプタスと申します。以後お見知りおきを」
カーテシーっていったか。
ドレスの裾をつまんで、とても五歳児には見えない程、優雅で丁寧な挨拶をしてくれた。
「これはご丁寧にどうも。私は冒険者のトンボだ。よろしくなリリーナ」
「は、はい! お噂は聞いております! あと……できればリリーとお呼びくださいトンボ様」
後ろ手に組み、モジモジと身体を揺すりながら上目遣いでそんなことを言うリリー。
なんだこれ、本当に私と同じ生き物かよ。
可愛すぎんだろ。
「私も様は抜きでいいぞリリー」
「そ、そんな畏れ多い!」
「……よくそんな言葉知ってんな。でも、普通は私の様な一般人が、リリーみたいな貴族様に使うもんだろ。さっきからやり取りが逆なんだよな」
「うむ! 昨日モヒートから聞いた話をしてから、ドラゴン以上にトンボに憧れを抱いたらしくてな!」
「またあの爺さんかよ!」
「巨狼を駆り、友を救うため単身ダンジョンに乗り込むと、瞬く間にダンジョンを攻略して友を救いだした冒険者……とか?」
うわぁ、子どもが好きそうな物語だなぁ。
絵本化待ったなし。
出版社は? モヒート出版? よし潰そう。
「はい! カッコいいです! じ、じゃあ、トンボお姉様って呼んでいいですか?」
ぐはっ! お姉様だとぉ?!
昨日からソルナルに続いて、お姉ちゃん、お姉さん、お姉様のスリーコンボじゃないか!
なんだ、私は今日死ぬのか?
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姐さんはちょっと……。
「……トンボお姉様?」
「はっ! いやスマン、ちょっとトんでた。ま、まぁトンボお姉様で構わない……ぞ」
「赤くなっておるな。さてはリリーの可愛さにやられたな!」
「うっせぇ! そんじゃあ依頼に移るが……フィレオのおっさん、リリー連れて庭に出てもいいか?」
「む! 何故だ?」
「どうせならただ顔合わせるより、思い切りふれあう方が良いだろ?」
普通の貴族令嬢には滅多にない機会なんだから、存分に体験させてやろうじゃないか。
「成る程な! ならば中庭へ行くぞ!」
私のそんな思いを読み取ったのか、楽しいこと好きそうなフィレオのおっさんもノッてきた。
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