箱庭世界の壁魔法使い ~神様見習いはじめました~

白鯨

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第二章 箱庭の発展と神の敵対者

7.神の軌跡

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「ムートンさん。ここにテーブルとイスを用意できます?」

 私は隣に立つムートンさんに尋ねた。

「どのような用途でしょうか?」
「おやつにしようと思ってね。ティータイムってやつ?」
「では、ここで奥様とリリーナ様がお茶会をする際に使っている、円卓と椅子を持って来させましょう。紅茶と菓子の用意も……」
「今日のおやつは何かわかります?」
「はぁ……? 今日のおやつはマフィンだと聞いておりますが……」

 丁度いいな。
 マフィンにお土産のジャムはよく合うだろう。

「ならよろしくっす」
「かしこまりました。聞いていましたねメリー、すぐに用意を」
「は、はいぃ!」

 へろへろの千鳥足で戻ってきたメイドさんに、容赦なく指示を出すムートンさん。
 メイドさんは文句も言わず、屋敷の中へ入って行った。

 メイドさんはメリーっていうらしいけど、ムートンにメリー。

「もしかしてメリーさんって、ムートンさんの娘さん?」
「よくわかりましたね。確かにメリーは私の不肖の娘です」
「名前の由来とかあるんすか?
「古来より優秀な従者の名前はムートンかウール、女性ならメリーかラムと言われておりまして、私の名も娘の名もそこから頂戴しました」

 メリーさんの羊かよ。
 やっぱり、執事と羊のダジャレだったよ。
 古来よりって事は、これ神様の仕業だよな。

 私も箱庭で優秀な執事の事をセバスチャンって呼んでれば、こんな風に残るのかな。

 ムートンさんと会話しながら、領主親子を見守る。
 フィレオのおっさんが三回転ひねりをしはじめた頃、メリーさんの準備も終わった。

「ピン! そろそろ二人を降ろしてくれ!」
『はーい!』
「む、もうおしまいか?」
「楽しかったです~!」

 リリーの為のふれあいタイムなのに、フィレオのおっさんの方がエンジョイしてんじゃねぇか。

「おやつの時間だから、手を洗って席に着け。水はピンが出してくれるから」
「ふーむ、水魔法も使うとはピンは便利だな」
「お家にも一匹欲しいですね」

 二人ともあまりスライムが出す水とかに忌避感は無いらしく、素直に手を洗っている。
 乾燥はコタローにお願いした。

 席に着くと、ムートンさんとメリーさんがテキパキと用意を整えてくれた。
 すでにテーブルの上には紅茶とマフィンが置かれている。

「トンボお姉様とお茶会ですね!」

 ニッコリと可愛い笑顔を見せてくれるリリー。
 その顔をもっと笑顔にしてやろう。

「これお土産な」

 私はポーチからお土産の箱庭産瓶詰め苺ジャムを取り出した。

「それは……ジャムか?」
「紅茶に入れるのですか?」
「それならば新しい紅茶を用意いたしましょう」

 紅茶にはジャムを入れて楽しむ種類のものがある。
 いわゆるロシアンティーってやつだ。
 ジャムの風味が残るように、クセの少ない茶葉を選ぶのが基本なので、ムートンさんが紅茶を淹れ直そうとしてくれる。

「いや、大丈夫だ。ジャムはマフィンにかけて食べるんだよ」
「む? 俺様、甘過ぎるのは苦手なのだが……」
「わ、わたくしは……いただかせてもらいます」

 私の言葉を聞いた途端、フィレオのおっさんが顔をしかめた。
 リリーも気を使っているのがバレバレである。

 それもそのはず。
 この世界のジャムは超が付くほど甘いのだ。
 
 土壌や気候など土地的な理由もあるだろうが、とにかく苺の酸味が強くて、ジャムにするなら砂糖をアホ程使う必要があるのだが。
 その所為でジャムは甘過ぎ、基本的に紅茶に入れる位にしか使われない。

 私がこの世界のジャムをはじめて食べた時は、甘さでしばらく胸焼けが続いた位だ。
 だからリリーもフィレオのおっさんもジャムが好きではないのだろう。

 砂糖はそこまで高く無いが、決して安くも無い為、甘い果物はそのまま食べて、酸味の強い果物は肉料理のソースやジャムにされる訳だが。
 当然ジャムなど値が張り、貴族位しか使わないものとされている。
 
 じゃあなんでジャムが廃れず、貴族が無理してでもジャムを食べるのか。
 それはまぁ、神様の仕業なんだよなぁたぶん。

 この世界には、神様が残してきたであろう知識が随所に遺されている。
 技術や技法、それにレシピなどの調理法。
 あとはムートンさんの名前みたいな逸話とか。

 恐らく神様になる前、今の私みたいにまだ人間として活動していた頃に遺したものだろうが、それらの知識は創世記から伝わり続けた神聖なものとされ、ジャムもその一つとされているのだ。

 そんな訳で格式高いものを好む貴族にとって、ジャムを使ったロシアンティーは見栄を張るには丁度いいんだろう。

 セヨンからこの創世記の話を聞いた時は、この街に来てから思った技術のちぐはぐさ、妙に進んだ文化と発展途上の文化の差に納得がいったけどな。

 この街では普通に紙とか使うし、セヨンとの会話で察していたけど、活版印刷の技術もありそう。

「フィレオのおっさんも食ってみろって。うちのジャムは美味いぞ」
「むぅ……トンボがそこまで言うのならば」
「旦那様!」

 マフィンにジャムをかけたフィレオのおっさんが、マフィンにかぶりつこうとした瞬間、ムートンさんが焦ったように大声を出した。

「よい、トンボは毒など入れぬよ。それはお前もわかっておるだろう」
「私もトンボ様が毒を盛るとは思っておりませんが、別の誰かが毒を混入させる可能性はありましょう」

 ああ、毒味とかあんのか。
 スゲーな貴族。そして怖いわ。

 私はジャムをかけてマフィンを一口食べる。
 出来立てマフィンの甘い香りと、苺ジャムの風味が合わさって最高だな。

「美味……このマフィンって屋敷の料理人が作ってんの?」
「はい、料理長は菓子類にも精通しておりますので…………トンボ様ありがとうございます」
「構わないよ、貴族は大変だな」
「うむ、俺様に恨みを抱いている者もおるのでな……って! 美味いぞ! なんだこれは!」

 話ながらマフィンを口にしたフィレオのおっさんが叫ぶ。
 貴族のクセにマナー悪いな。

「……本当です! 甘いですが砂糖のくどい甘味ではなく、苺本来の爽やかな甘味が口に広がりますね」

 こっちはこっちで本当に五歳児かよって食レポを披露してくれたリリー。
 しかもリリーの奴、フィレオのおっさんが食って、本当に美味しいのか反応を見てから食ってたぞ。
 流石は貴族令嬢。強かだねぇ。

「今まで俺様が食べてきたジャムと、何故こんなに違うのだ……レシピ自体が違うのか?」
「いや、作り方自体は間違ってねぇよ。まぁ砂糖の量はがっつり減らしたけどな」
「しかし、これは苺だろう? 酸味のかなり強い果物で砂糖を大量に使わねばジャムにならんと聞いたが?」
「私とコタローで育てた苺だからな。甘いんだよそれ」

 神様は食にこだわりがあったのか、結構な数のレシピを残していて、ジャムも作り方に問題はなかった。
 酸味に合わせて砂糖の量は増えていたみたいだけど……根本は食材の問題だった。

 苺が甘くないから、くどくなるほど砂糖を入れるのだ。
 恐らく神様がいた頃は管理も行き届き、苺も甘かったのだろう。
 だが、時間と共に場所によっては苺の味にムラができるようになった。
 だから苺の甘味を引き出す効果的な農法は、後世に遺されなかった。

「うちの苺は厳選して育てたから甘いんだよ」
「厳選?」
「苺が育ってきたら、小さい実なんかを摘むんだよ。そうすると残された実に栄養が集中して、甘く大きな実に育つんだ」

 摘果だか摘花とかって言ったか。
 テレビのにわか知識だが、コタローと一緒にやってみたら甘い苺が出来たのだ。

 まぁ、うちの箱庭は管理が行き届いているからって可能性もあるけどな。

「ほぉ~! そんな事で甘い苺ができるのか! 面白いものだな!」
「トンボお姉様は物知りですね!」
「私の故郷じゃ、よく使われる技法だからな。気に入ったなら、二瓶ほど置いていくよ」

 私は追加の瓶詰めジャムを二つムートンさんに手渡した。 

「一つはムートンさん達使用人用な」
「よろしいので?」
「構わんだろう。ムートンよ貰っておけ」
「ありがとうございますトンボ様」

 頭を下げるムートンさんの後ろで、メリーさんが小さくガッツポーズをしていた。
 食べてみたかったんだな。

 お茶会は和やかなまま終わった。
 ちなみにお菓子はペット達の分もあり、ピンとエメトは自分達の分をソルとナルに持ち帰る事にしていた。
 二匹とも優しい兄貴分だよ。
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