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第二章 箱庭の発展と神の敵対者
8.カルーア工房の新商品?
しおりを挟む「おやつも終わったし、次はエメト先生の工芸コーナーだ」
おやつ休憩も挟んだので、次のふれあいコーナーに移る。
「工芸ですか?」
「陶芸と言ってもいい。皿とかカップとか、粘土で好きに作るんだよ」
「ほう、面白そうだな」
「本来は窯で焼いたりするが、エメトがいれば窯なしで固めてくれるぞ。陶磁器もどきだな」
窯で焼いて行う水分飛ばしや融解させてガラス質にする工程を、エメトは《土操作》で再現する事ができるのだ。
私のペットの中でも、《操作》スキルを一番繊細に扱えるのがエメトだ。
伊達に芸術家やってないってね。
「ですが……それだとリリー様のお召し物が汚れてしまいませんか?」
「私の薬草石鹸があれば泥汚れもピッカピカだぞ?」
メリーさんが心配そうな顔をしたが、そこら辺も考えてある。
いざとなったらピンとエメトに頼めば染み抜きは楽勝だしな。
「薬草石鹸ですか?」
「そう、薬草から抽出した薬液を混ぜた手作り石鹸。ポーションには肉体を復元しようとする効果があるだろ? あれって実は他にも不純物を浮かせて取り除く効果もあるんだよ。じゃないと傷口に着いた汚れごと再生しちまうだろ?」
「そう……なのですか?」
「私も寡聞にして存じ上げませんでした」
従者組も揃って知らなかったらしい。
まぁ、余りに余った薬草の活用法を考えて、セヨンと一緒に色々実験した事で判明したからな。
薬草は普通みんなポーションにしちまうし、知らなくて当然か。
「まぁそういう効果があるんだよ。だから、汚れの性質に関わらずよく落ちるし、美肌効果もあったりする」
「それは凄いですね!」
「わたくしも使ってみたいです!」
「トンボは料理だけでなく、石鹸も作れるのか」
「幅広い知識をお持ちですね」
美肌効果に女性陣が食い付いた。
リリーはまだ五歳だけど、女の美容に歳は関係無いからな。
セヨンは美肌より、薬草の副次効果に食い付いてきて張り合いなかったし。
「うーん、じゃあリリーとメリーさんに一つずつプレゼントしようか」
また今度追加で作らないと。
私は成長しないから美容は無駄だけど、これは気分の問題だ。
実際、薬草の爽やかな香りは気持ちいいしな。
しかし、結構反響あるならカルーア工房で商品化してみるか?
「本当ですか!」
「ありがとうございますトンボ様!」
商品化は追々考えるとして、今はこの笑顔が見れただけでも作った甲斐があるってもんだ。
「と、脱線したけど陶芸をはじめるぞ。エメト用意を」
『ーーん』
エメトが手を上げると、芝生を突き抜けて大理石の作業台と椅子が生えてくる。
「なんだこれは?!」
「心配すんな。芝生は避難させてあるから、後で元通りになる」
「そこではないわ! くっ、こんな質のよい石、王城の建材でしか見たことないぞ……!」
エメトがさわり心地や見た目にこだわって作ったのだから、それは良い物に決まっている。
「ほらリリー座れ」
「はいトンボお姉様!」
「待て待て、俺様もやるぞ!」
「じゃあエメト頼んだ」
『ーーん』
リリーが座わると、フィレオのおっさんも席に座った。
それを見届け、エメトが今度は地面から柔らかい粘土状の土を取り出し、二人と私の前に置いた。
石英などをエメトがブレンドした、耐久性に優れ、完成した時に見た目も良い粘土だ。
「これが磁器の元になる。回してくれエメト」
私が言うと、粘土が回転しはじめる。
エメトが操作して回しているだけだが、これで轆轤いらずだ。
「見てろ? カップを作るなら、粘土の中心から指で、作りたいカップの形をなぞるように指を押し付けていく。急いで形を整えようとすると崩れるからゆっくり、摘まむように延ばすんだ」
解説しながら簡単なカップを作って見せる。
取っては後付けだ。
旅行先でよく親父に連れられて陶芸させられたから、私は結構手馴れている。
二人の粘土も回してやらせてみる。
「難しいです」
『ーーん』
「むぅ……上手くできん」
リリーは自分用のカップを作りたいらしいが、手が小さいから形を作るのも一苦労だ。
今はエメトが手伝い、形を整えている。
フィレオのおっさんは……花瓶か?
一応、ツボみたいにすぼんだ形は難しいから、皿とか広がっていく形の物を作れってアドバイスはしたんだが、逆に負けん気に火が点いたらしい。
「何故だ! 何故かくしゃっとなってしまうぞ!」
「だから諦めろって……」
「いやだ!」
何度もやり直すフィレオのおっさん。
面倒なのが私が手伝おうとすると、全力で拒否してくるのだ。
陶芸教室とかでもいるんだよな、こういう何でも自分がやらないと気が済まない奴。
気持ちはわからないでもないけど、やられる側になるとウザい。
リリーは成形を終わらせ、今は釉薬を塗り、絵付けに入っている。
釉薬を塗ると発色が良くなるし艶も出る。
形はオーソドックスなカップだが、はじめてにしては上出来だ。
描いている絵は……百合の花か。
リリーにちなんだのかな。
「できましたトンボお姉様!」
「うんうん、上手く出来たな」
リリーのカップは絵付けも終わり、エメトに固めて貰って完成した。
絵も拙いながらも一生懸命さが伝わるし、本当に良い出来だよ。
「服に汚れは無いみたいだな」
「エメト様が防いでくれました」
『ーーん』
気遣いができるゴーレム。
流石エメト、男前だぜ。
「じゃあ手を洗ったら、次はコタローに乗ってみるか?」
「いいんですか?!」
話に聞いていた巨狼に乗れるのは、リリー的にはかなり嬉しいらしい。
テンションもアゲアゲだ。
ピンに水を出してもらい、薬草石鹸で一緒に手を洗う。
石鹸を泡立てると薬草の爽やかな香りが広がった。
「良い香りですね。目を閉じると森の中にいるみたいです」
リリーは本当に五歳なのか?
さっきから感想が大人っぽすぎなんだが。
「手もスベスベです」
うっとりと自分の手を見つめるリリー。
五歳児に元々肌荒れも何もないだろうに。
「おいでコタロー!」
『はっ! 来たでござる!』
おやつタイムが終わってから、カルデラと一緒に日向ぼっこしているコタローを呼ぶと、一瞬で移動してきた。
「リリーを乗せてやってくれ」
「お、お願いしますコタロー様!」
『いいでござるよー!』
コタローが伏せをしたので、私がリリーを持ち上げて背中に乗せてやる。
「わっ! わっ! 高いです!」
「コタローが魔法で補助してくれるけど、しっかり掴まってろよ」
「は、はいっ!」
「よし、コタロー頼んだ」
『行ってくるでござる!』
コタローは慣らしで軽く走り始めた。
《風操作》で押さえているから、リリーが落ちる事は無いのだが、慣らし運転ってやつだ。
「わぁ~! 凄い! 凄いですよおとーさま!」
「うむ! 良かったなリリー!」
徐々に加速していくコタローに、リリーは大はしゃぎだ。
「ぬあっ! またくしゃっとなったぞ!」
リリーに返事をするために余所見をした所為で、また成形に失敗したフィレオのおっさん。
このおっさんも懲りないねぇ。
「もうそれでいいじゃん。花瓶がその形に成りたくて成ったんだからさ……それも趣深いだろ?」
「これは花瓶ではなくエールを飲むジョッキだ」
「…………悪い」
「……それが趣と言うのなら、もう花瓶でよいか」
ついにフィレオのおっさんもあきらめた模様。
エメトに頼んで乾燥させ、釉薬を塗り始めた。
「今日はリリーが世話になったな」
手を止めチラリとこちらに視線を寄越すおっさん。
「どっちかって言うと、フィレオのおっさんの方が手間がかかったけどな」
「わっはっはっ! 言うではないか! だが、俺様も楽しかったぞ!」
「それは良かったな」
「うむ! トンボがどういう人間か直に感じられたしな! 子どもに優しく、惜しみ無く己の力を分け与える……流石はガンボ村の守護女神だったぞ?」
そう言ってニヤリと笑うフィレオのおっさん。
「がっ?! なっ、なな、なんでそれを?!」
「これもモヒートから聞いた」
あのくそ爺! マジで次会ったらぶん殴る!
「守護女神ですか? っと失礼しました」
「わははっ! ムートンも気になるか? トンボは二度もガンボ村を救い、ミスリル鉱床という幸運をもたらした。ガンボ村では神聖視されておるのだよ!」
「成る程、それで守護女神と……お優しいトンボ様に似合いの二つ名ですね」
くっ、自分から神をネタにするのはいいけど、他人から言われると恥ずかしい。
「だからこそ、視察に連れていくのだ。ガンボ村の人間には、なるべくよい印象を与えねばならぬからな。守護女神と領主は仲が良いと周知させる」
「うわぁ、考え方が狡いなおっさん」
私を視察に連れていく本当の理由はそれか。
まぁ、私をダシにしてガンボ村と仲良くできるなら構わないけどな。
フィレオのおっさんも、ちゃんと貴族で領主してんだな。
『主殿~、リリー殿が寝てしまったでござる~』
「ん? おお、流石に五歳児の体力じゃ限界が来たか。メリーさんあとは頼んでいいか?」
「もちろんです。お嬢様はこのままお部屋までお連れします。失礼しますトンボ様」
メリーさんが眠るリリーを抱えて屋敷の中へ戻っていった。
「じゃあ、依頼達成だな……」
「うむ! 今日はご苦労であったな、視察の日程が決まったら冒険者ギルドを通して連絡を入れる」
「わかった」
依頼も終わったので、ペット達にはポーチに戻ってもらう。
『ちょ、まだ自分なにもしてないっすよ?!』
しかし、カルデラだけが私の頭に張り付いてきた。
「カルデラうるさい。リリーが寝たんだから仕方ないし、お前にリリーの相手をさせる予定はなかった」
『な、なんでっすか?!』
「調子に乗って大ポカやらかしたから」
『ガーン!』
ショックで固まったカルデラをポーチに無理矢理詰めてフィレオのおっさんとムートンさんに挨拶する。
「じゃあ、またな」
「う、うむ…………ドラゴンはぞんざいな扱いされておるな」
「門前まで見送りましょう」
ムートンさんに見送られ領主邸を後にする。
中々面白かったな。
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