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第二章 箱庭の発展と神の敵対者
13.悪意を持った隣人
しおりを挟むラウとミウの二人を保護し、馬車まで戻って来た。
「余程お腹が減っていたのですね」
「うむ! よい食べっぷりである!」
「二人とも空きっ腹に食べ過ぎは良くないからな」
と言っても、夢中になってスープとパンを食べている二人の耳に入っているかはわからないけど。
「それにしても、トンボのポーチは色々出てきて面白いな! まさかスープが鍋ごと出てくるとは思わなかったぞ!」
「非常食でしょうか? 一流の冒険者はあらゆる物事に備えると聞いたことがありますが」
さっき箱庭にいるセヨンに頼んで作ってもらっただけなんだけどな。
セヨンはラプタスの街にいるが私が許可しているので、カルーア工房にある箱庭の出入口から自由に出入りできる。
なので馬車に戻ってくる間にピンを通じて、食事の用意を頼んだのだ。
あれ? これって箱庭の出入口さえ設置すれば、箱庭を通じてワープみたいな事できる?
「して旦那様。この後如何いたしますか?」
「盗賊共も連れていかねばならぬし、視察は中止だな」
「なら、ラプタスの街に戻るのか?」
「そうするしかあるまい、兵を呼んで引き渡してから視察を再開させてもよいが、流石に時間が掛かりすぎる」
そこで言葉を切り、ラウとミウの方を見るフィレオのおっさん。
それから声を小さくして続けた。
「それにな、気がかりがあるのだ」
「気がかりですか?」
「盗賊共のやり口が杜撰過ぎる。奴隷として売る気なら、普通は死なないよう配慮するものだ」
「なのに生き残ったのは二人だけ……か」
「うむ、恐らく普段は金品の略奪をしている奴らで、誘拐の経験など無かったのであろう」
「奴隷を売り捌く伝手も無いみたいだったしな」
じゃなきゃ奴隷制度に厳しいラプタスに寄るなんてしなかっただろ。
「それと“他の奴もやってた”みたいな事言ってなかったか?」
「それは多分、スーラン領で行っている村人の集団失踪の事だと思います」
「聞こえてしまったか……すまぬな」
私達の会話に入ってきたのはラウだった。
「食事はもう大丈夫か?」
「は、はい、ありがとうございましたトンボさん」
顔を赤くして答えるラウ。
子どもみたいにがっついたのが恥ずかしいのかね。
ラウは私より小さいが、実は私と同い年らしい。
なんでも猫人族は成長期が遅いらしい。
「してラウよ、村人の集団失踪とはなんだ?」
「は、はい、スーラン領では最近、ピコット村のように小さな村の村人が、全員行方不明になったって噂があったんです」
「なんと! その様な事が!」
「たまたまその村に立ち寄った行商人の方が、少し前まで生活していた痕跡があるのに、誰もいない村を見つけたらしくて」
突然人が消えるなんて、まるで神隠しだな。
「ジジにーちゃんは、盗賊のしわざだって言ってたの! “ドレー”にして売る気だって」
遂にミウも話に入ってきた。
「盗賊達もその噂を聞いて、自分達もと思ったのでしょうか?」
「なんと身勝手な……!」
まったくだな。
もう少し痛め付けても良かったか。
「しかし、ますますキナ臭いな。普段は行商人の寄らない村の住人が突如消えるなど」
「しかも場所がスーラン領ですからね……」
「スーラン領だと何かあるのか?」
苦々し気に呟くムートンさんに尋ねると、フィレオのおっさんが大きなため息を吐いた。
「スーラン領主は少々問題のある男でな。以前屋敷で俺様が命を狙われる事もあると言った事があるだろう?」
おやつの毒見の時か。
「その旦那様の命を狙う者こそが、スーラン領主のヤーデル様といわれております」
「確たる証拠は無いがな」
マジかよ。
おっさんって隣人から狙われてるのかよ。
「なんで狙われてるんだよ」
「このラプタスの地は、エルフの住む大森林とドワーフ国に挟まれておる。故にこの地を統治する者は辺境伯と呼ばれ、武辺者が勤める習わしがある。といっても、別にその二つと争っている訳ではないがな」
血筋より武勇で選ばれるのが辺境伯なのか。
「ヤーデルは魔法の才があり、俺様は剣の才があった」
「当時はヤーデル様と旦那様。どちらが辺境伯になるのかと、大きな話題になっていましたね」
「そして、当代の辺境伯に俺様が選ばれ、ヤーデルは選ばれなかった」
「それで逆恨みか?」
なんとも器の小さな奴だな。
「実際、強さで言えば奴の方が上であった。それ故に尚更不服であったのだろうよ」
「じゃあ、なんでそのヤーデルが選ばれなかったんだ?」
「ヤーデル様は人間至上主義者なのです」
「人間至上主義?」
「いや、それよりは貴族至上主義だな。ドワーフやエルフ、そして獣人は祖霊の眠る地を名前の後に付ける風習があるだろう?」
「ああ、セヨンでいうカルーア。ラウとミウでいうリーロット。みたいなやつな」
「貴族至上主義の連中はそれが気に食わぬのだ。人間で家名を名乗れるのは貴族だけだからな」
スゲー下らない理由だった。
私だって真壁の名前に愛着があるから、家名を誇る気持ちはわからないでもない。
だけどセヨンみたいに祖霊の地を誇る奴だって格好いいと思うけどな。
「わっはっはっ! “格好いい”か! よくぞ言ったなトンボ! 全くもってその通りよ!」
「でも、よくわかったよ。その貴族至上主義のヤーデルがラプタスの領主になっていたら、お隣のエルフとドワーフに喧嘩吹っ掛けそうだもんな」
それどころか、セヨンやモヒートさん達も迫害されていた可能性があるのか。
「陛下がヤーデルを選ばなかった理由がそれよ。しかしヤーデルはそれを認められず、俺様が卑怯な手を使って辺境伯の地位を手に入れたと思い、恨み続けておる」
私としてはフィレオのおっさんが領主で良かったけど。
貴族の怖さを改めて知った気分だ。
「それで、そのヤーデルがスーラン領での村人集団失踪に関係していると?」
「わからんが、無関係とも思えん。だから一度戻って調べてみる必要がある」
そういう事なら異論はないけど。
それよりも大事なことがある。
私はラウとミウの方を向き直った。
「二人はこれからどうしたい?」
「ピコット村は……オレ達には帰る場所もありませんし、今の話を聞くとスーラン領に戻るのも怖いです」
「ミウはお兄ちゃんと一緒がいいの」
暗い表情でお互いに手を繋ぐラウとミウ。
いきなり家も身内も失って、この先どうなるかわからない不安でいっぱいだろう。
「もし良かったら、二人共私と一緒に来ないか?」
「トンボさんと……ですか?」
「そうだ。私はさ……二人が好きなんだよ」
「す、すす、好き?!」
「告白なの!」
顔を真っ赤にするラウと、頬に手を当ててはしゃぐミウ。
言い方が悪かったか?
「あー、お前達の気高い意志と優しい心が気に入ったって感じか?」
死の間際、私が願った理想。
“助けて”という言葉が届く世界を創りたい。
その言葉の意味と重みを知る二人と、箱庭を発展させたいと心の底から思ったのだ。
「そ、そうですか……」
「お兄ちゃんがんばれなの」
何故か残念そうな顔をするラウ。
ミウが肩を叩き慰めている。
「わっはっはっ! なんなら我が家で見習いとして雇っても良いぞ!」
「横入りすんなよ! 私が先に誘ったんだぞ!」
「決めるのは二人だろう? 給金は我が家の方が良いと思うがな!」
確かにカルーア工房はセヨンの研究資金枠がデカくて利益は低いんだよなぁ。
「トンボさん、領主様……ありがとうございます。ねぇミウ。ミウははどうしたい?」
「ミウは……ミウもトンボねーちゃんが好きなの! ミウが助けてって言ったら、助けてくれたの! だから、トンボねーちゃんと一緒がいいの」
「そっか……」
「それに、そっちの方がお兄ちゃんも嬉しいの!」
「そ、そそ、そんな事は……ない……事もないけど、も、もうミウ!」
「お兄ひゃん、かわひーの」
三度顔を赤らめ、ミウの頬っぺを引っ張るラウ。
赤面症かな?
なんて、鈍感系主人公を演じてみたけど、どうやらラウは私に憧れを抱いているらしい。
でも私はまともな恋愛なんてできないからなぁ。
寿命長いし。姿変わらないし。神様だし。
まぁ、吊り橋効果だと思うから、そのうち目が覚めるだろ。
「わっはっはっ! 残念であるが、ここはトンボに譲ろうか!」
「よろしくなラウ、ミウ」
「は、はい! よろしくお願いしますトンボさん!」
「よろしくなの! トンボねーちゃん!」
虫取りに行くはずが、新しく箱庭の住人が増える事になった。
二人が箱庭でどう生きていくのか楽しみだ。
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