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第二章 箱庭の発展と神の敵対者
17.ムシと魔物使い
しおりを挟む冒険者ギルドで聞いた『養蜂場が蜂に困っている』という依頼。
蜜蜂の為の花畑に、最近別の蜂が住み着いたらしく、それを駆除して欲しいというものだった。
「で? その蜂ってのは?」
「ハニーキラービーだよ」
「ハニーなのにキラーなのか……」
街の外れにある養蜂場で、依頼人のダン爺の話を聞いて思わず呟いてしまった。
「分蜂の時期らしくてね。このままだと蜜蜂の為の花畑に、新しい巣を作ってしまうかもしれない」
「新しい女王が産まれたのか」
「ラプタスの壁も空を飛んで入ってくる魔物を全て防げる訳じゃないからね」
「ハニーキラービーは魔物なのか?」
「じゃなきゃ冒険者に頼まないよ」
それもそうか。
「ハニーキラービーは、縄張りに入ったり、こちらから手を出さなければ襲ってきたりはしないから、そこは安心なんだけど」
「キラーなのに?」
「それは怒らせるなって意味で付けられたのさ。ハニーキラービーの執念深さは魔物屈指のものだからね」
「とにかく私達はハニーキラービーをどうにかすればいいんだよな?」
私の確認に大きく頷くダン爺。
最後に私は気になっていた事を質問した。
「ハニーキラービーって、蜂蜜集めたりする?」
「そりゃハニーだからね」
「わかった。蜂の件は私達に任せとけ」
依頼を達成してから、蜜蜂を分けてもらえないか交渉するつもりだったけど。
もしかしたらその必要はなくなるかも。
ーーー
『主殿、巣の場所がわかったでござる』
「ご苦労さんコタロー」
花畑で偵察の蜂が来るのを張り、コタローにこっそりと後を追わせたのだ。
蜂の駆除をする企画をテレビで見た時は、目印を付けて後を追っていたけど、コタローは目印いらずだった。
というかハニーキラービーって滅茶苦茶デカイのな。
私の頭ぐらいの大きさだったぞ。
あれが集団で襲ってくるとか、想像したくない。
コタローの案内で森を進みながら、私はラウとミウに声をかけた。
「ああそうだ。ムシャムシとヘビミミズがいたら、捕まえるから教えてくれ」
「え?」
すると、ラウが怪訝そうな顔をした。
「ムシャムシなら周りにいっぱいいるの!」
「はい、もうかなりの数見かけましたが……てっきり帰りに捕まえるのかと」
「なにぃ!」
マジかよ。全然気付かなかった。
結構小さいのか?
「ここにもいるの! ……ぐっすりお眠なの」
後半の台詞を小さな囁きに変えて、ミウが大きめの石を指差した。
「なるほど、石の下にいるのか」
ダンゴムシっぽいのを想像していたけど、その通りだったみたいだ。
「いえ、その石っぽいのがムシャムシです」
「は?」
コレなの? ムシャムシって。
「《擬態》ってスキルらしいです」
「スキル? え? コイツら魔物なの?」
「優しい魔物さんなの」
「土や落ち葉を食べていますから、他の生物を襲う必要がないんです。だからスキルも、隠れたり身を守る為のものしかないらしいですよ?」
「ラウは物知りだな」
「そうなの! お兄ちゃんは何でも知ってるの!」
「そ、そんなことは……」
私達に褒められたラウが、顔を赤くして照れている。
「じゃあ、コイツを箱庭に連れて行くか」
「トンボねーちゃん! ちゃんと一緒に行こうって確認しないとダメなの!」
「でもなミウ。確認ったって……コタローは通訳とかできる?」
『お、狼系の魔物となら……』
「だよな。ピンとエメトはどうだ? 以前野生のコタローと話してただろ」
『ことばがちがうからわかんないー。コタローはおなじだったー』
『……ん』
そういや、セヨンがコタローは元々、人の言葉を理解していた頭の良い個体とかって言ってたな。
『あの時は、“ウィスパー”という意思を風に乗せて、離れた相手に伝える風魔法を使ったでござる』
「そんな魔法もあるのか……それでムシャムシと話せないのか?」
「相互に言葉を理解していなければ伝わらないでござる。あの時だってまさか伝わるとは思わなかったでござるよ」
そりゃそうか、一方通行は会話じゃないもんな。
「ソルとナルは?」
『召喚した魔物ならわかるのだ!』
『つまり野生の魔物は無理です』
「うーむ」
「あの……ミウならムシャムシと話せるかもしれません」
どうするかと皆で頭を悩ませていたら、ラウがおずおずと手を上げて、そう切り出した。
「さっきは人が多かったので黙っていたんですが、ミウの《魔物使い》って魔物と喋れるスキルだと思うんです」
「だとしたら凄いが……なんでそう思ったんだ?」
「ピコット村でも、ミウが「おいで」って言うと、ムシ達がミウについて行く事があったんです」
以前から兆候はあったのか。
「ミウはムシャムシが何て言ってるかわかるか?」
「ぐっすりお眠だからわかんないの!」
「……さっきも寝てるって言ってたけど、ムシャムシは寝てるのか?」
「ぐーぐー寝てるの!」
それを聞いて、私は全員の顔を見渡した。
全員が首を横に振った。
だよな、寝息なんて聞こえないよな。
「悪いけど起こしてもらっていいか?」
「わかったのー! ムシャムシさーん! 起きるのー!」
ミウがムシャムシの身体を揺する。
すると、ムシャムシの身体の岩がポロポロと剥がれ落ちて《擬態》が解けていく。
《擬態》を解いたムシャムシは、確かに武者鎧のような見た目をしていた。
まんま、硬そうなダイオウグソクムシだな。
「ムシャムシさんおはよーなの!」
ミウがムシャムシに手を上げて挨拶する。
私は一応いつでも壁を張れるようにしておく。
「ムシャ!」
ムシャムシが鳴いた。
お前、そんな鳴き声でいいのか?
ムシャムシだからムシャっと鳴くのか、ムシャっと鳴くからムシャムシなのか。
だが、ムシャムシのムシャは武者からとってる訳だからムシャムシがムシャっと鳴くのは偶然なのか?
ああ、ムシャがゲシュタルト崩壊しそう。
「ムシャムシさん。ミウ達にはムシャムシさんの力が必要なの! だからムシャムシさんに箱庭に来て欲しいの!」
「ムシャ? ムシャ!」
「そうなの! これはムシャムシさんにしか出来ないの!」
「ムシャ!」
「なの!」
なにやら、ムシャムシャなのなのと、熱く語り合うミウとムシャムシ。
どうやら本当に会話はできているらしい。
だが、こちらには一切伝わらない。
「ミウ……ムシャムシはなんて?」
「『そこまで我の力を買って貰えているのなら、喜んで力を貸そう』って言ってるの!」
「そんな喋り方なのか?! 意外と漢らしかった!」
「ムシャ!」
「『部下を連れてくる故、そやつらもまとめて世話になる』なの!」
「部下なんているんですか?!」
「ムシャ!」
「ヘビミミズさんもいるみたいなの!」
「しかも種族を越えて部下にしてる?!」
ラウまでツッコミを入れはじめた。
ここまで来ると、ムシャムシの生態が非常に気になるが。
他の生物を襲わない魔物同士で、助け合って生きてきたのだろう。
「じゃあ……よろしく頼むムシャムシ」
「よろしくなの!」
「ムシャ!」
ムシャムシのグソク(他のと区別するため名前を付けた)が連れてきたムシャムシとヘビミミズの群れを箱根に入れていく。
しばらくは拠点付近で生活してもらい、本虫達の希望を聞いて活動範囲を決めていきたい。
「よし、これで移住が終わったな」
最後のヘビミミズを箱庭に入れて一息吐いた。
ミウの《魔物使い》のおかげで、ムシ達の勧誘は楽に済んだ。
ちなみにヘビミミズは、鱗っぽいものが生えた巨大ミミズだった。
「よくやったなミウ! お前は敏腕スカウトだ!」
私はミウの頭を撫でてやる。
「えへへー」
「ミウは村にいた時からムシャムシとかの声は聞こえてたの?」
「ううん、この森に来てからなの!」
なら、本格的にスキルになったのは、ソルとナルを含め、箱庭のペット達。つまり魔物と実際に会話したのが要因か。
魔物と会話できる。
それを疑わず、認識できる事が《魔物使い》を取得する為に必要な適性なのかも。
これって大人になるほど取得が難しいんじゃないか?
ミウだって、普通に生きていればいつか魔物と会話できるなんて思わなくなって、適性を失っていた可能性が高い。
子どもの時にだけ適性がわかるスキルなんてのもあるんだな。
だが、魔物の声を聞けるのは、良いことばかりじゃない。
そこら辺もミウには教えていかないとな。
「なんにせよ。友達増えて良かったなミウ」
「うん! ミウ蜂さんともお友達になるの!」
「そうだなハニーキラービーにも、穏便に移住して貰えるといいな!」
私がミウのふかふかの耳の感触を楽しんでいると、カルデラがポーチから顔を出した。
『あの……一ついいっすか?』
「どうしたカルデラ?」
『なんで自分には言葉がわかるか聞かなかったんすかね?』
「お前グソク達の言葉わかるの?」
『……いや、わかんないっすけど』
「そういう事だ」
『えぇ~! ひどいっすよ姐さん!』
「はっはっはっ! 冗談だよ。お前がわかってたら、もったいつけながら報告するだろ? だからだよ」
まぁ、こうして魔物と話せるのは楽しい事でもあるからな。
ミウには人生楽しんで貰いたいもんだ。
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