箱庭世界の壁魔法使い ~神様見習いはじめました~

白鯨

文字の大きさ
42 / 51
第二章 箱庭の発展と神の敵対者

16.猫又

しおりを挟む

 ギルドカードを発行してもらう為に受付に戻ってきて、以前私が聞いたギルドの説明を聞いた。

「名前と年齢がラウ・リーロット君15歳とミウ・リーロットちゃん5歳……と」

 エルが紙に先程聞いた情報を記入していき、質問タイムに移る。

「では、お二人の特技を教えてください」
「オレは《解体》スキル持っています」
「ミウは木登りが得意なの!」

 ラウは《解体》スキル持ちか。
 そしてミウが自信満々に言った木登り。

「それも確かに特技のカテゴリーに入るかもしれないけど、そうじゃないんだミウ」
「……ミウはまだスキルのチェックをしたことがないので、わからないんです」

 ああそうか。
 スキルのチェックはギルドカードや身分証のカードがあればできるが、街に行った事のないミウはまだカードを作った事がないから、どんなスキルを持っているかわからないのか。
 
 ちなみにラウのカードは紛失したので、新しく身分証としてギルドカードを発行するのだ。

「確かにそうですね。ではカード発行後に追加記入する形にしましょうか」
「そうしてくれ。《木登り》なんてスキルがあれば、それを書けばいいしな」
「そんなスキルあるんですか?」
「知らん」
「おじさん《登攀》ってスキルなら知ってるよ?」
「とうはん……確かによじ登るって意味なら同じようなものか」

 て言うか、ロジャーまだいるのか。

「別にいいだろ? おじさんには書類仕事の息抜きが必要なんだよ」

 そんな言い訳をするロジャーを、エルが半眼で睨み付ける。
 
「はぁ……では次は戦闘スキルがあれば教えてください」
「戦闘スキル……ですか」

 ラウの顔が少しだけ曇る。
 そこにロジャーがフォローを入れる。

「隠したいなら無理に言う必要はないよ。多分トンボとパーティー組む事が多いだろうしね」
「いえ……戦闘にも使えるスキルはあるんですが、まだ使いこなせていないんです」
「へぇ、どんなスキルだい? ものによっては講習なんかもやってるよ?」
「それは……」

 ラウは煮え切らない態度で、何度か言い淀みながら。

「ね、《猫又》というスキルなんですが……」

 猫又? 名前的に猫人族限定のユニークスキルか?
 私はラウの尻から生える尻尾を、二又に分かれていたりしないかなと覗き込む。
 
「ちょ! と、トンボさん?!」
「いや、ちょっと確認をな……」

 顔を真っ赤にして、長い尻尾を守るように抱えるラウ。
 
「トンボねーちゃん……エッチなの!」
「えっ!?」

 エッチな事なのか?!

「トンボさん……そんな趣味が」
「な、なんなんだよ!?」

 ミウが両頬に手を当て、キャアキャア言いはじめ、エルはロジャーに向けるようなジト目を私に向けてくる。

「獣人にとって耳や尻尾は特別なものなんだよ。家族や恋人にしか触らせないぐらいのね」
「い、いえ! オレはトンボさんなら別に……!」

 ああ、異種族の慣習とかの違いによるなんやかんやか。

「人間相手でもお尻を覗き込むのは失礼な行為ですけどね」
「ぐっ!」

 エルの正論が私の胸に突き刺さる。
 ラウの見た目が幼いから、好奇心を優先させちまったんだよな。

「…………それより! 《猫又》ってスキルはなんなんだ?」
「逃げましたね」
「逃げたねぇ。獣人族には稀に、特殊なスキルを持つ者が現れるんだよ。彼らはそれを“先祖返り”と呼んでいる」
「先祖返り?」
「狐人族の《九尾》や鼠人族の《鉄鼠》、そして猫人族の《猫又》……といった具合にね。所謂、種族由来のユニークスキルだよ」

 竜種の《竜術》や《竜鱗》と同じようなもんか?
 それにしても先祖返り……か。
 獣人族の先祖は妖怪だったりすんのかね?

「《猫又》は確か、相手に呪いをかけるスキルだっけ?」
「正確には“呪いまじない”ですけど、オレは上手く使えないんです」
「呪いって言っても、具体的にはどんな事ができるんだ?」

 私は尻尾をしょんぼりと垂らすラウに尋ねた。
 
「呪詛を吐いて呪いを掛けるんです。例えば……エルさんこれを持ってみてください」

 ラウが受付に置いてある呼び出しベルを取り、エルに手渡した。
 そしてエルの持ったベルに向かって、小さく囁くような声で言った。

「“重くなれ”」

 瞬間、ベルを持つエルの手がガクッと落ちた。

「わっ! ベルが重くなりましたよ!」
「お兄ちゃんすごいの!」
「これが《猫又》の呪詛と呪いです。逆に軽くする事もできますけど」

 ラウが重くなれって言えば重くなり、軽くなれって言えば軽くなるのか。
 つまり、たった一言でバフとデバフが使えるって事か。

「普通に使えてるし、滅茶苦茶強いスキルじゃないか」
「はい、《猫又》のスキルは、重い装備を本当に羽のように軽くする事もできる凄いスキルなんです。でも、実はオレの呪いは違うんです。不完全で人にしか効果がない……」
「ん? でもこうして軽くできてるだろ?」

 私はエルの持つベルを指差す。
 
「完全な《猫又》なら、ベル自体を重くできます。でも、オレの《猫又》はエルさんにベルが重くなったと誤認させているだけなんです」
「言葉による認識の書き換え……」

 目隠しした人間に焼きごてを当てると言ってから、ただの鉄の棒を押し付けると脳が誤認して実際に火傷する。
 そんな話を聞いた事がある。
 つまり、ラウの《猫又》は目隠し無しでその現象を再現できる訳だ。

 同じ重さの鎧を着けた二人の人間に、普通の《猫又》とラウの《猫又》とで、“軽くなれ”と呪いをかけた場合、ラウの《猫又》で鎧を軽くした方は軽くなったと誤認しているだけで、実際の肉体的な疲労は軽くならない。

 確かに一見《猫又》の劣化のように思える。

「普通の《猫又》は人に呪いをかけられるのか?」
「え? いえ、普通は無機物など意思のないモノだけにしか使えないらしいです」

 つまりラウの《猫又》だけが、人に呪いをかけられるという訳か。
 だが、これは劣化というより。

「………………」

 私と同じ結論に達したのか、ロジャーが難しい顔で沈黙している。
 
 でも気持ちはよくわかる。
 ラウの《猫又》の強さにもよるが、極端な話ラウが《猫又》を使って“死ね”と言ったら、死んでしまう可能性もあるのだ。
 それだけぶっ飛んだスキルなんだよな。

「……トンボ、ちゃんと教育してね。本っ当に頼んだよ?」

 ロジャーが懇願するような視線を送ってくる。 
「まぁ、悪用しないようには言っておくけど……」

 ラウならそこら辺は心配ないだろ。
 
 それに人限定なら、私みたいな高レベル《精神耐性》持ちや、耳を塞がれたら効かない可能性が高い。
 
「では、戦闘スキルは《猫又》で登録させていただきます」
「はい、それ以外に戦闘に使えそうなスキルはありませんから」
「では、お二人の血を一滴。こちらのカードに垂らしてください」

 エルが無地のカードを取り出した。
 あの針でグサッといくやつだ。
 ミウにできるのか?

「えいっなの!」
「これでいいですか?」

 迷いなく指に針を刺すミウとラウ。
 マジか、この世界の住人には当たり前なのか?

「キラキラしてキレイなの~」

 カードが輝き情報が刻まれた。
 これで二人も冒険者だ。

「二人ともおめでとう。今度セヨンに防具とか作ってもらわないとな」

 セヨンなら良い防具作ってくれるだろ。
 身の丈に合わない高性能な防具は、力の過信や増長に繋がるらしいけど。
 安全第一だ。

 箱庭の中には化け物級の奴等しかいないから、増長なんてしないだろうし、それでも天狗になるようなら私がへし折ろう。

「それで、ミウは何かスキルあったか?」
「ミウ、ステータスオープンって言ってごらん」
「『ステータスオープン』なの!」
 
 ミウがカードを掲げて力一杯叫んだ。
 遠巻きにこちらを見ていた冒険者達が、その初々しい姿を微笑ましそうに見守っていた。

「見せてもらってもいいか?」
「はいなの!」

 ミウが差し出してきたギルドカードを見てみる。


○ミウ・リーロット 猫人・女 5歳

 職業・冒険者

 スキル
 《農業lv1》《登攀lv1》《魔物使い》

 称号
 《箱庭の住人》


 お? 《登攀》あるじゃん。
 よかったなミウ。

「って、ん? 《魔物使い》? 《従魔術》じゃなくて?」
「おじさんにも見せてもらってもいいかい?」
「いいの!」

 ミウも許可したし、ロジャーなら《魔物使い》の意味もわかるかと思いカードを渡す。

「職業でもなくてスキルだね。それもユニークスキルだ……」
「ロジャーも知らないスキルなのか?」
「知らないねぇ。あの人形ちゃん達はトンボの従魔なんだよね? 自分の従魔じゃない魔物を使って戦う事に適性があったとか?」
「なんだその限定的な適性……」
「《蟲使い》なんてスキルは知ってるけど、魔物を使うなら《従魔術》が当たり前だからねぇ」
「つまり?」
「さっぱりわからない」

 清々しい笑顔で答えるロジャー。
 使えねー!

 《魔物使い》がソルとナルのお陰で身に付いたスキルだってのは、間違いないと思うけど。

「仕方ない。今度色々試してみようなミウ」
「わかったのー!」
『ボクも手伝うのだ!』
『一緒に頑張りましょうね』

 仲良し3人組って感じだな。
 実験もソルとナルが協力してくれるだろう。
 
 とりあえず二人の身分証は手に入れられたから良しとしよう。

「なぁエル、ギルドに蜜蜂の巣がある場所とかの情報ってないか?」
「蜜蜂ですか? 養蜂場に行けば沢山ありますよ?」
「いや、私が知りたいのは野生の天然蜜蜂の巣だ」
「天然って……この辺の森には、蜂蜜大好きなマーダーグリズリーがいますから、まず野生の蜜蜂なんていませんよ」

 マジかよ。
 あの熊ゴツい名前のクセに蜂蜜大好きなのかよ。
 熊の○ーさんかっての!

「養蜂場から蜂を分けてもらうのは可能か?」
「さぁ……あっ! でも、ちょうど養蜂場からの依頼がありますよ?」
「養蜂場からの依頼?」
「はい! なんでも蜂で困っているみたいですよ!」
「養蜂場なのに蜂に?」
「はい!」

 どういうこっちゃ。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...