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第二章 箱庭の発展と神の敵対者
15.ミウの試験
しおりを挟む全員で訓練場に移動する。
何故か他の冒険者やエルまで着いてきている。
何なの暇なの?
「ギルマスが試験官するなんて珍しいですからね。それに『ドラゴンテイマー』の秘蔵っ子に、皆興味津々なんですよ」
「『薬草少女』な」
「それに、その方がトンボの目的にも沿うでしょ? どうせあの子の持ってる人形も、とんでも性能なんだろうし……」
正直、ソルとナルがどこまでやれるかは未知数だ。
箱庭の外はうちのペット達にとって、力を制限される場所だし、二匹は外に出るのもはじめてだから心配なんだよな。
「ミウ、ソル、ナル、言いたくないがロジャーは結構強い」
「あれ? なんで言いたくないの?」
「だから、倒すより逃げる事に全力を注げ」
「わかったの! ミウいっぱい走るの!」
『鬼ごっこなのだ!』
『鬼ごっこなら得意です』
「ミウ……危なかったら棄権するんだよ」
「ねぇ、なんで? ギルマス滅茶苦茶強いから、でいいじゃん」
ロジャーうるさい。
でも、意味もなく子どもに手をあげる様な奴じゃないから。
そこは信じているからな。
絶対にケガさせんなよ。
それにしても鬼ごっこか。
あながち間違いじゃなさそうだけど不安だ。
「さて、それじゃあやろうか」
「はいなの!」
『絶対勝つのだ!』
『負けません』
ロジャーとミウ達が訓練場の真ん中で対峙する。
「ルールは簡単。今からおじさんは、お嬢ちゃんの頭を撫でようとするから。三分間逃げ切るか、おじさんに触れればお嬢ちゃんの勝ち。頭を撫でられたらお嬢ちゃんの負け」
「わかったの!」
本当に鬼ごっこみたいなルールになった。
しかし、オヤジが幼女の頭を撫でようと、追いかけ回すとか、どこの犯罪者だよ。
「うんうん、良い返事だね。おじさんは武器も魔法も使わないから安心してね。エル」
「はい! それではミウ・リーロットさんの認可試験をはじめます。よーい…………はじめ!」
エルの合図と同時に、ロジャーがミウにゆっくりと近付いていく。
ミウはそれを首をかしげて見ている。
「あれ? 逃げないの?」
ロジャーが目の前に来ても、ミウは動こうとしなかった。
緊張で動けないって訳でもなさそうだけど……どうしたんだ?
『大丈夫でござるよ』
「コタロー」
『ソルとナルがついていれば、捕まらないでござる』
ポーチから顔だけ出したコタローが、確信を持ってそう答えた。
『箱庭にて二人に付き合い、様々な遊びをしていますが、鬼ごっこに関して言えば、拙者ですら最近は逃げられる事が多くなったでござる。もちろんスキル等は使ってないでござるが……』
コタローはスキルなし。
それでもあの俊足のコタローから逃げ切るって、とんでもないぞ。
「一体どうやって?」
『見ていればわかるでござる』
ロジャーが訝しみながらも、ミウの頭に触れ。
その手がミウの頭を貫通した。
「やっぱり幻か!」
慌ててロジャーが振り返り絶句した。
「…………マジ?」
そこには大量のミウとソル、ナルの姿があったからだ。
『これぞニンポー分身のジツなのだ!』
『大成功ですね』
ソルとナルがはしゃぎながらミウの腕から飛び下りた。
「光魔法のミラージュ……にしては精度高すぎない?」
呆れながらもロジャーは直ぐに動いた。
そうか、あれはソルの《光操作》で作った蜃気楼なのか。
「でも、幻の見分け方は簡単だよ」
ロジャーは大量のミウに惑わされる事なく、一人に向かって走り出した。
「本物は一人だけ影ができる!」
その手が影のあるミウの頭に触れて。
スカッと通り抜けた。
「これも幻?!」
『これが影の円舞曲です。さぁ踊ってください』
『ナルはちょっと厨二っぽいのだ……』
ナルの号令で影が踊るように動きだし、より一層の混沌と化す訓練場。
《闇操作》で影を動かしたり、消したりしているのか。
『隙ありなのだ!』
「ちょ! 逃げるんじゃないの?!」
『攻撃的に逃げているのです』
「くっ!」
ソルとナルの幻と影が、ロジャーに次々と襲い掛かる。
おそらく全て実体の無いものだが、本物が混じっている可能性があるなら、ロジャーは全てを避けるしかない。
「残り一分です!」
「もう? 仕方ない! ちょっと本気出そうかな!」
エルの宣言に焦れたロジャー。
その動きが急に変わった。
眼を閉じた瞬間、存在感が薄くなったと思ったら、避ける事を止めたのだ。
高レベルになると、《気配察知》は攻撃の気配すら察知できるようになるらしい。
ロジャーの奴、音と《気配察知》だけで幻の判別をしているな。
「ロジャーの野郎スキル使い出したぞ!」
「大人げないぞギルマス!」
「小さな女の子相手に恥ずかしくないのか!」
「もっと冒険者の待遇よくしろ!」
私の声に呼応し、野次馬に来ていた他の冒険者も、ロジャーに向けて罵声を浴びせはじめる。
一人だけ違う愚痴だったけど。
「これもギルマスの威厳を保つ為だよ!」
悪びれた様子もなく、ロジャーはそう返した。
「ふざけんなクソオヤジー!」
「ガキに本気出す時点で威厳なんてねぇぞ!」
「卑怯ものー!」
「酒場のメニュー増やせ!」
だから一人だけ関係ない文句なんだよなぁ。
しかし、ここが両国国技館なら座布団が舞いそうな場面ではある。
「ギャラリーはいいよね見てるだけで! これかなりキツいんだよ? でも、気配さえわかれば本物がどこにいるかわかるからね! いくよお嬢ちゃん!」
ロジャーが宣言してから、ミウの一人に狙いを定めて一気に駆け出した。
「おわー! あぶなーい!」
「ミウー!」
私とラウが悲鳴に似た声をあげる。
「まるでおじさんが何かするみたいな声止めてね。でも、これでお仕舞いだ。はい、タッチ」
ロジャーの手が、ミウの頭にポンと置かれてしまった。
「よし! おじさんの勝ちだね!」
大人げなく拳をあげて喜ぶロジャー。
その後ろから。
「はい、タッチなの」
ミウがその脚をポンとタッチした。
「へ?」
ロジャーが間抜けな声を出して、目の前のミウと後ろのミウを見比べる。
しかしそれは、この場にいる全員の台詞でもあった。
手を置いていたミウの幻が解けて、二段重ねになったソルとナルが顕になった。
『いやん、なのだ』
『これぞニンポー空蟬のジツです』
顔に手を当て、しなを作るソル。
どういう事なんだ?
私の疑問に答えたのはコタローだった。
『ダンジョンにいた狼のやっていた移動方法。影潜りでござる』
「ああ、あのシャドウウルフとかいう奴の……」
そういえば、そんな狼いたな。
あれも闇魔法だったのか。
「シャドウウルフって……ええ~、まさか影移動で直前に入れ替わったの? そんなのズルくない?」
がっくりと肩を落とすロジャー。
「本来は、ある程度力を見せれば、勝負に負けても合格にするんですが、ミウちゃんは文句なく合格ですね」
やっぱりそういうシステムなんだな。
ロジャーがスキル使いはじめた段階で、薄々気付いてはいた。
「…………ダメなの」
「ミウ?」
ミウが顔を俯かせ、ポツリと言った。
「ミウ、何もしてないの。ソルちゃんとナルくんが全部やってくれたの」
「そうだな。ミウだけならダメダメだったな」
私はミウをそう評した。
これで喜ぶようなら、一度釘を刺す必要があると思っていたけど、ちゃんと自分で気付いたな。
「じゃあ、ミウはどうする?」
「ミウ……まだ冒険者さんは早いと思うの」
「うんうん、よくそこに気が付いたね。おじさんが少し本気出したのも、それをわかって欲しかったからなんだよ」
「ギルマスは黙りましょうねー」
邪魔なロジャーはエルに連れていかれた。
「確かにミウはダメダメで、ものを知らな過ぎる」
「うぅ……」
『あのっ、お姉ちゃん』
『お姉さん……』
私にそう言われ泣きそうになるミウ。
ソルとナルがミウのその様子に、私の事を止めようとするが、私がそれを手で制した。
「だからこそ、ミウは冒険者になれ」
「え……?」
「私は五歳のミウに、完璧な精神や強い力なんて求めてない。私がミウに求めるのは勉強する事だ」
「勉強……なの?」
「そうだ。色んな人間を知り、色んな考えを知り、生きていく術を学べ。そうすれば、ミウのお父さんの真意もわかるだろ」
「しんい?」
「“助ける”って事の意味だ」
私がそう伝えると、ミウは何か考えはじめた。
「冒険者はふざけた奴だらけだが、死が身近な分命に対して現実的な考えの奴が多い」
「トンボちゃん酷くね?」
「真面目にふざけてるだけなんだよなぁ」
「シッ、いい話している風だから邪魔すんな」
野次馬連中が何か言ってるが無視だ。
「うちは常識知らずな奴が多い。唯一の常識人も研究バカだしな。私だってまだ学んでいる最中だ。そんな私がミウに教えられるのは生きる術ぐらいだ」
「生きる術……」
「だから冒険者から色々学び、命を懸けられる自分の答えをいつか見つけろ。それまでは助けてやる。ソル、ナル、お前達もミウを守り一緒に学べ。いいな?」
『わ、わかったのだ!』
『いっぱい勉強します』
ミウの考えは危ういんだ。
助けてと言われたら、悪党でも助けそうな。
そんな危うさだ。
悪党は助けんなって教えればいいんだろうが、それじゃあ意味が無いんだ。
要はこの先、ミウが導き出した答えに、ミウ自身が命を懸けられるか、だ。
命を懸けられるなら、平和主義者や博愛主義者になっても私は否定しない。
きっと、その道でしか見えないものや、たどり着けない場所があるのだから。
「ミウ、いっぱい勉強するの! おとーさんの“しんい”をわかりたいの!」
「なら冒険者になっとけ。お前のダチも助けてくれるってさ」
「ミウ冒険者さんになるの! ソルちゃん! ナルくん! よろしくなの!」
『いっぱい人間観察するのだ!』
『一緒に勉強しましょうね』
うんうん、それっぽい感じにまとまったな。
正直、半分その場の勢いで言ってた気がする。
ほとんどお袋の受け売りだったり。
『人生に迷ったら、命を懸けられる方に進め』
人生に後悔なんてなさそうな笑顔で、そう教えられたのだ。
私の憧れ。
そんな人間に私も成りたかった。
「なぜか涙腺にきた!」
「ミウちゃんに色々教えないとな!」
「ミウちゃん応援し隊を結成せねばなるまい!」
ただ、コイツらから教わる事などあるのか、心配でしかないが。
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