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17章 再開の約束
14-1 ヘルズニルの戦い
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14-1 ヘルズニルの戦い
その夜、俺はなかなか寝付くことができなかった。明日が魔王軍との決戦、ということもある。それに、尊のこと、レーヴェのこと、コルトとロアのこと……悩みの種はそこら中に蒔かれていた。
うんうん唸りながら、浅い眠りについたせいか、俺は変な夢を見た。なんかこう、そこら中走り回るような、疲れる夢……眠ったはずなのに、朝起きるとげっそりするような、そんな夢だ。ちぇっ、ついてない。大事な日に、最悪な朝を迎えるなんて。
(……ところで、俺は今、起きてるのか?)
うーん……我ながら言葉にするとマヌケだ。目が覚めているのか、それとも夢の中なのか、いまいちよく分からない。
(辺りは……暗いな。何かあるようにも見えるし、何もないみたいにも見える)
なにかの輪郭が見えるが、はっきりしないな。浅い眠りのせいで、夢うつつな状態が続いてしまっているようだ。それならば、と起き上がろうと思ったのだが、体はぴくりとも動かない。
(なんだこれ?意識ははっきりしているのに、動けないぞ)
頭だけが起きて、体は眠り続けているってのか?起きている自覚があるのに、夢が終わらない。なんだ、これ?
「……い、おい!よし、なんとかまた繋がったな。おい、聞いているか!」
……うん?なんだ、この声。俺の声じゃないぞ。聞いた事もない男の声が、なぜか頭の中に響いている……
(……いや、まて。こいつの声、聞いた事あるな)
どこだったか……声には聞き覚えがあるのに、顔が思い出せない。
「当たり前だ!私と君は、一度も顔を合わせたことがない。だが、前回のことは覚えているようだな」
「え?なんだよ、俺の夢のくせに、えらい知った風な口を利くな……」
「なに?まだ理解してないのか?いいか、これは君の夢じゃない。ここは夢とうつつの狭間だ。ここでしか、君の魂と同調できなくて……って、この説明は前にもした!そんな暇はないのに!」
はぁ……自分で自分にツッコミを入れているぞ?なんだか妙なやつだけど、俺の夢じゃないって?
「まあ、あんたがそう言い張るなら、別にいいけどさ」
「くっ、信じてないな……まあいい、時間がない。本題に入ろう。君、あれは嘘だ。魔王はファーストじゃない」
「は?」
謎の声の話が唐突過ぎて、何のことを言っているのか理解できなかった。まだこっちは寝ぼけてるってのに……ええっと?
「嘘?それに、ファーストだって?」
「そうだ!絶対にあり得ない。とんでもない侮辱だ、こんなのは!」
……これは、俺の夢だ。だから、とりあえず聞いておくだけタダだよな?
「ちょっと、あんた。えらい確信があるみたいだけど、その理由を聞かせてくれないか。あ、つまんない答えはすんなよ。俺の予想の範疇の答えが返ってきたら、俺はあんたを夢だとみなすからな」
「ちぃ、疑り深い少年だな……まあいい、分かった。なぜ確信があるかだって?そんなもの、当たり前だ。私はこの世界の誰よりも、勇者ファーストのことを理解しているからな」
「……あんた、勇者オタクかなにかか?」
「違う!それに、その認識も間違いだ。どれほどのマニアやファンでも、真に彼を理解できたとは言えない。他者を完全に理解することなど不可能だ」
ほう。哲学的なことを言うな。確かに、どれだけよく知った相手でも、完全に理解したとは言えないだろう。生まれた時から一緒にいる親であってもな。もしも、この世で俺について一番詳しいやつの名を上げるとしたら……ん?
「その理屈だと、あんた、まるで……」
夢の中なのに、鳥肌が立つのを感じた。
他人を完全に理解することはできないだって?当然だ。誰かの脳ミソのなかを、まるっと覗くことなどできない。では、世界で誰よりもファーストを理解できる人物とは誰か?他人でないというのなら、この世の中でそれに該当する人物は、たった一人ということになるじゃないか。
「まさか……あんた、ファースト?」
「やっとわかってくれたか。その通りだよ」
「……は?」
自分で言ったのに、思わず疑問符が出てしまった。けど、いやいやいや……さすがに、意味わかんないって。なんで俺の夢に、ファーストが出てくるんだよ?
「あー……やっぱこれ、夢だわ。しかもとびきり意味不明なやつ」
「だから、違うと言っているだろう!」
「あのなぁ、じゃあんたがファーストだって言う、証拠はあんのかよ?え?ないんだろ?」
「くうう……!時間があれば、私の一生涯全てを語ってやれるのだ!けどそんな暇はないから手短に話すぞ、いいか、まず……」
と、自称ファーストが続きを言おうとした、その時だった。俺は意識が、急速に浮上していくのを感じた。でっかい手に鷲掴みにされて、無理やり引き上げられているみたいだ。
「なっ!?おい、待て!まだ肝心なことを……話して……いない……」
(んなこと……言われても……)
夢から覚めるのに、抗える方法なんて思いつかない。声がどんどん遠のいていく……
「くそ……なら、せめてこれだけでも……いいか、魔王の正体は……」
視界が明るくなっていく……何もかもがおぼろげになり……
「はっ」
「起きた?もう朝だよ」
こ、ここは?俺がいるのは、古ぼけたテントの中だ。そこで毛布にくるまり、仰向けで目を開けている。そしてこちらを、フランが覗き込んでいた。
「おはよ」
「フラン……?」
「そうだけど」
「ファースト……?」
「……水をかけてあげようか?」
……寝ぼけていると思われたようだ。いや、実際まだ寝ぼけているか。さっきまでの夢が何だったのか……まだ、整理が付いていない。
「うぅ……なんだったんだ、さっきの夢」
俺は額を押さえながら体を起こした。
「うなされてたよ。変な夢でも見たの?」
「ああ……そうらしい」
夢……だったんだろう。ファーストが夢枕に立つとは、ちょっと考えられないよな。もし夢に出るとしたら、俺じゃなくてアルアの方だろう。
(じゃあ、やっぱり夢のはず……なのに、どうしてあいつの声が、こんなに耳にこびりついているんだ?)
今しがたまで、そこで本当に会話していたようだ。この声、本当にファーストのものなのか?誰かに聞かせて確かめさせたいが、ボイスレコーダーでもあればなぁ。あ、けど結局夢の中だから無理なのか……
「ファーストの夢を見たの?」
フランはそう言いながら、革袋に入った水を渡してくれた。礼を言って、一杯飲む。冷たい水がのどを潤し、目がシャッキリした。
「ぷはっ。いや、たぶん違うと思う。夢に見たくても、俺、ファーストの顔も声も知らないし」
「そうだね。やっぱり、あのレーヴェって子の話を訊いたから?」
「だと思うんだがな……どうにも最近、似たような夢を立て続けに見てる気がするんだ。なんだか気味悪いよ、会ったこともない男の夢ばかりみるなんて」
「……」
フランは少し考えた後、ぼそぼそと聞き取りづらい声で言った。
「だ、だったら……違う人の夢を見ればいいんじゃない?」
「え?それって、例えば?」
「例えば、わたし、とか」
「へ?フランを?」
「この前だって、夢に見てたんでしょ」
うっ。あ、あの時のことか……顔が熱くなると同時に、冷や汗が出る。熱いんだか寒いんだか、しどろもどろな気分だ。
「あ、あれはだな……」
「別に、いいよ」
「うん?」
「ちょっとくらい、えっちな夢でも……許してあげる」
へ……?ぽかんと口を開ける俺をよそに、フランはさっと立ち上がった、気のせいだろうか、頬が赤かったような。
「ほら、さっさと起きて。もう出発だよ」
「あ、お、おう」
確かに、ばっちり目は冴えたな。身が持たないから、こういう起こし方はこれっきりにしてほしいけど。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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うんうん唸りながら、浅い眠りについたせいか、俺は変な夢を見た。なんかこう、そこら中走り回るような、疲れる夢……眠ったはずなのに、朝起きるとげっそりするような、そんな夢だ。ちぇっ、ついてない。大事な日に、最悪な朝を迎えるなんて。
(……ところで、俺は今、起きてるのか?)
うーん……我ながら言葉にするとマヌケだ。目が覚めているのか、それとも夢の中なのか、いまいちよく分からない。
(辺りは……暗いな。何かあるようにも見えるし、何もないみたいにも見える)
なにかの輪郭が見えるが、はっきりしないな。浅い眠りのせいで、夢うつつな状態が続いてしまっているようだ。それならば、と起き上がろうと思ったのだが、体はぴくりとも動かない。
(なんだこれ?意識ははっきりしているのに、動けないぞ)
頭だけが起きて、体は眠り続けているってのか?起きている自覚があるのに、夢が終わらない。なんだ、これ?
「……い、おい!よし、なんとかまた繋がったな。おい、聞いているか!」
……うん?なんだ、この声。俺の声じゃないぞ。聞いた事もない男の声が、なぜか頭の中に響いている……
(……いや、まて。こいつの声、聞いた事あるな)
どこだったか……声には聞き覚えがあるのに、顔が思い出せない。
「当たり前だ!私と君は、一度も顔を合わせたことがない。だが、前回のことは覚えているようだな」
「え?なんだよ、俺の夢のくせに、えらい知った風な口を利くな……」
「なに?まだ理解してないのか?いいか、これは君の夢じゃない。ここは夢とうつつの狭間だ。ここでしか、君の魂と同調できなくて……って、この説明は前にもした!そんな暇はないのに!」
はぁ……自分で自分にツッコミを入れているぞ?なんだか妙なやつだけど、俺の夢じゃないって?
「まあ、あんたがそう言い張るなら、別にいいけどさ」
「くっ、信じてないな……まあいい、時間がない。本題に入ろう。君、あれは嘘だ。魔王はファーストじゃない」
「は?」
謎の声の話が唐突過ぎて、何のことを言っているのか理解できなかった。まだこっちは寝ぼけてるってのに……ええっと?
「嘘?それに、ファーストだって?」
「そうだ!絶対にあり得ない。とんでもない侮辱だ、こんなのは!」
……これは、俺の夢だ。だから、とりあえず聞いておくだけタダだよな?
「ちょっと、あんた。えらい確信があるみたいだけど、その理由を聞かせてくれないか。あ、つまんない答えはすんなよ。俺の予想の範疇の答えが返ってきたら、俺はあんたを夢だとみなすからな」
「ちぃ、疑り深い少年だな……まあいい、分かった。なぜ確信があるかだって?そんなもの、当たり前だ。私はこの世界の誰よりも、勇者ファーストのことを理解しているからな」
「……あんた、勇者オタクかなにかか?」
「違う!それに、その認識も間違いだ。どれほどのマニアやファンでも、真に彼を理解できたとは言えない。他者を完全に理解することなど不可能だ」
ほう。哲学的なことを言うな。確かに、どれだけよく知った相手でも、完全に理解したとは言えないだろう。生まれた時から一緒にいる親であってもな。もしも、この世で俺について一番詳しいやつの名を上げるとしたら……ん?
「その理屈だと、あんた、まるで……」
夢の中なのに、鳥肌が立つのを感じた。
他人を完全に理解することはできないだって?当然だ。誰かの脳ミソのなかを、まるっと覗くことなどできない。では、世界で誰よりもファーストを理解できる人物とは誰か?他人でないというのなら、この世の中でそれに該当する人物は、たった一人ということになるじゃないか。
「まさか……あんた、ファースト?」
「やっとわかってくれたか。その通りだよ」
「……は?」
自分で言ったのに、思わず疑問符が出てしまった。けど、いやいやいや……さすがに、意味わかんないって。なんで俺の夢に、ファーストが出てくるんだよ?
「あー……やっぱこれ、夢だわ。しかもとびきり意味不明なやつ」
「だから、違うと言っているだろう!」
「あのなぁ、じゃあんたがファーストだって言う、証拠はあんのかよ?え?ないんだろ?」
「くうう……!時間があれば、私の一生涯全てを語ってやれるのだ!けどそんな暇はないから手短に話すぞ、いいか、まず……」
と、自称ファーストが続きを言おうとした、その時だった。俺は意識が、急速に浮上していくのを感じた。でっかい手に鷲掴みにされて、無理やり引き上げられているみたいだ。
「なっ!?おい、待て!まだ肝心なことを……話して……いない……」
(んなこと……言われても……)
夢から覚めるのに、抗える方法なんて思いつかない。声がどんどん遠のいていく……
「くそ……なら、せめてこれだけでも……いいか、魔王の正体は……」
視界が明るくなっていく……何もかもがおぼろげになり……
「はっ」
「起きた?もう朝だよ」
こ、ここは?俺がいるのは、古ぼけたテントの中だ。そこで毛布にくるまり、仰向けで目を開けている。そしてこちらを、フランが覗き込んでいた。
「おはよ」
「フラン……?」
「そうだけど」
「ファースト……?」
「……水をかけてあげようか?」
……寝ぼけていると思われたようだ。いや、実際まだ寝ぼけているか。さっきまでの夢が何だったのか……まだ、整理が付いていない。
「うぅ……なんだったんだ、さっきの夢」
俺は額を押さえながら体を起こした。
「うなされてたよ。変な夢でも見たの?」
「ああ……そうらしい」
夢……だったんだろう。ファーストが夢枕に立つとは、ちょっと考えられないよな。もし夢に出るとしたら、俺じゃなくてアルアの方だろう。
(じゃあ、やっぱり夢のはず……なのに、どうしてあいつの声が、こんなに耳にこびりついているんだ?)
今しがたまで、そこで本当に会話していたようだ。この声、本当にファーストのものなのか?誰かに聞かせて確かめさせたいが、ボイスレコーダーでもあればなぁ。あ、けど結局夢の中だから無理なのか……
「ファーストの夢を見たの?」
フランはそう言いながら、革袋に入った水を渡してくれた。礼を言って、一杯飲む。冷たい水がのどを潤し、目がシャッキリした。
「ぷはっ。いや、たぶん違うと思う。夢に見たくても、俺、ファーストの顔も声も知らないし」
「そうだね。やっぱり、あのレーヴェって子の話を訊いたから?」
「だと思うんだがな……どうにも最近、似たような夢を立て続けに見てる気がするんだ。なんだか気味悪いよ、会ったこともない男の夢ばかりみるなんて」
「……」
フランは少し考えた後、ぼそぼそと聞き取りづらい声で言った。
「だ、だったら……違う人の夢を見ればいいんじゃない?」
「え?それって、例えば?」
「例えば、わたし、とか」
「へ?フランを?」
「この前だって、夢に見てたんでしょ」
うっ。あ、あの時のことか……顔が熱くなると同時に、冷や汗が出る。熱いんだか寒いんだか、しどろもどろな気分だ。
「あ、あれはだな……」
「別に、いいよ」
「うん?」
「ちょっとくらい、えっちな夢でも……許してあげる」
へ……?ぽかんと口を開ける俺をよそに、フランはさっと立ち上がった、気のせいだろうか、頬が赤かったような。
「ほら、さっさと起きて。もう出発だよ」
「あ、お、おう」
確かに、ばっちり目は冴えたな。身が持たないから、こういう起こし方はこれっきりにしてほしいけど。
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