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17章 再開の約束
14-2
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作戦は予定通り、決行された。連合軍は長い列をなし、ヘルズニルへとなだれ込む。ホールを抜け、通路を進み、昨日フレッシュゴーレムと戦闘した部屋までやって来た。
「ここから先は、未知の領域だ。慎重に、だが恐れず進むぞ!」
エドガーの号令のもと、連合軍はさらに上層へと進軍を開始する。城に巻き付くような形の、管状の通路を登っていくと、ことさらに広い部屋へと出た。
「大きいな……」
部屋を見回す。壁際には、太い柱が何本も並んでいる。天井は高く、兵士たちの足音が響く。
「なんだか、神殿みたいなの」
ロウランの感想だ。神殿、か。言い得て妙かもしれない。この部屋はひんやりとしていて、死の静寂に満ちている。どちらかといえば、墓所が正しいのかも。
部屋の最奥、柱を抜けた先には、大きな石の扉が見えた。
「あの扉の奥が、先に続いているのかな」
重そうな扉だ。どうやって開ければいいんだろう?しばらく調べていたが、その扉以外に出口はなく、かといってスイッチのようなものがあるわけでもないらしい。それでもめげずに兵士たちが扉を調べていると……
ズズズ……石臼をひくような音がして、兵士たちがあっと声を上げ、扉から離れた。
「と、扉が……開いてくぞ?」
石の扉が、ひとりでに開き始めた。
「仕掛けが作動したのか?うまくいったってことだな」
「ううん、待って」
フランが、張り詰めた声で言う。
「こうとも考えられない?あの扉は、私たちを入れるために開いたんじゃない……中の“もの”が、外に出るために開いたんだって」
なんだって……?腹の底が、ひやりとした。フランの野性的なカンはこういう時、驚異的な的中率を誇る。まさにその時だ。扉の奥から身の毛もよだつ奇声が聞こえてきた。
「キシャァァ……」
「ヴォロロロ……」
くそ!扉から、なにかが出てくる!
「敵襲ー!てきしゅーう!」
兵士たちが口々に叫ぶと、剣や槍を構える金属音が、一斉に響いた。ジャキン、シュルルーン。
「くそ、始まりはいつも唐突だな!」
「ダーリン、アタシの後ろに!」
ロウランが素早く盾を展開する。よし、幸い扉がノロノロとしか開かないおかげで、先手は取れた。まずは落ち着いて、敵を観察するところから始めよう。
やがて、“それ”がぬぅっと、戸の隙間から頭を突き出した。ワニ……か?巨大な口、鋭い牙。鼻の穴は大きく、目は不格好で、小さい。ワニを醜悪にしたような顔だ。だが、続いて出てきた胴体は、とてもワニとは思えなかった。奴の首から下は、人間だ。背丈は普通の人の二倍近くあり、肌はくすんだ青灰色。そしてなんと、片腕がヘビになっている。
「なんだ、ありゃ……?」
その怪物は、奇怪な、今まで見たことのない姿をしていた。既存の生物の、様々なパーツをつぎはぎにしたような、いびつな構造をしている。しかも一体だけではない。そいつに続いて出てきた奴らも、似たような姿だ。四足歩行の奴もいれば、二本足で立つ奴もいる。足がなく、蛇のように這って動く奴もいた。そんな奴らが、何体も、何体も出てくる……!
「なんだ、あいつら……アニ!あれは、なんていうモンスターなんだ!?」
『わ……わかりません』
「え?」
アニが、困惑するように、ふるふると震えている。わからない?博識な魔法の字引が、知らないだって?
『あんなモンスターは、今まで発見された記録がありません。合成獣のようではありますが……』
「記録がない?新種ってことか?」
『もしくは、人類の発見記録がないのか……いずれにしても、未知数です。気を付けてください!』
「くそ、気を付けるって言われてもな……!」
何に気を付ければいいんだ。火を吹いてくるのか、毒を吐くのか?
正体不明の怪物は、巨大な口から、ダラダラと気持ち悪いよだれを垂らしている。鼻を突く悪臭も漂ってきた。レーヴェを助けた、あの実験室と同じ匂いだ。
「っ!怯むな!やっちまえ!」
あ、バカ!一人の兵士が声を張り上げると、剣を振りかざして、ワニのような怪物に襲い掛かる。兵士の剣がキラリと光ると、ワニ頭の喉元に、まっすぐ突き刺さった。ズブリ!
「どうだ、化け物め!」
兵士が獰猛な笑みを浮かべた。だがすぐに、その顔がこわばる。ワニ頭の怪物は、まったく何の反応もしなかったのだ。まるで他人事のように、自分に突き刺さった剣を見下ろしている。
次の瞬間、怪物の小さな眼が、ぎょろりと動いて兵士を捉えた。しゅるりと、蛇の腕が伸びる。バキン!蛇が剣に絡みついたかと思うと、真っ二つに折れてしまった。兵士は、折れた剣と、怪物に刺さったままの刃を見て、茫然としている。
「ヴォロロロロ!」
怪物が牙を剥いて、兵士に襲い掛かる!一転して襲われる側になった兵士は、折れた剣を放り投げて逃げ出した。仲間の兵士たちが助けようと、矢を何本も打ち込むが、怪物は止まらない。
「くそが!俺の後ろに隠れろ!」
一人の重装兵が、巨大な盾を構えて怪物に突進した。兵士は命からがら、その後ろに駆け込んだ。だが次の瞬間、信じられないことが起こった。
「グパァ!」
怪物が口を開けた。怪物のあごは、ペリカンのようにぐっと広がると、重装兵もろとも、兵士を飲み込んだ。
バギッ!メギッ、バキ、ゴリゴリ……
ウィルが鋭い悲鳴を上げ、フランが唇を噛んだ。
「くっ……そぉ!みんな、戦うぞ!これ以上、殺されてたまるか!」
フランは即座に走り出そうとした。だが、数歩駆けたことろで、急ブレーキを踏んで止まった。
「フラン!?どうした、何かあったのか!」
「違う……あいつらだけじゃない!」
なに?まだ、なにか……?
ズズゥーン……
大きな、地響きのような音が、扉の向こうから響いてきた。まるで、山が歩いているみたいだと、俺はぼんやりと思った。
やがて暗がりの中から、巨大な手が伸びてきて、扉の端を掴んだ。
(そうか……)
なぜあの扉が、あんなにもでかかったのか。怪物たちは普通の人間よりはでかいが、あれほどまで大きな扉は必要なかったはず。けど、今分かった。
あの扉は、あいつに合わせたサイズになっていたんだ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ここから先は、未知の領域だ。慎重に、だが恐れず進むぞ!」
エドガーの号令のもと、連合軍はさらに上層へと進軍を開始する。城に巻き付くような形の、管状の通路を登っていくと、ことさらに広い部屋へと出た。
「大きいな……」
部屋を見回す。壁際には、太い柱が何本も並んでいる。天井は高く、兵士たちの足音が響く。
「なんだか、神殿みたいなの」
ロウランの感想だ。神殿、か。言い得て妙かもしれない。この部屋はひんやりとしていて、死の静寂に満ちている。どちらかといえば、墓所が正しいのかも。
部屋の最奥、柱を抜けた先には、大きな石の扉が見えた。
「あの扉の奥が、先に続いているのかな」
重そうな扉だ。どうやって開ければいいんだろう?しばらく調べていたが、その扉以外に出口はなく、かといってスイッチのようなものがあるわけでもないらしい。それでもめげずに兵士たちが扉を調べていると……
ズズズ……石臼をひくような音がして、兵士たちがあっと声を上げ、扉から離れた。
「と、扉が……開いてくぞ?」
石の扉が、ひとりでに開き始めた。
「仕掛けが作動したのか?うまくいったってことだな」
「ううん、待って」
フランが、張り詰めた声で言う。
「こうとも考えられない?あの扉は、私たちを入れるために開いたんじゃない……中の“もの”が、外に出るために開いたんだって」
なんだって……?腹の底が、ひやりとした。フランの野性的なカンはこういう時、驚異的な的中率を誇る。まさにその時だ。扉の奥から身の毛もよだつ奇声が聞こえてきた。
「キシャァァ……」
「ヴォロロロ……」
くそ!扉から、なにかが出てくる!
「敵襲ー!てきしゅーう!」
兵士たちが口々に叫ぶと、剣や槍を構える金属音が、一斉に響いた。ジャキン、シュルルーン。
「くそ、始まりはいつも唐突だな!」
「ダーリン、アタシの後ろに!」
ロウランが素早く盾を展開する。よし、幸い扉がノロノロとしか開かないおかげで、先手は取れた。まずは落ち着いて、敵を観察するところから始めよう。
やがて、“それ”がぬぅっと、戸の隙間から頭を突き出した。ワニ……か?巨大な口、鋭い牙。鼻の穴は大きく、目は不格好で、小さい。ワニを醜悪にしたような顔だ。だが、続いて出てきた胴体は、とてもワニとは思えなかった。奴の首から下は、人間だ。背丈は普通の人の二倍近くあり、肌はくすんだ青灰色。そしてなんと、片腕がヘビになっている。
「なんだ、ありゃ……?」
その怪物は、奇怪な、今まで見たことのない姿をしていた。既存の生物の、様々なパーツをつぎはぎにしたような、いびつな構造をしている。しかも一体だけではない。そいつに続いて出てきた奴らも、似たような姿だ。四足歩行の奴もいれば、二本足で立つ奴もいる。足がなく、蛇のように這って動く奴もいた。そんな奴らが、何体も、何体も出てくる……!
「なんだ、あいつら……アニ!あれは、なんていうモンスターなんだ!?」
『わ……わかりません』
「え?」
アニが、困惑するように、ふるふると震えている。わからない?博識な魔法の字引が、知らないだって?
『あんなモンスターは、今まで発見された記録がありません。合成獣のようではありますが……』
「記録がない?新種ってことか?」
『もしくは、人類の発見記録がないのか……いずれにしても、未知数です。気を付けてください!』
「くそ、気を付けるって言われてもな……!」
何に気を付ければいいんだ。火を吹いてくるのか、毒を吐くのか?
正体不明の怪物は、巨大な口から、ダラダラと気持ち悪いよだれを垂らしている。鼻を突く悪臭も漂ってきた。レーヴェを助けた、あの実験室と同じ匂いだ。
「っ!怯むな!やっちまえ!」
あ、バカ!一人の兵士が声を張り上げると、剣を振りかざして、ワニのような怪物に襲い掛かる。兵士の剣がキラリと光ると、ワニ頭の喉元に、まっすぐ突き刺さった。ズブリ!
「どうだ、化け物め!」
兵士が獰猛な笑みを浮かべた。だがすぐに、その顔がこわばる。ワニ頭の怪物は、まったく何の反応もしなかったのだ。まるで他人事のように、自分に突き刺さった剣を見下ろしている。
次の瞬間、怪物の小さな眼が、ぎょろりと動いて兵士を捉えた。しゅるりと、蛇の腕が伸びる。バキン!蛇が剣に絡みついたかと思うと、真っ二つに折れてしまった。兵士は、折れた剣と、怪物に刺さったままの刃を見て、茫然としている。
「ヴォロロロロ!」
怪物が牙を剥いて、兵士に襲い掛かる!一転して襲われる側になった兵士は、折れた剣を放り投げて逃げ出した。仲間の兵士たちが助けようと、矢を何本も打ち込むが、怪物は止まらない。
「くそが!俺の後ろに隠れろ!」
一人の重装兵が、巨大な盾を構えて怪物に突進した。兵士は命からがら、その後ろに駆け込んだ。だが次の瞬間、信じられないことが起こった。
「グパァ!」
怪物が口を開けた。怪物のあごは、ペリカンのようにぐっと広がると、重装兵もろとも、兵士を飲み込んだ。
バギッ!メギッ、バキ、ゴリゴリ……
ウィルが鋭い悲鳴を上げ、フランが唇を噛んだ。
「くっ……そぉ!みんな、戦うぞ!これ以上、殺されてたまるか!」
フランは即座に走り出そうとした。だが、数歩駆けたことろで、急ブレーキを踏んで止まった。
「フラン!?どうした、何かあったのか!」
「違う……あいつらだけじゃない!」
なに?まだ、なにか……?
ズズゥーン……
大きな、地響きのような音が、扉の向こうから響いてきた。まるで、山が歩いているみたいだと、俺はぼんやりと思った。
やがて暗がりの中から、巨大な手が伸びてきて、扉の端を掴んだ。
(そうか……)
なぜあの扉が、あんなにもでかかったのか。怪物たちは普通の人間よりはでかいが、あれほどまで大きな扉は必要なかったはず。けど、今分かった。
あの扉は、あいつに合わせたサイズになっていたんだ。
つづく
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