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17章 再開の約束
14-4
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お?俺たちの後ろから、三人目の勇者が駆けつけてきた。
「大丈夫?加勢に来たよ!」
尊が肩をはずませながら、俺とクラークの間に立った。その後からは、デュアンが青い顔で、よたよたと必死に付いてきている。
「尊、デュアン!」
「尊さん、こんなところに来ては危ないですよ!」
クラークに凄まれ、尊はびくっと首を縮めたが、すぐに言い返した。
「どうして?私だって勇者だよ。みんなと一緒に戦う!」
「う、で、ですが……」
クラークは、助けを求めるようにこちらを見てきた。なんでそんな目で見るんだよ、俺を!昨日の夜、あんな尊を見た後じゃ、引っ込んでろとは言えないじゃないか。
(けど正直、俺も不安だ……)
尊の実力が、じゃない。気がはやって、無茶をしないかが心配なんだ。
「それで、どんな状況なの?」
有無を言わさぬ様子で、尊が先を促してくる。クラークは渋々口を開いた。
「それが……僕の電撃でも、びくともしない相手です」
「え……」
尊が一瞬で勢いを失う。後ろでデュアンが不安そうにしていた。
「と、とりあえず!やってみなくちゃ、分からないよね!」
尊は呪文の詠唱の為に、数歩後ろに下がった。どころが、最後の一歩で足をもつれさせ、そのまま後ろにいたデュアンを捲き込んで、ひっくり返ってしまった。どしーん!
……居ないほうがよかったかなぁ。
「バゴオオオ!」
うおっ、漫才やってる場合じゃないぞ!化けサソリが暴れ出したので、俺たちは散り散りに逃げ出した。アルルカとフランが応戦しているが、二人がかりで気を引くのがやっとだ。
「くそ!せめて少しでもダメージを与えないと、あいつ、止まらないぞ!」
「桜下!ライラがやってみる!」
ライラがばっと両手を広げた。
「わかった!あいつのハサミを狙ってくれ!四本も腕があるんだ、一本くらい平気だろ!」
多少荒っぽくても勘弁してもらおう。ライラがうつむいて、詠唱を開始する。その間にも、アルルカ、フラン、ウィルに、クラーク、アドリア、さらに尊まで束になって攻撃していたが、サソリの化け物は、あらゆる攻撃に怯まない。あいつ、痛みを感じるのか?
「それなら、これでどうだ!カマイタチ!」
ぶん!ライラが宙を掻くように、両手を振り下ろす。風の刃が飛び出し、サソリのはさみ目掛けて、空を裂きながら飛んで行った。ガキィン!
「なにぃ!?」
弾かれた?アイアンゴーレムすら粉砕した魔法だぞ!奴の甲殻に跳ね返されたカマイタチは、あらぬ方向へ飛んで行き、壁に激突した。ズガァ!
壁が吹っ飛び、細長い穴が空いた。そこから、朝の弱い日差しが差し込んでくる。頑丈なヘルズニルの壁に穴を空けるってことは、ライラの魔法は間違いなく強力だってことだ。それなのに……
「まさか、あいつ!」
ライラが目を見開いた。
「あいつも、AMAを持ってる!城の門と同じだ!」
何だって?ああクソ、そういうことかよ!あいつはただ頑丈なだけじゃなくて、魔法そのものを無効化していたんだ!城門で戦った、浮遊砲台と同じだ。
「けどそうなると、いよいよ物理しか効かないじゃないか……」
だが問題は、あいつのでかさだ。殺す殺さないどころか、俺たちが殺されないようにするので精いっぱいだぞ。あんな馬鹿でかいモンスターを、どうやって殴り倒せばいいんだ?
ライラの魔法まで通用しなかったのを見てか、ウィルが上空から降りてきた。
「お、桜下さん!あの怪物、魔法が効きませんよ!」
「ああ、分かってる!くそ、でもどうすりゃいいんだ?」
ぎりりと歯噛みする俺を見て、ウィルはこくんとうなずいた。
「お願いします、桜下さん。こうなるともう、司令塔の桜下さんだけが頼りです」
「お、俺?」
「そうだよ、ダーリン!」
ロウランが大声で言いながら、盾を展開する。飛んできたがれきが、盾に当たって轟音を上げた。
「お願い!アタシたちだけじゃ、勝てないの!勝つための作戦を!時間稼ぎはやっとくから!」
はっとした。二人は、俺がみなを勝利に導くと信じてくれている。だからわざわざ、俺に指示を仰ぎに来たんだ。ウィルとロウランの言葉は、俺にプレッシャーよりも、勇気をわき起こさせた。やけになってる場合かよ、俺!
(考えろ!俺にできることは、それしかないんだ!)
考えろ、奴を倒す方法!
フランが化けサソリに殴り掛かった。だがサソリは怯みもせず、煩わしそうにハサミを振り回す。
(怪力のフランでさえあれだ。殴ってKOっていうのは、とても無理だ)
アルルカが氷魔法を放って、動きを止めた。そこにクラークの雷が降り注ぐ。煙の中からは、無傷の怪物が姿を現した。
(けど、魔法もあれだ!こっちの攻撃は、まるで効いてない)
せいぜい、奴の動きを一時的に止めるくらいが精いっぱいといったところか。あの浮遊砲台と違って、司令部を叩くという裏技も使えない。くそ、いつかの森で、ダイダラボッチと戦った時を思い出すな。あいつのような、意外な弱点なんかはないのか?俺は藁にも縋る思いで、化けサソリにじっと注目した。
「うっ、眩し……」
奴の黒いハサミに、光が反射したんだ。それに、奴の後方からも光が差し込んでくる。なにかと思ったら、さっきライラが空けた穴から、日の光が差していた。太陽が昇って、日差しが強くなってきたようだ。ちっ、眩しくて考えがまとまらないじゃないか!イライラしながら、手でひさしを作ったその時……
「……光?」
その瞬間、俺の脳裏に、まさしく光明が差した。
「……見つけたぞ!奴の攻略法だ!」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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お?俺たちの後ろから、三人目の勇者が駆けつけてきた。
「大丈夫?加勢に来たよ!」
尊が肩をはずませながら、俺とクラークの間に立った。その後からは、デュアンが青い顔で、よたよたと必死に付いてきている。
「尊、デュアン!」
「尊さん、こんなところに来ては危ないですよ!」
クラークに凄まれ、尊はびくっと首を縮めたが、すぐに言い返した。
「どうして?私だって勇者だよ。みんなと一緒に戦う!」
「う、で、ですが……」
クラークは、助けを求めるようにこちらを見てきた。なんでそんな目で見るんだよ、俺を!昨日の夜、あんな尊を見た後じゃ、引っ込んでろとは言えないじゃないか。
(けど正直、俺も不安だ……)
尊の実力が、じゃない。気がはやって、無茶をしないかが心配なんだ。
「それで、どんな状況なの?」
有無を言わさぬ様子で、尊が先を促してくる。クラークは渋々口を開いた。
「それが……僕の電撃でも、びくともしない相手です」
「え……」
尊が一瞬で勢いを失う。後ろでデュアンが不安そうにしていた。
「と、とりあえず!やってみなくちゃ、分からないよね!」
尊は呪文の詠唱の為に、数歩後ろに下がった。どころが、最後の一歩で足をもつれさせ、そのまま後ろにいたデュアンを捲き込んで、ひっくり返ってしまった。どしーん!
……居ないほうがよかったかなぁ。
「バゴオオオ!」
うおっ、漫才やってる場合じゃないぞ!化けサソリが暴れ出したので、俺たちは散り散りに逃げ出した。アルルカとフランが応戦しているが、二人がかりで気を引くのがやっとだ。
「くそ!せめて少しでもダメージを与えないと、あいつ、止まらないぞ!」
「桜下!ライラがやってみる!」
ライラがばっと両手を広げた。
「わかった!あいつのハサミを狙ってくれ!四本も腕があるんだ、一本くらい平気だろ!」
多少荒っぽくても勘弁してもらおう。ライラがうつむいて、詠唱を開始する。その間にも、アルルカ、フラン、ウィルに、クラーク、アドリア、さらに尊まで束になって攻撃していたが、サソリの化け物は、あらゆる攻撃に怯まない。あいつ、痛みを感じるのか?
「それなら、これでどうだ!カマイタチ!」
ぶん!ライラが宙を掻くように、両手を振り下ろす。風の刃が飛び出し、サソリのはさみ目掛けて、空を裂きながら飛んで行った。ガキィン!
「なにぃ!?」
弾かれた?アイアンゴーレムすら粉砕した魔法だぞ!奴の甲殻に跳ね返されたカマイタチは、あらぬ方向へ飛んで行き、壁に激突した。ズガァ!
壁が吹っ飛び、細長い穴が空いた。そこから、朝の弱い日差しが差し込んでくる。頑丈なヘルズニルの壁に穴を空けるってことは、ライラの魔法は間違いなく強力だってことだ。それなのに……
「まさか、あいつ!」
ライラが目を見開いた。
「あいつも、AMAを持ってる!城の門と同じだ!」
何だって?ああクソ、そういうことかよ!あいつはただ頑丈なだけじゃなくて、魔法そのものを無効化していたんだ!城門で戦った、浮遊砲台と同じだ。
「けどそうなると、いよいよ物理しか効かないじゃないか……」
だが問題は、あいつのでかさだ。殺す殺さないどころか、俺たちが殺されないようにするので精いっぱいだぞ。あんな馬鹿でかいモンスターを、どうやって殴り倒せばいいんだ?
ライラの魔法まで通用しなかったのを見てか、ウィルが上空から降りてきた。
「お、桜下さん!あの怪物、魔法が効きませんよ!」
「ああ、分かってる!くそ、でもどうすりゃいいんだ?」
ぎりりと歯噛みする俺を見て、ウィルはこくんとうなずいた。
「お願いします、桜下さん。こうなるともう、司令塔の桜下さんだけが頼りです」
「お、俺?」
「そうだよ、ダーリン!」
ロウランが大声で言いながら、盾を展開する。飛んできたがれきが、盾に当たって轟音を上げた。
「お願い!アタシたちだけじゃ、勝てないの!勝つための作戦を!時間稼ぎはやっとくから!」
はっとした。二人は、俺がみなを勝利に導くと信じてくれている。だからわざわざ、俺に指示を仰ぎに来たんだ。ウィルとロウランの言葉は、俺にプレッシャーよりも、勇気をわき起こさせた。やけになってる場合かよ、俺!
(考えろ!俺にできることは、それしかないんだ!)
考えろ、奴を倒す方法!
フランが化けサソリに殴り掛かった。だがサソリは怯みもせず、煩わしそうにハサミを振り回す。
(怪力のフランでさえあれだ。殴ってKOっていうのは、とても無理だ)
アルルカが氷魔法を放って、動きを止めた。そこにクラークの雷が降り注ぐ。煙の中からは、無傷の怪物が姿を現した。
(けど、魔法もあれだ!こっちの攻撃は、まるで効いてない)
せいぜい、奴の動きを一時的に止めるくらいが精いっぱいといったところか。あの浮遊砲台と違って、司令部を叩くという裏技も使えない。くそ、いつかの森で、ダイダラボッチと戦った時を思い出すな。あいつのような、意外な弱点なんかはないのか?俺は藁にも縋る思いで、化けサソリにじっと注目した。
「うっ、眩し……」
奴の黒いハサミに、光が反射したんだ。それに、奴の後方からも光が差し込んでくる。なにかと思ったら、さっきライラが空けた穴から、日の光が差していた。太陽が昇って、日差しが強くなってきたようだ。ちっ、眩しくて考えがまとまらないじゃないか!イライラしながら、手でひさしを作ったその時……
「……光?」
その瞬間、俺の脳裏に、まさしく光明が差した。
「……見つけたぞ!奴の攻略法だ!」
つづく
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