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17章 再開の約束

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「桜下さん!本当ですか!」

「ダーリン、さすがなの!」

ウィルとロウランが歓喜の声を上げた。俺はうなずくと、急いで指示を出す。

「少しだけ時間が欲しい!三十秒でいい、あいつを止められないか?」

「分かりました!動きを止めるだけなら……」

ウィルが呪文に集中する。間もなく、ロッドを旗のように振った。

「シーダー・シェード!」

ブワァー!ウィルのロッドから、真っ白な煙が噴き出した。煙幕か!突然の白煙に、化けサソリも、戦っていた仲間たちも足を止めた。

「フラン!アルルカ!戻ってきてくれ!」

俺が叫ぶと、二人はあっという間に煙を突き破ってきた。

「ちょっと、どういうつもりよ!ただのやけっぱちなんて言ったら、ぶっ飛ばすからね!」

アルルカが開口一番に悪態をつく。

「安心しろ、んなわけねえ」

「そうですよ、アルルカさん!意味もなくこんなことしません!」

フランは顔についた土埃を払おうともせずに、こくんとうなずいた。

「桜下、なにか思いついたんだね」

「ああ。今から、作戦を言う。みんな、よく聞いてくれ」

仲間たちは真剣な顔でうなずいた。ブツブツ言っていたアルルカでさえ、真面目な顔になる。フランが続きを促した。

「どんな方法?どうすれば、あいつを倒せる?」

「いや。それは無理だ」

「えっ」

「方法が見つかんなかった。あいつは、倒せねぇよ」

「…………は?」

フランは豆鉄砲を喰らったような顔になった。アルルカは神妙な顔で俺の頭を掴むと、重い切り左右に揺さぶってきた。

「な、なにす、るんだ」

「いや、カラカラ音がするんじゃないかと思って……」

なわけあるか!俺は手を振り払うと、素早く距離を取る。そうしないと、今度はみんなが揺すってきそうだったから。

「最後まで聞けって!ちゃんと考えたうえでの結論なんだよ」

「ホントでしょうね……じゃあ、言ってみなさいよ」

「いいか。あいつには魔法も効かないし、えらくタフだ。フランがどついたって、平然と反撃してくるんだからな」

フランが渋々と言った様子でうなずく。

「だから、倒さない。その上で、あいつを無力化する」

「……どうやって?」

「それはだな……」

俺が作戦を伝えると……みんなは目を丸くした。



「よし、行くぞ!作戦開始だ!」

俺が声を張り上げると同時に、仲間たちが一斉に散り散りになった。フラン、ウィル、アルルカは前へ。ロウランとライラは後ろに。いつものフォーメーションだが、今回は一味違うぞ。

「いくよ、ロウラン!」

「おっけーなの!」

ライラの掛け声に合わせて、ロウランは合金を操り、長いひも状に変形させた。ひもの先端には、合金が集まって球になっている。さながらモーニングスターだ。そこへ、ライラが両手をかざす。

「サイプレス・シェイパー!」

キュルルルル!風が渦を巻きながら、合金の球部分に纏わりついた。ライラがうなずいたのを見ると、ロウランは合金の紐を、むんずと掴んだ。

「いっくのー!」

ロウランは掴んだ合金を、ぶんぶんと振り回し始めた。金は円を描きながら、次第に伸びて、半径を増していく。風を纏った球が壁や床を掠めると、鋭い刃物で切り付けられたような筋傷がいくつも刻まれた。

「えーい!」

ロウランが合金を投げた!球はまっすぐ、化けサソリに飛んで行く。 

「バゴオオオ!」

怪物が吠えると、球を迎え撃とうとする。だが、その必要もなかった。球は明後日の方向に飛び、後方の壁にぶち当たった。
ズガガーン!

「おい!外しているじゃないか!」

ん?うるさいな、いいところだってのに。文句を言ってきたのは、クラークだ。さっきウィルが起こした煙のせいで、彼らも一旦後ろに下がっていたようだ。

「だいたい、さっきの煙幕はなんだよ!僕たちに断りもなく!」

「悪かったって。時間がなかったんだよ」

「時間だって?それだけ仕込みの時間を作っておきながら、さっきの一撃を外したのかい?信じられないよ、まったく!」

「ええい、うるせえな!だいたい、外してなんかいねえって!これでいいんだよ」

「なに?」

俺は、サソリの後方を指さす。そこには、大きな穴が空いていた。さっきライラの魔法で傷つき、そしてロウランの鉄球によって破壊されたのだ。
そう、最初から狙いは、サソリじゃない。壁だ。

「今だ、みんな!」

それを合図にしたかのように、フランたちは猛攻を仕掛け始めた。フランが体当たりを食らわせたところに、ウィルがフレイムパインを打ち込むと、突き出てきた杭に押されて、サソリの化け物はバランスを崩した。そこにアルルカが飛び込む。

「オターリア・ハンマー!どりゃあああ!」

巨大な氷のハンマーが、サソリの体にグワーンとぶち当たった。これにはさすがに、サソリもよろよろと数歩後ろによろめいた。だが、その体にはほとんど傷はない。

「おい、桜下!さっきから、一体何をしているんだよ!あいつには、魔法は効かないんだって!」

クラークはまだ気づかないらしい。ちぃ、鈍いやつだな。

「わかってるっつの!いいから、お前も手伝え!あいつにどんどん攻撃するんだ!」

「はあぁ?何をトンチンカンな……」

すると、その横で話を聞いていたアドリアが、はっと目を見開いた。

「そういうことか……!おいクラーク、我々も加勢するぞ!」

「え、え?アドリア?」

「あいつの脚を攻撃しろ!バランスを崩すんだ!」

アドリアは言うが早いか、矢をつがえてバンバン撃ち始めた。気づいたな?そういうことだ!クラークはまだ納得していない様子だったが、先に仲間が始めてしまったので、文句を言っていられなくなった。

「なんだんだよ、まったく!ライスライン!」

ジジジジ!地を這う電撃が、サソリの脚目掛けて飛んで行く。俺はもう一人の勇者にも声をかける。

「尊!手を貸してくれないか!」

尊がびっくりした顔で、こちらを振り返った。忘れられていなかったことに驚いているようにも見える。

「わ、私?私に何かできるかな……」

「ああ!お前の力が必要なんだ。頼む!」

「でも、何をすればいいの?」

「威力はどうでもいいんだ!とにかく、あいつの足下を悪くできないか?」

「あ、足下?」

尊は目を丸くした。だがすぐにハッとなる。

「派手な攻撃じゃなくていいんだね?それなら……」

尊は少し考えると、うつむいてぶつぶつと口を動かし始めた。

「スラグスリップ!」

うわっ。尊の足下から、ぬめぬめした粘っこい水が溢れ出した。それは生き物のようにうねり、サソリの足下へと広がっていく。

「バゴアアァァ!?」

おおっ!サソリがつるつると脚を滑らせ始めたぞ!何本もある脚を必死に動かす姿は滑稽だ。俺は思わずニヤリとしてしまったが、笑っている場合じゃない。

「チャンスだ!畳みかけろ!」

総攻撃だ!ライラも攻撃呪文を唱え、ロウランさえも包帯でがれきを掴んで投げ飛ばした。一斉攻撃によって、サソリの化け物は、徐々に後ろに押しやられていく。そして奴の背後には、さっきロウランが開けた穴がある……!

「頑張れ!あと一押しだ!」

バチバチバチバチ!凄まじい光が、クラークの剣から迸っている。やつはその切っ先を、まっすぐサソリへと向けた。

「コンタクト・ガルネーレ!」

バラララ!紫色の電撃が、ジグザグに曲がりながら飛び出した。電撃は化けサソリの胴体に食らいつく。

「はあああああ!」

クラークが気合を入れると、サソリは電撃に押されて、どんどん後ろに追いやられた。よし、行ける!奴の体が穴の外に出た、そう思ったその時だ。サソリは最後の意地とばかりに、両手とはさみ、さらにしっぽまで使って、穴の淵にがしっとかじりついた。

「ああっ、くそ!あと一息なのに!」

クラークは舌打ちして、電撃を流し続けるが、サソリは手を放さない。くそ、どこまでもしぶとい!
ひゅっ。視界の端を、銀色のものが走り抜けた。え?ふ、フラン?

「……っ!クラーク!電気を止めろ!」

意図に気付いた俺は、とにかく必死で、ぶんぶんと手を振った。俺の迫真さが伝わったのか、クラークは電撃魔法を解除した。それとほぼ同タイミングで、フランはドンッと床を蹴った。

「やああああ!」

跳躍したフランがその勢いのまま、拳を突き出す!バキッ!拳は、怪物のゴツゴツしたあごを、きれいに撃ち抜いた。ぐらりと体が揺れ、手が淵を離れる。サソリの化け物とフランは、共に穴から落ちて、見えなくなってしまった。

「ふ、フラァァァン!」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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