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17章 再開の約束
15-1 研究室
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15-1 研究室
た、大変だ!俺は半狂乱になって駆け出した。が……
「うおっ!」
あろうことか、尊の生み出したぬめぬめの液体に足を取られて、思い切りすっころんでしまった。さらに勢いは止まらず、そのまま穴へと滑っていく!
「きゃあー!桜下さぁーん!」
ま、まずいぞ!踏ん張ろうとしても、全然止まらない!穴はみるみる迫ってきて、あわやそのまま外に……!目をギュッとつぶった瞬間、何かが俺の腹のあたりを掴んで、強い力で引っ張った。
「ちょっと!気を付けてよ、もう」
「え……?フラン!無事だったのか!」
俺を掴んでくれたのは、穴から落ちたと思ったフランその人だった。
「よ、よかった……でも、どうやって?」
「壁に爪を突き刺してたんだよ。一緒に落ちてやる義理はないでしょ」
「ああ、あはは。そうだったのか……」
俺の取り越し苦労だったのか。それもそうだ、フランはその辺は、しっかり抜け目ないからな。フランがじとーっとした目をする。
「……むしろ、あなたの方が落っこちるところだったけどね」
「うっ。面目ない……」
助けるどころか、余計な手間をかけさせてしまった。か、かっこわる……
「……でも、うれしかったよ。心配してくれて」
「へ?」
聞き間違いかと思うほど小さな声で、フランがそう言った気がしたんだが……聞き返す間もなく、フランは俺を引っ張り上げた。
「さ、立てる?こっちは片付いたけど、まだ小さい方が残ってる。加勢に行くんでしょ?」
「あ、ああ。そうだな、行こう!」
残った怪物の掃討は、じきに終了した。でかいのが片付いてしまえば、残りはあっけないもんだった。
クラークは広範囲に雷を降らせ、まとめて敵を掃討した。が、あくまで麻痺させて動けなくしただけで、殺すまではしなかった。意外だ、やつはモンスターには容赦しなかったと思ったが。クラークもレーヴェの話を聞いていたから、やっぱり思うところがあったのかもしれない。俺たちは俺たちで、怪物を次々と壁に空いた穴へと放り投げていった。そうやって数が減ってくるほど、連合軍の兵士たちの士気も上がり、戦いはまたしても俺たちの勝利で終わった。
「けど……無傷とは、いかなかったな」
苦い気持ちで呟く。俺たちが化けサソリと戦っている間に、何人もの連合軍がやられてしまった。もちろん、全体で見れば少ない犠牲ではあったのだけれど、それでもスッキリとはしない。
「しょうがないの、ダーリン。戦争に犠牲は付きものなんだから」
ロウランが慰めてくれたが、こればっかりは、なかなか受け入れ慣れるもんじゃない。それに、慣れてもいけない気もする。
「桜下さん、怪我はありませんか?」
ウィルがふわふわとやってくると、俺の体をあちこち見回した。
「大丈夫だ、ウィル。みんながばっちり仕事してくれたからな」
「何言ってるんですか、桜下さんの作戦のおかげですよ。素晴らしい采配でした!」
「へへへ。そうか?ありがとな」
鼻の頭をかく……うん。なんだか、少し元気が出てきた。
「ふぅ。しかし、しょっぱなから飛ばしてくるな」
これで初戦なんだからな、先が思いやられるとはまさにこのことだ。俺が溜息をついていると、フランがくいくいと袖を引っ張ってきた。
「ん?どうした……?」
「しっ。ちょっと、付いてきてくれない」
うん……?フランは目だけで、目的地を伝えてくる。
「あっち」
あっちってのは……大きな石の扉。あそこ、怪物たちが出てきた所じゃないか?
「あの中に行こうってのか?」
「あの奥、なんだか嫌な気配がする……」
なに?敵、ではないだろう。それならとっくに出てきているはず。それなら……俺は知らず知らずのうちに、声を抑えていた。
「……確かめてみるか。ついてきてくれるか?」
「もちろん」
「よし。目立たないほうがいいだろうな。俺たち二人で行こう」
俺とフランは、扉へこっそり近づいて行く。仲間たちはあえて知らん顔して、俺たちが消えたことを悟られないようにしていた。クラークあたりに見とがめられたら、面倒なことになりそうだからな。幸い辺りは怪我人の治療やらで騒がしかったので、扉の中に忍び込むことはそれほど難しくなかった。
「よっと……暗いな」
中には、明かりが一切ない。空気はほこりっぽく、なんとなく嫌な匂いがした。分厚い扉が音を遮るのか、連合軍の喧騒が遠く聞こえる。
「さてと、アニ?」
『かしこまりました』
首から下げたアニが、青白い光で部屋の中を照らし出す。かなり広い部屋のようだ。左右の壁には一定間隔でくぼみが空いていて、底のほうは何かの液体で濡れている。その液体が、床に何かが這いずったような跡を残していた。
「さっきの怪物は、あそこから出てきたのか……」
奥に進んでいくと、ひときわ大きなくぼみを見つけた。さっきの化けサソリがいた場所と見て、間違いないだろう。
「そういや、あの化けサソリはどうなった?下まで落ちてったけど」
俺はふと思い出して、フランに訊ねる。
「うん。さすがにかなりのダメージみたいだったけど、死んでないよ。動くのを見たから。けど、当分はあの場から動けないと思う」
「そっか。まあ、よかったと見るべきなんだろうな」
それでも、不安になる。あいつを殺さなかったことによって、今後俺たちが不幸にならないだろうか?俺の立てた作戦は、果たして間違っていなかったのだろうか……そんな俺の不安を読み取ったのか、フランが手を握ってきた。
「フラン?」
「大丈夫。あなたは間違ってないって、わたし、信じてる。もし何かあっても、わたしが何とかして見せるから」
「フラン……ありがとう」
俺たちは手を繋いだまま、部屋の先に進んでいった。どうやら、このまま進むと、上のフロアへと続く通路に繋がっているらしい。
「この先は、みんなと一緒に行ったほうがいいだろうな」
「うん。この部屋も、ここまでみたいだし。でも、別に変なものはなかったね……」
「そう、だよな。あいつらが出てきたくぼみはあったけど、もう出た後だったし……」
それなら、フランの感じた嫌な気配とは、なんだったんだろう?ただの気のせい?いや、けどフランのカンは馬鹿にできない。俺は改めて、薄暗い部屋をじっくりと見回してみた。
「……ん?フラン。あそこ、何か見えないか?」
「え?どこ?」
そこにアニを向けて見ると、光を吸い込む、真っ黒な戸口が見つかった。
「別の部屋か!あそこには何が……?」
「……行ってみよう。けど、用心して。わたしの後ろに隠れて」
俺は言われた通りにした。フランを前にして、慎重にその戸口へ向かう。中を覗き込むと……
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ちょっと!気を付けてよ、もう」
「え……?フラン!無事だったのか!」
俺を掴んでくれたのは、穴から落ちたと思ったフランその人だった。
「よ、よかった……でも、どうやって?」
「壁に爪を突き刺してたんだよ。一緒に落ちてやる義理はないでしょ」
「ああ、あはは。そうだったのか……」
俺の取り越し苦労だったのか。それもそうだ、フランはその辺は、しっかり抜け目ないからな。フランがじとーっとした目をする。
「……むしろ、あなたの方が落っこちるところだったけどね」
「うっ。面目ない……」
助けるどころか、余計な手間をかけさせてしまった。か、かっこわる……
「……でも、うれしかったよ。心配してくれて」
「へ?」
聞き間違いかと思うほど小さな声で、フランがそう言った気がしたんだが……聞き返す間もなく、フランは俺を引っ張り上げた。
「さ、立てる?こっちは片付いたけど、まだ小さい方が残ってる。加勢に行くんでしょ?」
「あ、ああ。そうだな、行こう!」
残った怪物の掃討は、じきに終了した。でかいのが片付いてしまえば、残りはあっけないもんだった。
クラークは広範囲に雷を降らせ、まとめて敵を掃討した。が、あくまで麻痺させて動けなくしただけで、殺すまではしなかった。意外だ、やつはモンスターには容赦しなかったと思ったが。クラークもレーヴェの話を聞いていたから、やっぱり思うところがあったのかもしれない。俺たちは俺たちで、怪物を次々と壁に空いた穴へと放り投げていった。そうやって数が減ってくるほど、連合軍の兵士たちの士気も上がり、戦いはまたしても俺たちの勝利で終わった。
「けど……無傷とは、いかなかったな」
苦い気持ちで呟く。俺たちが化けサソリと戦っている間に、何人もの連合軍がやられてしまった。もちろん、全体で見れば少ない犠牲ではあったのだけれど、それでもスッキリとはしない。
「しょうがないの、ダーリン。戦争に犠牲は付きものなんだから」
ロウランが慰めてくれたが、こればっかりは、なかなか受け入れ慣れるもんじゃない。それに、慣れてもいけない気もする。
「桜下さん、怪我はありませんか?」
ウィルがふわふわとやってくると、俺の体をあちこち見回した。
「大丈夫だ、ウィル。みんながばっちり仕事してくれたからな」
「何言ってるんですか、桜下さんの作戦のおかげですよ。素晴らしい采配でした!」
「へへへ。そうか?ありがとな」
鼻の頭をかく……うん。なんだか、少し元気が出てきた。
「ふぅ。しかし、しょっぱなから飛ばしてくるな」
これで初戦なんだからな、先が思いやられるとはまさにこのことだ。俺が溜息をついていると、フランがくいくいと袖を引っ張ってきた。
「ん?どうした……?」
「しっ。ちょっと、付いてきてくれない」
うん……?フランは目だけで、目的地を伝えてくる。
「あっち」
あっちってのは……大きな石の扉。あそこ、怪物たちが出てきた所じゃないか?
「あの中に行こうってのか?」
「あの奥、なんだか嫌な気配がする……」
なに?敵、ではないだろう。それならとっくに出てきているはず。それなら……俺は知らず知らずのうちに、声を抑えていた。
「……確かめてみるか。ついてきてくれるか?」
「もちろん」
「よし。目立たないほうがいいだろうな。俺たち二人で行こう」
俺とフランは、扉へこっそり近づいて行く。仲間たちはあえて知らん顔して、俺たちが消えたことを悟られないようにしていた。クラークあたりに見とがめられたら、面倒なことになりそうだからな。幸い辺りは怪我人の治療やらで騒がしかったので、扉の中に忍び込むことはそれほど難しくなかった。
「よっと……暗いな」
中には、明かりが一切ない。空気はほこりっぽく、なんとなく嫌な匂いがした。分厚い扉が音を遮るのか、連合軍の喧騒が遠く聞こえる。
「さてと、アニ?」
『かしこまりました』
首から下げたアニが、青白い光で部屋の中を照らし出す。かなり広い部屋のようだ。左右の壁には一定間隔でくぼみが空いていて、底のほうは何かの液体で濡れている。その液体が、床に何かが這いずったような跡を残していた。
「さっきの怪物は、あそこから出てきたのか……」
奥に進んでいくと、ひときわ大きなくぼみを見つけた。さっきの化けサソリがいた場所と見て、間違いないだろう。
「そういや、あの化けサソリはどうなった?下まで落ちてったけど」
俺はふと思い出して、フランに訊ねる。
「うん。さすがにかなりのダメージみたいだったけど、死んでないよ。動くのを見たから。けど、当分はあの場から動けないと思う」
「そっか。まあ、よかったと見るべきなんだろうな」
それでも、不安になる。あいつを殺さなかったことによって、今後俺たちが不幸にならないだろうか?俺の立てた作戦は、果たして間違っていなかったのだろうか……そんな俺の不安を読み取ったのか、フランが手を握ってきた。
「フラン?」
「大丈夫。あなたは間違ってないって、わたし、信じてる。もし何かあっても、わたしが何とかして見せるから」
「フラン……ありがとう」
俺たちは手を繋いだまま、部屋の先に進んでいった。どうやら、このまま進むと、上のフロアへと続く通路に繋がっているらしい。
「この先は、みんなと一緒に行ったほうがいいだろうな」
「うん。この部屋も、ここまでみたいだし。でも、別に変なものはなかったね……」
「そう、だよな。あいつらが出てきたくぼみはあったけど、もう出た後だったし……」
それなら、フランの感じた嫌な気配とは、なんだったんだろう?ただの気のせい?いや、けどフランのカンは馬鹿にできない。俺は改めて、薄暗い部屋をじっくりと見回してみた。
「……ん?フラン。あそこ、何か見えないか?」
「え?どこ?」
そこにアニを向けて見ると、光を吸い込む、真っ黒な戸口が見つかった。
「別の部屋か!あそこには何が……?」
「……行ってみよう。けど、用心して。わたしの後ろに隠れて」
俺は言われた通りにした。フランを前にして、慎重にその戸口へ向かう。中を覗き込むと……
つづく
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