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序章 無能と言われた勇者
序章三節 - 大きな誤算[1]
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【-追憶終了- 大きな誤算】
あいつが何を言っていたのか、なぜ初対面の俺にあそこまで恨みのこもった目を向けたのか、その男「ゴルメド=ソード」に怒鳴られている今ならわかるが、当時は皆目見当がつかなかった。そして、このショッキングな出来事が俺に「最強の言語スキル」を願わせる大きな理由になった。言葉が伝わらない、理解できない言葉で怒鳴られる。その経験は俺に過大なストレスを与えたのだ。
それに、この世界に呼ばれた時点で、俺には何かチート級の強い力が秘められていると勘違いしていた。だってそうだろう? 俺には召喚された理由があるはずだ。気づいていないだけで偉大な力が眠っているとか、実はこの世界の偉人の子孫だったとか。俺は「特別」なんだと思っていた。だから、それを補助する能力として、俺は神にこの世界の住人と意思疎通する手段を願ったんだ。結果的にそれは間違いで、言葉がわかるだけの無能な俺が出来上がってしまったわけだが……。
「吾輩には時間がないのだぞ! それを、貴様のような無能にッ!!」
男の怒鳴り声が俺の意識を回想から引き戻す。召喚の儀で俺に話しかけてきた軍服男ご本人様だ。役職は宰相。この国の実権を握る最高権力者だという。
「『神に戦いの力を願え』と言っただろうが!!」
そしてどうやら、彼は政治のトップに居続けるために、強い召喚者を望んでいるらしい。しかし、俺が戦いとは無縁な言語スキルを得てしまったため腹を立てている。
日本にもいるってよく聞くよなぁ。ろくに指示さえしないくせに、自分の望み通りにならなければキレる上司。ふとそんなことを思った。
低い声で脅され、大声で威圧され、すっかり縮みあがっていた俺だが、こいつ――ゴルメド=ソードの行動が元いた世界で「ダメ上司の典型」と揶揄されるそれであると気づいて、少し心に余裕が生まれた。ゴルメドの言動が間違っていて、俺に非はないと確信できるから。
「何をへらへらしている?」
こいつは、不機嫌な様子を見せることで場を支配しようとしているだけ。ゴルメドがどれだけ眉間のしわを深くして、鼻の頭にまでしわを寄せていても、正義は俺にある。
「ゴルメド、いい加減にしないか!」
そして、俺には味方がいた。ゴルメド=ソードに静止の声をかけてくれたのは、黒ローブを着た老人だ。白いやぎ髭が特徴で、召喚の儀で俺に詰め寄ってきたゴルメドを止めてくれた人でもある。今はフードを外していて、上半分の禿げた頭としわしわの顔をさらしていた。名前は――。
「気安く呼ぶな、ローグルイフォン」
そうローグだ。ローグルイフォン。詳細は来るべき時に話すが、やさしく賢いおじいちゃんで、異世界に来た俺の最初の仲間になる人でもある。
「失礼いたしました、ゴルメド宰相。しかし、ここで怒鳴り散らしても何も変わりませんぞ。彼はすでに力を得てしまったのですから、その使い道を考えませぬか?」
ああ、正論ありがとうローグ。
「そうっすよ。気に入らないことを怒鳴るだけのそっちの方が無能では?」
ここは俺も加勢だ。インターネットで繰り返し見たコメントを思い出して、きっぱりと言ってやった。ダメな奴にダメと言ってやる。それが一番スカッと――。
「言葉に気をつけろよ、若造が」
その瞬間、ゴルメド=ソードの顔からしわが減った。彼が見せたのは、今までと違う静かな怒り。
ゴルメドの指が動いた。上から下へすばやく振り下ろされるそれに合わせて、広い応接室を白い光が――。
「ひうッ!」
バリバリと鋭く空気を割く音。目にもとまらぬ速さで俺のつま先に収束する雷光。
「ッあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
驚きで固まった脳を強烈な痛みの信号が貫いた。汗が、涙が。痛い。痛い。痛い! いや、痛いなんてやさしいもんじゃない。足の指が何本か焼き切れたような激痛。
「あぁぁぁぁぁ!!」
俺は真っ白い世界に膝をついた。ここがどこで、何をしていたのかさえ忘れるほどに。今まで経験したことがないほど強い信号を発する足を押さえ、床の毛皮に爪を食い込ませ、汗と唾液をまき散らし――。
「これしきの攻撃にすら対応できない。だから、無能なのだ」
理性すら失う苦痛の世界で、愉快そうなゴルメド=ソードの高笑いを聞いた気がした。
あいつが何を言っていたのか、なぜ初対面の俺にあそこまで恨みのこもった目を向けたのか、その男「ゴルメド=ソード」に怒鳴られている今ならわかるが、当時は皆目見当がつかなかった。そして、このショッキングな出来事が俺に「最強の言語スキル」を願わせる大きな理由になった。言葉が伝わらない、理解できない言葉で怒鳴られる。その経験は俺に過大なストレスを与えたのだ。
それに、この世界に呼ばれた時点で、俺には何かチート級の強い力が秘められていると勘違いしていた。だってそうだろう? 俺には召喚された理由があるはずだ。気づいていないだけで偉大な力が眠っているとか、実はこの世界の偉人の子孫だったとか。俺は「特別」なんだと思っていた。だから、それを補助する能力として、俺は神にこの世界の住人と意思疎通する手段を願ったんだ。結果的にそれは間違いで、言葉がわかるだけの無能な俺が出来上がってしまったわけだが……。
「吾輩には時間がないのだぞ! それを、貴様のような無能にッ!!」
男の怒鳴り声が俺の意識を回想から引き戻す。召喚の儀で俺に話しかけてきた軍服男ご本人様だ。役職は宰相。この国の実権を握る最高権力者だという。
「『神に戦いの力を願え』と言っただろうが!!」
そしてどうやら、彼は政治のトップに居続けるために、強い召喚者を望んでいるらしい。しかし、俺が戦いとは無縁な言語スキルを得てしまったため腹を立てている。
日本にもいるってよく聞くよなぁ。ろくに指示さえしないくせに、自分の望み通りにならなければキレる上司。ふとそんなことを思った。
低い声で脅され、大声で威圧され、すっかり縮みあがっていた俺だが、こいつ――ゴルメド=ソードの行動が元いた世界で「ダメ上司の典型」と揶揄されるそれであると気づいて、少し心に余裕が生まれた。ゴルメドの言動が間違っていて、俺に非はないと確信できるから。
「何をへらへらしている?」
こいつは、不機嫌な様子を見せることで場を支配しようとしているだけ。ゴルメドがどれだけ眉間のしわを深くして、鼻の頭にまでしわを寄せていても、正義は俺にある。
「ゴルメド、いい加減にしないか!」
そして、俺には味方がいた。ゴルメド=ソードに静止の声をかけてくれたのは、黒ローブを着た老人だ。白いやぎ髭が特徴で、召喚の儀で俺に詰め寄ってきたゴルメドを止めてくれた人でもある。今はフードを外していて、上半分の禿げた頭としわしわの顔をさらしていた。名前は――。
「気安く呼ぶな、ローグルイフォン」
そうローグだ。ローグルイフォン。詳細は来るべき時に話すが、やさしく賢いおじいちゃんで、異世界に来た俺の最初の仲間になる人でもある。
「失礼いたしました、ゴルメド宰相。しかし、ここで怒鳴り散らしても何も変わりませんぞ。彼はすでに力を得てしまったのですから、その使い道を考えませぬか?」
ああ、正論ありがとうローグ。
「そうっすよ。気に入らないことを怒鳴るだけのそっちの方が無能では?」
ここは俺も加勢だ。インターネットで繰り返し見たコメントを思い出して、きっぱりと言ってやった。ダメな奴にダメと言ってやる。それが一番スカッと――。
「言葉に気をつけろよ、若造が」
その瞬間、ゴルメド=ソードの顔からしわが減った。彼が見せたのは、今までと違う静かな怒り。
ゴルメドの指が動いた。上から下へすばやく振り下ろされるそれに合わせて、広い応接室を白い光が――。
「ひうッ!」
バリバリと鋭く空気を割く音。目にもとまらぬ速さで俺のつま先に収束する雷光。
「ッあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
驚きで固まった脳を強烈な痛みの信号が貫いた。汗が、涙が。痛い。痛い。痛い! いや、痛いなんてやさしいもんじゃない。足の指が何本か焼き切れたような激痛。
「あぁぁぁぁぁ!!」
俺は真っ白い世界に膝をついた。ここがどこで、何をしていたのかさえ忘れるほどに。今まで経験したことがないほど強い信号を発する足を押さえ、床の毛皮に爪を食い込ませ、汗と唾液をまき散らし――。
「これしきの攻撃にすら対応できない。だから、無能なのだ」
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