念願の異世界に召喚されましたが、無能判定されて元の世界に帰されそうです。~救ってくれたのはゲーミング柴犬でした~

白楠 月玻

文字の大きさ
4 / 11
序章 無能と言われた勇者

序章三節 - 大きな誤算[1]

しおりを挟む
【-追憶終了- 大きな誤算】

 あいつが何を言っていたのか、なぜ初対面の俺にあそこまで恨みのこもった目を向けたのか、その男「ゴルメド=ソード」に怒鳴られている今ならわかるが、当時は皆目見当がつかなかった。そして、このショッキングな出来事が俺に「最強の言語スキル」を願わせる大きな理由になった。言葉が伝わらない、理解できない言葉で怒鳴られる。その経験は俺に過大なストレスを与えたのだ。

 それに、この世界に呼ばれた時点で、俺には何かチート級の強い力が秘められていると勘違いしていた。だってそうだろう? 俺には召喚された理由があるはずだ。気づいていないだけで偉大な力が眠っているとか、実はこの世界の偉人の子孫だったとか。俺は「特別」なんだと思っていた。だから、それを補助する能力として、俺は神にこの世界の住人と意思疎通する手段を願ったんだ。結果的にそれは間違いで、言葉がわかるだけの無能な俺が出来上がってしまったわけだが……。

吾輩わがはいには時間がないのだぞ! それを、貴様のような無能にッ!!」

 男の怒鳴り声が俺の意識を回想から引き戻す。召喚の儀で俺に話しかけてきた軍服男ご本人様だ。役職は宰相。この国の実権を握る最高権力者だという。

「『神に戦いの力を願え』と言っただろうが!!」

 そしてどうやら、彼は政治のトップに居続けるために、強い召喚者を望んでいるらしい。しかし、俺が戦いとは無縁な言語スキルを得てしまったため腹を立てている。

 日本にもいるってよく聞くよなぁ。ろくに指示さえしないくせに、自分の望み通りにならなければキレる上司。ふとそんなことを思った。
 低い声で脅され、大声で威圧され、すっかり縮みあがっていた俺だが、こいつ――ゴルメド=ソードの行動が元いた世界インターネットで「ダメ上司の典型」と揶揄やゆされるそれであると気づいて、少し心に余裕が生まれた。ゴルメドの言動が間違っていて、俺にはないと確信できるから。

「何をへらへらしている?」

 こいつは、不機嫌な様子を見せることで場を支配しようとしているだけ。ゴルメドがどれだけ眉間のしわを深くして、鼻の頭にまでしわを寄せていても、正義は俺にある。

「ゴルメド、いい加減にしないか!」

 そして、俺には味方がいた。ゴルメド=ソードに静止の声をかけてくれたのは、黒ローブを着た老人だ。白いやぎ髭が特徴で、召喚の儀で俺に詰め寄ってきたゴルメドを止めてくれた人でもある。今はフードを外していて、上半分の禿げた頭としわしわの顔をさらしていた。名前は――。

「気安く呼ぶな、ローグルイフォン」

 そうローグだ。ローグルイフォン。詳細は来るべき時に話すが、やさしく賢いおじいちゃんで、異世界に来た俺の最初の仲間になる人でもある。

「失礼いたしました、ゴルメド宰相。しかし、ここで怒鳴り散らしても何も変わりませんぞ。彼はすでに力を得てしまったのですから、その使い道を考えませぬか?」

 ああ、正論ありがとうローグ。

「そうっすよ。気に入らないことを怒鳴るだけのそっちの方が無能では?」

 ここは俺も加勢だ。インターネットで繰り返し見たコメントを思い出して、きっぱりと言ってやった。ダメな奴にダメと言ってやる。それが一番スカッと――。

「言葉に気をつけろよ、若造わかぞうが」

 その瞬間、ゴルメド=ソードの顔からしわが減った。彼が見せたのは、今までと違う静かな怒り。

 ゴルメドの指が動いた。上から下へすばやく振り下ろされるそれに合わせて、広い応接室を白い光が――。

「ひうッ!」

 バリバリと鋭く空気を割く音。目にもとまらぬ速さで俺のつま先に収束する雷光。

「ッあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 驚きで固まった脳を強烈な痛みの信号が貫いた。汗が、涙が。痛い。痛い。痛い! いや、痛いなんてやさしいもんじゃない。足の指が何本か焼き切れたような激痛。

「あぁぁぁぁぁ!!」

 俺は真っ白い世界に膝をついた。ここがどこで、何をしていたのかさえ忘れるほどに。今まで経験したことがないほど強い信号を発する足を押さえ、床の毛皮に爪を食い込ませ、汗と唾液をまき散らし――。

「これしきの攻撃にすら対応できない。だから、無能なのだ」

 理性すら失う苦痛の世界で、愉快そうなゴルメド=ソードの高笑いを聞いた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜

黒崎隼人
ファンタジー
物流倉庫で不良在庫の管理に追われるだけの42歳、窓際サラリーマンのタケシ。 ある日突然、彼は見知らぬ森の中へと転移してしまう。 彼に与えられたのは、地球で廃棄される運命にあったあらゆる物資を無尽蔵に引き出せる規格外のスキル「無限在庫処分」だった。 賞味期限間近のカップ麺、パッケージ変更で捨てられるレトルトカレー、そして型落ちの電動工具。 地球ではゴミとされるこれらの品々が、異世界では最強のチートアイテムと化す! 森で倒れていたエルフの少女リリアをカップ麺で救ったタケシは、領主の搾取によって滅亡寸前だった彼女の村を拠点とし、現代の物資と物流ノウハウを駆使して商会を立ち上げる。 美味しいご飯と圧倒的な利便性で異世界の人々の胃袋と生活を掴み、村は急速に発展。 さらには、深刻な食糧難で破綻寸前だった美少女魔王ルビア率いる魔王軍と「業務提携」を結び、最強の武力を物流の護衛として手に入れる! 剣も魔法も使わない。武器は段ボールと現代の知識だけ。 窓際おじさんが圧倒的な物量で悪徳領主の経済基盤をすり潰し、異世界の常識を塗り替えていく、痛快・異世界経営スローライフ、開幕!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...