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二章 瞑目する蓮と仙術師
二章 [4/8]
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翌日――。
朝食を終えた水蓮の病室にやってきたのは、泉蝶ではなかった。
この日の病室からは衣擦れの音ひとつ聞こえない。彼はその静けさを破らないよう注意しながら、部屋の扉を開けた。
入室の許可は取らなかった。室内の気がひどく張りつめているのを感じたから。
と言っても、嫌な感じの張りつめ方ではない。限りなく落ち着いていて、澄んでいる。彼女の気が水属性ということもあり、深い水底に迷い込んだような印象を受けた。
水蓮は壁に背を預け、両手足を投げ出し、だらしなく座っている。いや、体を弛緩させ、くつろいだ体勢をしているというべきか。
水蓮は瞑想していた。
人の入ってくる気配は感じただろうが、瞑想を解こうとはしない。
彼から流れてくる木属性の温かな気には覚えがあった。志閃の気だ。彼ならば、黙っていてもこの間のように明るく話しかけてくると予想したので、声をかけられたら瞑想を解こうと頭の隅で考えていたのだ。
しかし、志閃は瞑想をする水蓮の邪魔をしないように、静かに近づき隣にあぐらをかいて座った。その距離が少し体を傾けたら触れあえそうなほど近いのが、短い付き合いながらも彼らしいと思えて、水蓮は集中を乱さない程度に淡くほほえむ。
水蓮の手のこうに大きな手のひらが触れた。志閃の手はその気と同様に温かい。
じわりと彼の気が触れた個所を通して流れ込んでくる。水蓮の気も志閃へと流れ出していった。
お互いの気がお互いの体内を循環して、また自分へと戻ってくる。
「房中術……?」
しばらくそうやってお互いの気を感じた後、水蓮は目を開けながらつぶやいた。
「おっ? 知ってた? 水蓮ちゃん結構詳しいところまで仙術やってたんじゃないのー?」
志閃も先ほどまでの静かさとは打って変わって、いつもの明るい声で言う。
「水蓮ちゃんってちょっと不思議だよね。廣で育ったって言う割には、仙術のことよく知ってる感じがする」
興味津々といった感じで目を輝かせる志閃は、非常に好意的に見える。
「え……?」
水蓮の気が揺らぐ。その動揺は、桃源でも指折りの仙術使い――志閃ならば容易に感じ取れる。
「でも、別にいいよー。水蓮ちゃんはかわいいから気にしないでいてあげる」
そして志閃はいつもの調子でしゃべりはじめた。
「いいよねー、房中術。すべての気には陰と陽がある。女は陰気で男は陽気。でも、陰陽はそもそも切り離すことができないものなんだよねー。陰気と陽気を交えて、調和させることが大事。中には、――というかほとんどの仙術使いは、肉体的に交って気のやり取りをするのを好むけどね、俺はこれくらい、少し触るだけが好きだなぁ。あ、でも水蓮ちゃんが――」
「それ以上言ったら、泉蝶さんに言いつけます」
志閃のセクハラ発言を感知し、水蓮は彼の言葉を遮った。先ほどの動揺をごまかすためか、わざと大げさにほほを膨らませて怒りを示す。そむけた顔はわずかに赤らんでいる。
「うわ~! 恥ずかしがってる水蓮ちゃんもかわいい! 大丈夫だよー。女の子は大好きだから、嫌われそうなことはしないって。あ、でも少しくらいは触らせて。意識だけで気を交わらせる方法もあるけど。うん、俺には無理っ!」
確かに彼の女好き度からして無理そうだ。
「それくらいならいいですけど……」
「やった!」
しぶしぶ許可する水蓮に、本気で喜ぶ志閃。
「ところで、なんで今日は泉蝶さんじゃないんですか?」
毎朝夕と来ていた泉蝶ではなく、今日は志閃が来た。何か意味があるはずだ。
「あ~。今朝さ、会議で泉蝶ちゃんが水蓮ちゃんが禁軍に入りたがってるって話をしてね~。俺がすぐさま帝に許可をもらいに行こうとしたら、みんなして止めるんだぞっ。王紀と泉蝶ちゃんが奏上用の書類つくるから、代わりに水蓮ちゃんのところで暇つぶしの相手をしてきなさいって言われたからとんできたんだよ~ん」
つまり、泉蝶たちは志閃が帝のところへ行って馬鹿なことをしないように、水蓮のところへ行けと言って気をそらしたのか。
「目先の利益にとらわれたわけですね」
水蓮は小さくつぶやいた。そして、声を大きくしてつづける。
「でも、志閃さんおひとりですか?」
泉蝶なら志閃が水蓮に手を出さないかと心配して、他にも誰かよこしそうだが……。
「赤覇がいたけどね。仙術で少し眠らせてきた」
親指を立てて得意げに笑う志閃に水蓮は思わずため息をついた。
あとで、ひどく怒った赤覇が病室にやってきて、問答無用で志閃を追い出したのは言うまでもない。
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