28 / 103
三章 微笑む蓮と黒い槍
三章 [7/10]
しおりを挟む
「しかもあいつ仙術からきしのくせに、強いし。二十二で禁軍将軍てナニサマ? ぴちぴちの泉蝶ちゃんより若いんだぞっ! あ、泉蝶ちゃんはね、にじゅっ――」
その瞬間、高速で志閃の首が後ろから絞められた。泉蝶の細いが筋肉質な腕が、志閃の首をがっちりときめてしまっている。
「ぜ、ぜんじょうぢゃん……」
志閃が苦しげに泉蝶の顔を見上げた。
「許可なく女性の歳をばらそうとするなんて最低だわ」
泉蝶の冷たく目を細めた顔は、完全に志閃をさげすんでいた。顔の周りに流れる長い黒髪が、さらに威圧感を醸している。燭台の赤みを帯びた光に照らされ陰影のついた顔は、志閃の位置から見上げると鬼神のようだった。
「いいじゃん。体重ばらぞうとじたわげじゃないんだじ」
「嫌なものは嫌なのよ」
まわりに若さを保った仙術使いが多くいるなかで、気を扱えない泉蝶は年相応の外見をしている。それが嫌だった。
数年後、自分だけが老けて、他の人々は以前の姿のままでいるかもしれないと考えると――。年齢はあまり意識したくない。
「苦し……」
志閃は首を左右に振ってもがく。しかし、泉蝶は決して力を緩めなかった。
しばらくして志閃は抵抗をやめたが、気を失ったわけではない。
「あぁ~、でもこれいいかも……」
少しつぶれた声でそうつぶやく。苦しそうな赤い顔をしつつも、その表情はどこか幸せそうだ。
「泉蝶ちゃんのおっきな胸が頭にぃ~」
「なっ!?」
ここで泉蝶は、志閃の首を絞めるために彼の後頭部を自分の胸に押し付けていたことに気付いた。しかも、志閃が抵抗したために、襟元が少し乱れている。
それに気付くと、素肌に触れる志閃の硬い癖毛が鮮明に感じられた。
「やわらかぁ~」
うっとりと頭を動かし、その感触を楽しもうとする志閃。
「死になさい……ッ!!」
気づいたら、泉蝶はその頭を掴み、一番近くにあった壁に力いっぱい叩きつけていた。
「きゃっ!」
水蓮は反射的に膝を抱いて、身を小さくした。
目の前には壁に顔面を押しつけられた志閃がいる。ぱらぱらと日干し煉瓦の破片が落ちてきた。
これは……、生きているのだろうか……。
そう思っていた水蓮の前で、壁についていた志閃の指がわずかに動いた。
「せん、蝶ちゃん……」
唸るように言いながら、ゆっくりと壁から顔を離す。しかし、立ち上がることはできずに、水蓮の足もとにあおむけに寝転がった。いつ取り出したのか、片手に持っていた札は何枚あったのかもわからないほどボロボロになっている。
「あれ、札にダメージ肩代わりさせなかったら、死んでたよ俺」
「あなたなんか死ねばいいのよ!」
まだ胸元を乱したまま泉蝶が叫ぶ。
「鼻血なんか出して、いやらしいわ」
「いや、これさっきの衝撃を札に吸収させきれなかったせいだから……」
のそりと体を起こして、鼻をつまんで血を止めようとする志閃。
水蓮はそれに手を添えて、止血を手伝うために気を込めた。大爆笑しながら。
「笑いながら治療されるの初体験よ、俺」
そういう志閃の口元にも、淡い笑みが浮かんでいる。傷つきつつも今のこの状況を楽しんでいるのだ。
青白い月光と橙の炎が照らす病室に、温かな笑い声が響く。
「私、みなさんに会えて本当に良かったです」
水蓮はにっこりと笑った。
その瞬間、高速で志閃の首が後ろから絞められた。泉蝶の細いが筋肉質な腕が、志閃の首をがっちりときめてしまっている。
「ぜ、ぜんじょうぢゃん……」
志閃が苦しげに泉蝶の顔を見上げた。
「許可なく女性の歳をばらそうとするなんて最低だわ」
泉蝶の冷たく目を細めた顔は、完全に志閃をさげすんでいた。顔の周りに流れる長い黒髪が、さらに威圧感を醸している。燭台の赤みを帯びた光に照らされ陰影のついた顔は、志閃の位置から見上げると鬼神のようだった。
「いいじゃん。体重ばらぞうとじたわげじゃないんだじ」
「嫌なものは嫌なのよ」
まわりに若さを保った仙術使いが多くいるなかで、気を扱えない泉蝶は年相応の外見をしている。それが嫌だった。
数年後、自分だけが老けて、他の人々は以前の姿のままでいるかもしれないと考えると――。年齢はあまり意識したくない。
「苦し……」
志閃は首を左右に振ってもがく。しかし、泉蝶は決して力を緩めなかった。
しばらくして志閃は抵抗をやめたが、気を失ったわけではない。
「あぁ~、でもこれいいかも……」
少しつぶれた声でそうつぶやく。苦しそうな赤い顔をしつつも、その表情はどこか幸せそうだ。
「泉蝶ちゃんのおっきな胸が頭にぃ~」
「なっ!?」
ここで泉蝶は、志閃の首を絞めるために彼の後頭部を自分の胸に押し付けていたことに気付いた。しかも、志閃が抵抗したために、襟元が少し乱れている。
それに気付くと、素肌に触れる志閃の硬い癖毛が鮮明に感じられた。
「やわらかぁ~」
うっとりと頭を動かし、その感触を楽しもうとする志閃。
「死になさい……ッ!!」
気づいたら、泉蝶はその頭を掴み、一番近くにあった壁に力いっぱい叩きつけていた。
「きゃっ!」
水蓮は反射的に膝を抱いて、身を小さくした。
目の前には壁に顔面を押しつけられた志閃がいる。ぱらぱらと日干し煉瓦の破片が落ちてきた。
これは……、生きているのだろうか……。
そう思っていた水蓮の前で、壁についていた志閃の指がわずかに動いた。
「せん、蝶ちゃん……」
唸るように言いながら、ゆっくりと壁から顔を離す。しかし、立ち上がることはできずに、水蓮の足もとにあおむけに寝転がった。いつ取り出したのか、片手に持っていた札は何枚あったのかもわからないほどボロボロになっている。
「あれ、札にダメージ肩代わりさせなかったら、死んでたよ俺」
「あなたなんか死ねばいいのよ!」
まだ胸元を乱したまま泉蝶が叫ぶ。
「鼻血なんか出して、いやらしいわ」
「いや、これさっきの衝撃を札に吸収させきれなかったせいだから……」
のそりと体を起こして、鼻をつまんで血を止めようとする志閃。
水蓮はそれに手を添えて、止血を手伝うために気を込めた。大爆笑しながら。
「笑いながら治療されるの初体験よ、俺」
そういう志閃の口元にも、淡い笑みが浮かんでいる。傷つきつつも今のこの状況を楽しんでいるのだ。
青白い月光と橙の炎が照らす病室に、温かな笑い声が響く。
「私、みなさんに会えて本当に良かったです」
水蓮はにっこりと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる