五百禁軍の姫【中華風異能バトルファンタジー】

白楠 月玻

文字の大きさ
40 / 103
四章 探す蓮と大剣士

四章 [9/16]

しおりを挟む
 
  * * *

 禁軍拠点内にある訓練場に生暖かい風が吹き抜ける。

 その中央に立っているのは、泉蝶せんちょう王紀おうきだ。
 泉蝶は細かい蝶の細工が施された装飾的な鞘から抜き放たれたとは思えないほど鋭い光を放つ細身の剣を、王紀は身の丈をゆうに超す長槍を構えている。

 禁軍の将軍同士の模擬戦と言うことで、あたりの人々がかたずをのんで見守る中、泉蝶が地を蹴った。長い黒髪がなびき、深く切れ込みを入れた着物の裾が、日に焼けた小麦色の足に乱されて翻る。
 その動きはなめらかで、そういう踊りを見せられていると錯覚しそうだ。

 曇りのない泉蝶の白刃を、王紀は槍の先でそらそうとした。間合いは槍を持つ王紀の方がはるかに長い。しかし、泉蝶はその槍先をわずかな刃の角度の変化で見事にいなし、すばやく蹴り上げた足で槍の穂先をあさっての方へ向かせてしまった。

 泉蝶はそのまま王紀の懐へ――、と思ったその時、王紀は腰に佩いていた剣を片手で抜き放った。横なぎにされた剣を泉蝶は慌てて身を低くすることでかわした。

 王紀の「申し訳ありません」と言う丁寧な言葉とともに繰り出された蹴りは、地面を転がることで何とか回避する。
 泉蝶はそのまま王紀の間合い外まで退避した。

「あなたはいつもむちゃくちゃなのよ!」

 王紀の姿を見て、泉蝶はそう声を荒げる。彼は左手に細身の剣を、そして右手だけで自分の身の丈をはるかに超える槍を構えていた。

「そうですか?」

 王紀はいつものきれいな笑みを浮かべて、頭の上で槍を回してみせる。右手だけで。

「僕の仙術は、自己の肉体強化に特化しておりますので」

 気の力で見た目以上の怪力を得ているらしい。

「いきますよ」

 そして、王紀が槍を振る。
 泉蝶に届く距離ではなかったが、泉蝶は慌てて後ろに飛び退った。王紀は槍の穂先のさらに先に気で刃を作り出して、間合いを伸ばしているのだ。

 次に王紀は剣を一閃する。そこから放たれたかまいたち状の気の固まりも泉蝶の剣の一振りでかき消された。

「本当に見えてないんですよね?」

 王紀がそう聞きたくなる気持ちもわかるほど、泉蝶の仙術攻撃に対する回避はうまい。

「見えるわけないでしょ。勘よ。勘!」

 気を感じられない泉蝶はそう答えながら、小さな刃を放った。その根元には細いものの丈夫な紐がつけてある。それが王紀の持つ槍の柄に巻きつき、むき出しになっている泉蝶の腕に女性らしからぬ力こぶが浮かんだ。

「ほえ~……」

 武器を強い力で引っ張られて体勢を崩した王紀と槍を踏みつけて跳びあがる泉蝶。あずまやからそんな彼らを見ていた水蓮すいれんは、思わず声を漏らした。

「すごいよね~、あの二人」

 その背後から声がかかる。振り返ると、志閃しせんが手を振っていた。暑いからか、着物の胸元を大きくはだけさせている。

「休憩中?」

「はい」

 水蓮は丸太に腰かけ、膝の上に弓を置いていた。左手は右ひじを押さえている。

「右手、どうかしたの?」

 その様子と気の流れから、志閃はそう尋ねた。

「弓の引きすぎで少し痛めてます。でも、今も気で治療してますし、夜も冷やしているので大丈夫です」

「そっ? 飛露とびつゆに言った方がいいんじゃね?」

「たぶん、飛露将軍も気づいています」

「それでもさ、休みをもらうとか。医者に診てもらうとか」

 志閃は本当に心配そうだ。

「できるだけ、飛露将軍には情けないところを見せたくないんです。なんだか、まだ認められていないみたいなので」

「『認められてない』?」

「いつまでたっても冷たいですし」

 水蓮が桃源にやってきたのがひと月半前、飛露の角端かくたん軍に配属されたのが約一ヶ月前、そして赤覇せきは率いる炎狗えんく軍が前線に派遣されたのが先日。
 飛露とは頻繁に顔を合わせるようになったが、一向に友好的な雰囲気は感じられない。

「あ~、それはね」

 志閃は声が聞こえる範囲に人がいないことを気で確認した。

「水蓮ちゃん、結構怪しいことしてるっしょ? 夕方の稽古の後とか、ご飯の後とかすぐに部屋に帰らずにさ」

「それは弓の稽古をしたり、まだこのあたりのことがわからないので、少し冒険したりしてるだけです」

 少し拗ねたように言う水蓮。

「うん、でもね~。心配性の飛露にはそれが不審に映るみたいよ。稽古も冒険も、俺や泉蝶ちゃんに言ってくれたら付きあうから、あまり一人で出歩かない方がいいんじゃね? 飛露怒らせると怖い」

 志閃は少し離れたところで稽古を続ける泉蝶と王紀を見ながらやさしく話した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...