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四章 探す蓮と大剣士
四章 [10/16]
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「水蓮ちゃん、飛露の生い立ち聞いたことある?」
「……ありません」
そんな話をするほど、彼と親しいわけがない。
「まー、本人に内緒であんま詳しく話すつもりはないけど、飛露って名前的にも、この辺の人じゃないじゃん?」
「それは何となく――」
確かに「トビツユ」と言う響きは耳慣れない。
「あいつ、桃源の出身じゃないんだよね。廣のさらに先、海を越えた先の国から来たんだってさ。国の名前は知らね。聞けば教えてくれるのかもしれないけど、俺、男のことは興味ないし。
ここまで来た理由は、水蓮ちゃんと一緒。気を扱えることで周りの人に奇異の目で見られたり、疎まれたりして、自分を受け入れてくれる場所を探してさまよってたらここまでたどり着いた。なんか、術師って自然と桃源に魅かれてくるみたいね。そういう大きな気の流れがあるんだと思う」
水蓮はこくりとうなずいて志閃の話を聞いた。
「あいつがここにたどり着いたときは、七歳とか八歳とかそれっくらいって聞いたなぁ。俺はそのころの飛露は知らないから人から聞いた話になるけどさ。あいつが桃源に来た時は、両親も一緒だったけど、三人ともかなり傷ついて疲労していて、両親は亡くなっちゃったらしい。一人になった飛露に読み書きから政治、法律、仙術――いろいろなことを教えてくれたのが先代の帝。まぁ、直接教えてくれたわけじゃないけどね。ちゃんと飛露が学べるように環境を整えてくれたんだって。そして、今の帝が、飛露を自分を守る禁軍の一将軍として重用してくれた。
他国出身の自分にそこまでしてくれた。飛露はそれをすごく感謝してるんだって。国も両親も何もかも失った自分に、色々なものを与えて、自分を必要としてくれる帝を何を犠牲にしても守りたいんじゃないかな。
だから、飛露は水蓮ちゃんみたいに少しでも疑わしい人にかなり冷たい。水蓮ちゃんが悪いとは言わないよ? 言わないけど、やましいことがないなら、もっと堂々とやればいいし、誤解されそうなときは俺や泉蝶ちゃんに言ってくれたら何とかするから」
「……志閃さんも私のこと怪しいって思ってるんですか?」
水蓮は身を小さくしながらも、上目づかいに志閃の様子を盗み見ている。
「いんや。全然」
しかし、志閃は水蓮の問いをあっさり否定した。
「でも、ほかの人は――?」
「まぁ、そうかもね」
水蓮は途中で言葉を切ったが、志閃は彼女の言いたいことを察してうなずいた。ほかの人は彼女を敵国の刺客と疑っているかもしれないと。
「……だから、王紀さんとかも冷たいんですか?」
右手の槍と左手の剣。一見ちぐはぐな二刀流を見事に使いこなす王紀を見ながら水蓮が尋ねる。王紀は遠距離を気塊、中距離を槍、近距離に入り込まれたら、槍の柄を盾にしつつ剣で応戦する器用な戦法をとっていた。
「まぁ、王紀は慎重な子だから」
「泉蝶さんは――?」
「泉蝶ちゃんは情が深い子だよ」
志閃はそれだけ答えた。
「俺は水蓮ちゃんの気が大好き。全然嫌な感じしないし、とっても純粋でそばにいるだけで癒される」
「ありがとう、……ございます」
「ん~?」
志閃は水蓮の表情をうかがった。
「もしかして照れてる? あ、俺にも泉蝶ちゃんにするみたいにため口でもいいよ? というかむしろため口にして。その方がかわいい」
「あ、……」
「水蓮」
志閃に返事をしようとしたところに、飛露の不機嫌そうな声が割り込んだ。
「休憩は終わりだ。稽古を再開しろ」
「はい、飛露将軍」
水蓮は慌てて答えて、弓を持って駆けていった。
「邪魔するなよ~、飛露」
水蓮を名残惜しそうに見送った志閃は、なれなれしく飛露の肩に腕を乗せた。
「邪魔は貴様だろう」
飛露はあっという間に志閃の腕を払いのける。
「貴様、自分の部下の半分以上が前線に送られているのに、なぜそんなにのんびりしていられる?」
飛露の声にははっきりといらだちが感じられた。
戦況はここ一ヶ月、徐々に悪化している。
帝に最も近い位置を守る泉蝶の護衛部隊聳孤軍には変化がないが、それ以外の隊は人数の差こそあれ隊員を前線に送るよう命じられている。その中でも、赤覇の炎狗軍に次いで多くの兵士を前線に派遣しているのが、仙術部隊だ。
もともと多くない術師は、稀有な力を使い、場合によっては一人で戦況を大きく変えうる貴重な存在だが、帝はそれを惜しまず戦場へ投入している。
それだけ、廣に押されているらしい。飛露も何度か前線まで足を運んだが、数の差が大きく、戦況は芳しくないというのが正直な感想だ。
「のんびりしてるつもりはないんだけどね~」
志閃はそう言ってあくびをかみ殺しながら伸びをした。
「……寝てないのか?」
飛露はここでやっと志閃がうまく隠していた気の乱れに気付いた。
「……ありません」
そんな話をするほど、彼と親しいわけがない。
「まー、本人に内緒であんま詳しく話すつもりはないけど、飛露って名前的にも、この辺の人じゃないじゃん?」
「それは何となく――」
確かに「トビツユ」と言う響きは耳慣れない。
「あいつ、桃源の出身じゃないんだよね。廣のさらに先、海を越えた先の国から来たんだってさ。国の名前は知らね。聞けば教えてくれるのかもしれないけど、俺、男のことは興味ないし。
ここまで来た理由は、水蓮ちゃんと一緒。気を扱えることで周りの人に奇異の目で見られたり、疎まれたりして、自分を受け入れてくれる場所を探してさまよってたらここまでたどり着いた。なんか、術師って自然と桃源に魅かれてくるみたいね。そういう大きな気の流れがあるんだと思う」
水蓮はこくりとうなずいて志閃の話を聞いた。
「あいつがここにたどり着いたときは、七歳とか八歳とかそれっくらいって聞いたなぁ。俺はそのころの飛露は知らないから人から聞いた話になるけどさ。あいつが桃源に来た時は、両親も一緒だったけど、三人ともかなり傷ついて疲労していて、両親は亡くなっちゃったらしい。一人になった飛露に読み書きから政治、法律、仙術――いろいろなことを教えてくれたのが先代の帝。まぁ、直接教えてくれたわけじゃないけどね。ちゃんと飛露が学べるように環境を整えてくれたんだって。そして、今の帝が、飛露を自分を守る禁軍の一将軍として重用してくれた。
他国出身の自分にそこまでしてくれた。飛露はそれをすごく感謝してるんだって。国も両親も何もかも失った自分に、色々なものを与えて、自分を必要としてくれる帝を何を犠牲にしても守りたいんじゃないかな。
だから、飛露は水蓮ちゃんみたいに少しでも疑わしい人にかなり冷たい。水蓮ちゃんが悪いとは言わないよ? 言わないけど、やましいことがないなら、もっと堂々とやればいいし、誤解されそうなときは俺や泉蝶ちゃんに言ってくれたら何とかするから」
「……志閃さんも私のこと怪しいって思ってるんですか?」
水蓮は身を小さくしながらも、上目づかいに志閃の様子を盗み見ている。
「いんや。全然」
しかし、志閃は水蓮の問いをあっさり否定した。
「でも、ほかの人は――?」
「まぁ、そうかもね」
水蓮は途中で言葉を切ったが、志閃は彼女の言いたいことを察してうなずいた。ほかの人は彼女を敵国の刺客と疑っているかもしれないと。
「……だから、王紀さんとかも冷たいんですか?」
右手の槍と左手の剣。一見ちぐはぐな二刀流を見事に使いこなす王紀を見ながら水蓮が尋ねる。王紀は遠距離を気塊、中距離を槍、近距離に入り込まれたら、槍の柄を盾にしつつ剣で応戦する器用な戦法をとっていた。
「まぁ、王紀は慎重な子だから」
「泉蝶さんは――?」
「泉蝶ちゃんは情が深い子だよ」
志閃はそれだけ答えた。
「俺は水蓮ちゃんの気が大好き。全然嫌な感じしないし、とっても純粋でそばにいるだけで癒される」
「ありがとう、……ございます」
「ん~?」
志閃は水蓮の表情をうかがった。
「もしかして照れてる? あ、俺にも泉蝶ちゃんにするみたいにため口でもいいよ? というかむしろため口にして。その方がかわいい」
「あ、……」
「水蓮」
志閃に返事をしようとしたところに、飛露の不機嫌そうな声が割り込んだ。
「休憩は終わりだ。稽古を再開しろ」
「はい、飛露将軍」
水蓮は慌てて答えて、弓を持って駆けていった。
「邪魔するなよ~、飛露」
水蓮を名残惜しそうに見送った志閃は、なれなれしく飛露の肩に腕を乗せた。
「邪魔は貴様だろう」
飛露はあっという間に志閃の腕を払いのける。
「貴様、自分の部下の半分以上が前線に送られているのに、なぜそんなにのんびりしていられる?」
飛露の声にははっきりといらだちが感じられた。
戦況はここ一ヶ月、徐々に悪化している。
帝に最も近い位置を守る泉蝶の護衛部隊聳孤軍には変化がないが、それ以外の隊は人数の差こそあれ隊員を前線に送るよう命じられている。その中でも、赤覇の炎狗軍に次いで多くの兵士を前線に派遣しているのが、仙術部隊だ。
もともと多くない術師は、稀有な力を使い、場合によっては一人で戦況を大きく変えうる貴重な存在だが、帝はそれを惜しまず戦場へ投入している。
それだけ、廣に押されているらしい。飛露も何度か前線まで足を運んだが、数の差が大きく、戦況は芳しくないというのが正直な感想だ。
「のんびりしてるつもりはないんだけどね~」
志閃はそう言ってあくびをかみ殺しながら伸びをした。
「……寝てないのか?」
飛露はここでやっと志閃がうまく隠していた気の乱れに気付いた。
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