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五章 闇夜の蓮と弓使い
五章 [14/15]
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「色事占者」こと妖舜の部屋は仙術部隊隊舎の最上階端。志閃の部屋と同じ階だが、普段はあまり顔を合わせない。
戦闘力が皆無に近いので、禁軍の主な仕事である宮殿警護は行えないし、後宮の美姫をはじめ得意先に依頼された占いで忙しくしているらしい。禁軍の仙術部隊索冥軍の所属と言いつつ、妖舜単独で行動することが多い。
志閃は妖舜の部屋の前に立ち、扉を軽く叩いた。
すぐに、「開いてる。どうぞ」と言う返事が返ってきて、志閃は戸を開けた。その瞬間、ふわりと部屋から香ったのは、紅茶の甘い芳香だ。志閃の好きなにおい。
「そろそろ来ると思っていた」
そう出迎えてくれた男は、年のころも背丈も志閃と同じくらい。違うのは、志閃が癖毛な一方、相手はさらさらとした直毛なこと。また、雰囲気も明るい志閃に対し、愁いを帯びた物静かな印象を受けた。声も志閃より低く、落ち着きがある。
「俺が来るのは予知済みってことね」
志閃は指さされたいすに座りながら、すでに机に用意されていた紅茶と茶菓子を見た。どちらも志閃が好むもので、いれたての紅茶からは甘いにおいの湯気が立ち上っている。
「気が利くだろ?」
妖舜はすでに自分用に入れた紅茶を傾けつつ、志閃の斜め前でくつろいでいる。
「いや。俺、妖舜のこういうところ嫌い」
自分のすべてを見透かされているような気がして、あまりいい気持ちではない。
「そうか。それじゃ、俺の占いはなしだな」
「それは困る!」
即答する志閃に、妖舜はため息をつきながら茶器を置いた。
机に頬杖をついて、長めの前髪越しに志閃を見やる。
彼の占いは道具を使わない。相手とその人が纏う気を見て、その人に起こったことを知り、これから起こることを予測する。
悔しいが彼もかなりの色男だ。
顔の良い男の、愁いを帯びた切れ長の瞳にじっと見つめられるのは、何とも居心地が悪い。しかし、彼に多くの女性客がいる理由がわかる。
「どよ?」
志閃の問いに、妖舜が口の端を釣り上げた。
「散々だな、志閃。泉蝶姫将軍にフラれ、女の子に逃げられ――。恋愛相談も必要か?」
妖舜は何とも愉快そうに、クックッと笑っている。
「フラれたわけじゃないから」
「まぁ、女性にフラれるのはいつものことだよな」
「む……」
妖舜にそんなことを言われ、志閃は唇を尖らせた。
「……逃げた女の子――、水蓮ちゃんの居場所、分かんね?」
「最近角端軍に入った少女だな。ほとんど会ったことはないが、特徴的な気だったから覚えてる」
妖舜はそう答えて、視線をあたりにさまよわせた。ぐるりと一周見回し、上や下にも目を向ける。
「……今の場所は、わからない」
しばらくあたりをきょろきょろしたあと、妖舜は素直に答えた。
「だが……」
そう言って、また辺りを見回し、志閃で目を止めた。すっと切れ長の目を細め、さらに違う方向を見据える。
「またそのうち、戻ってくる。あれは……、飛露将軍の気だな」
妖舜の見ているのは、飛露の私室の方向か。彼が水蓮と再会する未来が見えるのだろう。
「飛露に水蓮ちゃんの捜索は任せたからね。ちゃんと見つけられるみたいでよかった」
「だが、すぐに見つかりそうな感じじゃないな」
「そっか……。でも見つかるならいいや」
嬉しそうにほほえむ志閃。妖舜は再度彼に目を戻した。
「志閃の未来は――」
そう目を細める。
「なかなか波乱万丈だ」
「死なない?」
「死なない保証はない」
妖舜も仙術使いだ。志閃ほど素直ではないが、占い結果に関しては、決して嘘をつくことがない。
「マジか……」
志閃の顔から少し血の気が引いた。
「お前の未来は複雑だ。今の戦におけるいろいろな重要人物と関わってくる。その一つ一つでお前がどういう選択をするか。それで未来が全てかわっていく……。しかも、お前の周りは、お前はじめ大きな気が取り巻き過ぎて、かなり見にくい」
「じゃあ、俺はどうすればいいのよ?」
志閃の問いに、妖舜は身を乗り出してさらに真剣に志閃を見はじめる。志閃も答えを求めるように彼の顔を見返した。
「本当に信頼できる人とそうでない人の見極めをする必要があるようだ」
「本当に信頼できる人……。飛露、泉蝶ちゃん、赤覇、王紀、宗剛、妖舜、秋夕ちゃん――」
「そのあたりで止めておくべきだな」
禁軍将軍と前線に派遣している自分の副官、目の前の占い師、仙術治療師の名前を挙げたところで妖舜が止めた。
「……少なくね?」
「廣に情報を漏らしていた周賢は自分の部下だろう? たぶん、意外と身近に間者がいるぞ。本当に信頼できる人、背中から刺されても許せる人しか信頼しないべきだ」
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