異世界大使館はじめます

あかべこ

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14:大使館は春を待つ

14-12

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風邪が治ってからは仕事が詰まっていて、ストレスでまた風邪がぶり返しそうになりながらも書類の山と戦う日々が続いた。
その間も木栖はよく俺を気遣ってそばにいてくれた。
俺がまた風邪をひかぬようにと上着の心配をし、届かないところにあった手拭きを何も言わず取ってくれ、足りないものは貸してくれ、指輪も丁寧に手入れされていることに気づいた。
そういう木栖の細やかな心遣いが全部俺に帰着することに気づくと気恥ずかしくも嬉しかった。
「いつもありがとうな」
風呂道具置き場に共用ドライヤーを戻しにきた木栖にそう告げると「急にどうした?」と不思議そうに尋ねてくる。
「俺はお前に恋は出来ないかもしれないが、お前の向けてくれる愛情を返そうと思ってな」
「それはつまり俺を愛する気は出てきたってことだな?」
冗談まじりの問いかけに「そうだな」と答える。
「お前から好かれてる以上俺も好意を返そうと思って、まずはちゃんと言葉にしようと思った」
「そうか、でも俺が誤解しない程度にな」
「誤解?」
「好きな人に好きだって言われたらその好きが恋でも友情でも動揺するだろ」
思わず納得すると、木栖の中で思うところがあるのかさらに話を続けてきた。
「ノンケの男って遊びでゲイバー行ってナンパされたとか男に掘られかけたとか自慢してくるけど、要は自分が同性から見ても魅力的な男だっていうマウントであって、別に男もイケるとかじゃない事を察しててもワンチャン期待しそうになる事があってな」
「あー、たまにいるよなそういう自慢持ってる奴」
大学の先輩でそういう自慢してる人がいたが、正直意味がよく分からなくてスルーしてた事を思い出す。
「お前にはそういうゲイを惑わすノンケにならないで欲しい」
「どういう視点のコメントなんだそれは……。まあいいや、でもあわよくば付き合いたいとか思ってるんだろ」
「残念ながら好きな相手と付き合わなくてもいいと思えるような性分はしてないんでな。出来るんなら割とどこまでもしたい」
「直球だな……俺はお前に何を渡せばこれまでの愛情のお返しになるんだろうな」
「お前がくれるならなんでもいいし、取り立てるつもりもない。むしろ拒否せず受け入れられてるだけ十分奇跡の類だと思ってる」
木栖の直球で衒いのない情愛を受け入れながら、むしろこれを断る奴が居るんだろうか?とほんの少し考える。
それこそ同性愛なんてあり得ないと思ってるような人だと断るんだろうか?あとは恋人持ちとか既婚者とか。
「でもお前の愛情を返すかどうかは俺の判断なんだろ?だから俺は少しづつでも返していこうと思うし、それで関係性の名称が変わるなら仕方ないんじゃないか」
「俺が本当にお前の夫になっていいってことか?」
「そこまでは言ってないが……まあ、そうかもな」
まだそこまでの決意は無いけれどいつか本当にそう言う名前の関係になる余地はある気がしたが、それはきっともっとだいぶ先の話だろう。
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