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魚が空を泳ぐ少女たち。空が割れた日
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地中海の塩が舌に絡まる。
エルサレムの外れ、ユダヤ人側の丘の屋上。
リナはスケッチブックを抱えて座っていた。 首には青と白のタリット・カタン。
ページには今日も、空を泳ぐ魚。
突然、空にひびが入った。
雲が真っ二つに割れ、巨大な虹色の鯉が降りてくる。
リナは立ち上がった。スケッチブックを握りしめたまま。
そのとき、背後から鋭い声。
「……あんた、何してんのよ、ここ」
振り返ると、フェンス越しに同じくらいの年のパレスチナ人少女が立っていた。
名前はレイラ。 赤と黒の刺繍のトーブ。首に銀のハムサの手。
いつもは壁と銃口で隔てられているはずの、向こう側の村の少女。
二人は同時に鯉を見上げ、 同時に顔をしかめた。
「……あんたも見てるの?」
「……見るなって言われても、無理でしょ」
鯉は二人の間にゆっくり降りてきて、 背びれの上に二つの石を置いた。
青と赤。
鯉は低く告げた。
「選べ。 石を取った者は、世界の痛みを背負い、終わらせる術を得る」
リナは眉をひそめた。
「冗談でしょ。私があんたと同じことするわけないじゃん」
レイラも鼻で笑った。
「こっちこそ、シオニストのガキと一緒に何かするなんて御免だわ」
でも二人の視線は、石から離れない。
青い石はリナの足元に、赤い石はレイラの足元に、少しずつ近づいていく。
リナは唇を噛んだ。
「……でも、放っておいたら、また誰かが死ぬんでしょ」
レイラも目を伏せた。
「……うちの村も、あんたたちの村も、どっちも嫌いだけど」
沈黙が落ちる。
風だけが二人の髪を乱暴に揺らす。
リナが先に手を伸ばした。
指先が青い石に触れる瞬間、レイラも同時に赤い石を掴んだ。
瞬間、屋上のコンクリートが光り、 二人の足元に六芒星と三日月が重なった光の円が浮かぶ。
中心で一匹の魚が空を泳ぎ始める。
鯉は静かに告げた。
「お前たちはまだ敵のままだ。 だが、これから世界の痛みを終わらせる術を、 嫌々ながら共有することになる」
光が収まり、鯉は空へ昇って消えた。
残されたのは、 石を握りしめたまま睨み合う二人の少女だけ。
リナが吐き捨てる。
「……最悪の相棒ね」
レイラも返す。
「こっちのセリフよ」
でも、二人の握った石は、もう離せなかった。
リナはスケッチブックを抱えて座っていた。 首には青と白のタリット・カタン。
ページには今日も、空を泳ぐ魚。
突然、空にひびが入った。
雲が真っ二つに割れ、巨大な虹色の鯉が降りてくる。
リナは立ち上がった。スケッチブックを握りしめたまま。
そのとき、背後から鋭い声。
「……あんた、何してんのよ、ここ」
振り返ると、フェンス越しに同じくらいの年のパレスチナ人少女が立っていた。
名前はレイラ。 赤と黒の刺繍のトーブ。首に銀のハムサの手。
いつもは壁と銃口で隔てられているはずの、向こう側の村の少女。
二人は同時に鯉を見上げ、 同時に顔をしかめた。
「……あんたも見てるの?」
「……見るなって言われても、無理でしょ」
鯉は二人の間にゆっくり降りてきて、 背びれの上に二つの石を置いた。
青と赤。
鯉は低く告げた。
「選べ。 石を取った者は、世界の痛みを背負い、終わらせる術を得る」
リナは眉をひそめた。
「冗談でしょ。私があんたと同じことするわけないじゃん」
レイラも鼻で笑った。
「こっちこそ、シオニストのガキと一緒に何かするなんて御免だわ」
でも二人の視線は、石から離れない。
青い石はリナの足元に、赤い石はレイラの足元に、少しずつ近づいていく。
リナは唇を噛んだ。
「……でも、放っておいたら、また誰かが死ぬんでしょ」
レイラも目を伏せた。
「……うちの村も、あんたたちの村も、どっちも嫌いだけど」
沈黙が落ちる。
風だけが二人の髪を乱暴に揺らす。
リナが先に手を伸ばした。
指先が青い石に触れる瞬間、レイラも同時に赤い石を掴んだ。
瞬間、屋上のコンクリートが光り、 二人の足元に六芒星と三日月が重なった光の円が浮かぶ。
中心で一匹の魚が空を泳ぎ始める。
鯉は静かに告げた。
「お前たちはまだ敵のままだ。 だが、これから世界の痛みを終わらせる術を、 嫌々ながら共有することになる」
光が収まり、鯉は空へ昇って消えた。
残されたのは、 石を握りしめたまま睨み合う二人の少女だけ。
リナが吐き捨てる。
「……最悪の相棒ね」
レイラも返す。
「こっちのセリフよ」
でも、二人の握った石は、もう離せなかった。
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