3番乗り場で、また会いましょう

ネコ野疾歩

文字の大きさ
3 / 9

ep.3

しおりを挟む
 アルフレッドは、蒼碧外の北区に下宿先を構えていた。職場である王都水上魔車省水上乗合魔車庁は蒼碧川近く蒼碧外の東側にあり、通勤に便利だということが大きな理由である。故郷が北方川の支流にあるのも理由にはあるが、家族が王都に来ることがあるのでアルフレッド自身は帰らないことが多い。
 目が覚めて外を見ると、土砂降りの雨だった。アルフレッドは憂鬱そうにため息を吐くと、よっこらせと立ち上がった。


「今日はひでぇなぁ。こりゃキツそうだ。」
「お前は火属性だからいいだろ、ストーブつけてればばあちゃん達の人気者さ。」
「俺は彼女にできる乙女の人気者になりたい…。」


 水上魔車は、簡易な屋根がついているため雨の日でも運行が可能である。しかし少し濡れて肌寒かったりするため、運転手の持ち前の魔術や魔力を使って快適な運行を提供することが一般的である。無論、雨の日でなくても暑かったり寒かったりしたら、魔術用品も併用して運行する。なお、水上魔車はその名の通り魔力で動かしており、他人の魔力が混ざると暴発する可能性があるため、運転手以外が魔術を使うことは禁じられている。
 アルフレッドは水属性であるため、水の扱いには自信があったが、スタミナやその他のことに関してはとんと自信がなかった。スタミナは姉の扱きで、だいぶついたと思うがまだまだだ。


「っレディ、お乗りでしたら早くこちらへ。」
「あっ、えぇ、乗りますが濡れてしまいますわ。」
「構いやしませんよ、早くこちらへ。」


 今日はピーチ・フロイラインいるかな~とのほほんと運行していたアルフレッドは、いつもの3番乗り場が見えた瞬間に目を見張った。次の瞬間には許される限りの速度を出して、3番乗り場に着くと、桃色髪の彼女へ手を差し伸べた。
 どうやら彼女達は傘こそ持っていたが、本が濡れないようにしていたらしく、彼女達は濡れてしまっている。お供の侍女を見遣ればお嬢様の行動に困っていたらしく、礼を言うように視線で一礼された。


「少し失礼しても良いでしょうか?そのままでは風邪を引いてしまいます。」
「……何をお考えかしら?」


 訝しげにこちらを見る彼女を安心させるべく、にっこりと笑みを浮かべて説得する。


「少しばかり乾燥の魔術を使う許可を頂ければ幸いです。」
「まあいいでしょう、よろしくってよ。」
「お嬢様!?」


 伴の侍女は赤の他人に魔術を使わせるなんてと驚いているが、本人からの言質は取れたので魔術を使うべく意識を集中させる。水を集める初級魔術を応用して、彼女の服から水を分離させるために呪文を唱えた。彼女と侍女からふわりと幾つもの水滴が集まったため、それをひとつにまとめると川に投げ捨てる。
 ふう、と一息ついた。この魔術は緻密な操作が求められるので、少し疲れるのだ。しかし、そんな事は言ってられない。


「大丈夫ですかね?」
「えぇ、ありがとうございます。」
「では、お座り下さいませ。……皆様お待たせしました、出発しまあ~す!」


 ずぶ濡れの彼女に気を取られてしまったが、時間通りの運行はしなければならない。ずぶ濡れの人に魔術をかけることは少なくないのでそれ自体は問題ないのだが、彼女の前だと少し緊張してしまった。やっぱりお貴族様はなんか違うなぁ、とぼんやりアルフレッドは思った。


「……ちゃんとお礼を言えてないわ。」
「彼は職務を全うしたのだから当然ですわ、お嬢様。それよりも、雨の日は本を減らしてくださいませとあれ程お願い申し上げて……──。」


 後方の席で侍女が彼女に説教しているのが聞こえてくる。まあ、あそこまで濡れれば説教されるのも致し方ないだろう。

 そういえば、彼女の名前はなんと言っただろうか。


「へ?ピーチ・フロイラインの本名?なんだっけ、ロザディッチ男爵家令嬢ってのは覚えてるけど。」
「なんだっけ、ピーチ・フロイラインが固定になっちゃって……。」

「メルティー嬢だよ、メルティー・ロザディッチ嬢。」
「「「っ、お疲れ様です!」」」


 仕事終わり、同僚にピーチ・フロイラインこと桃色髪の彼女の名前を聞けば、家名までしか知る者は居らず。そんな折に助け舟を出してくれたのは、自分の部署の上司だった。名前を知れたのは嬉しいが、上司がこのタイミングで現れるとは……と皆の思いが一致していることだろう。
 もちろん、サボってたということで皆一様に書類仕事を増やされたのだった。ただでさえ雨だというのに、今日はとことんツイていないらしい。


(メルティー・ロザディッチ嬢って言うのかぁ)


 ただまあ、彼女の名前が知れたのなら悪くは無いかな、なんて。そう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ロザリンデのいつわりの薔薇 ~駆け落ち寸前に別れたあなたは侯爵家の跡取りでした~

碓氷シモン
恋愛
【第19回恋愛小説大賞に応募しています。応援や投票よろしくお願いします!】 子爵令嬢ロザリンデは、毎夜、義兄に身体を弄ばれていた。「値打ちが下がらないように」と結婚するまで純潔だけは守られていたが、家名の存続と、病弱な姉や甥の生活を守るためとはいえ、その淫らな責め苦はロザリンデにとって耐えがたいものだった。そしてついにある日、義兄の友人との結婚が決まったと告げられる。それは死刑宣告に等しかった。なぜなら、義兄とその友人は二人でロザリンデを共有して、その身体を気が済むまで弄ぼうと企んでいたからだ。追い詰められたロザリンデは幼馴染の謎めいた書生、ヘルマンに助けを求める。半年前、義兄の愛撫に乱れるさまを偶然目撃されてしまって以来、ヘルマンはロザリンデを罪深い女と蔑み、二人の関係はぎくしゃくしていた。だが、意外にもヘルマンはロザリンデの頼みに耳を傾け、駆け落ちを提案する。二人は屋敷を抜け出し、立会人なしで結婚できる教会がある教区までやってきたのだが、その夜…。 苦労人の令嬢が誤解とすれ違いを乗り越えて初恋の相手と結ばれるまでの物語です。義兄が超ド級の変態で、ヒロインはなかなかに辛い目に遭いますが、ハッピーエンドですので安心してお読み下さい。Rシーンにはエピソードタイトルの後に*をつけています。 ムーンライトノベルズでも投稿しています。また本作品の全てにおいて、AIは一切使用しておりません。

十歳の花嫁

アキナヌカ
恋愛
アルフは王太子だった、二十五歳の彼は花嫁を探していた。最初は私の姉が花嫁になると思っていたのに、彼が選んだのは十歳の私だった。彼の私に対する執着はおかしかった。

エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。 普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。 ※課長の脳内は変態です。 なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...