3番乗り場で、また会いましょう

ネコ野疾歩

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ep.3

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 アルフレッドは、蒼碧外の北区に下宿先を構えていた。職場である王都水上魔車省水上乗合魔車庁は蒼碧川近く蒼碧外の東側にあり、通勤に便利だということが大きな理由である。故郷が北方川の支流にあるのも理由にはあるが、家族が王都に来ることがあるのでアルフレッド自身は帰らないことが多い。
 目が覚めて外を見ると、土砂降りの雨だった。アルフレッドは憂鬱そうにため息を吐くと、よっこらせと立ち上がった。


「今日はひでぇなぁ。こりゃキツそうだ。」
「お前は火属性だからいいだろ、ストーブつけてればばあちゃん達の人気者さ。」
「俺は彼女にできる乙女の人気者になりたい…。」


 水上魔車は、簡易な屋根がついているため雨の日でも運行が可能である。しかし少し濡れて肌寒かったりするため、運転手の持ち前の魔術や魔力を使って快適な運行を提供することが一般的である。無論、雨の日でなくても暑かったり寒かったりしたら、魔術用品も併用して運行する。なお、水上魔車はその名の通り魔力で動かしており、他人の魔力が混ざると暴発する可能性があるため、運転手以外が魔術を使うことは禁じられている。
 アルフレッドは水属性であるため、水の扱いには自信があったが、スタミナやその他のことに関してはとんと自信がなかった。スタミナは姉の扱きで、だいぶついたと思うがまだまだだ。


「っレディ、お乗りでしたら早くこちらへ。」
「あっ、えぇ、乗りますが濡れてしまいますわ。」
「構いやしませんよ、早くこちらへ。」


 今日はピーチ・フロイラインいるかな~とのほほんと運行していたアルフレッドは、いつもの3番乗り場が見えた瞬間に目を見張った。次の瞬間には許される限りの速度を出して、3番乗り場に着くと、桃色髪の彼女へ手を差し伸べた。
 どうやら彼女達は傘こそ持っていたが、本が濡れないようにしていたらしく、彼女達は濡れてしまっている。お供の侍女を見遣ればお嬢様の行動に困っていたらしく、礼を言うように視線で一礼された。


「少し失礼しても良いでしょうか?そのままでは風邪を引いてしまいます。」
「……何をお考えかしら?」


 訝しげにこちらを見る彼女を安心させるべく、にっこりと笑みを浮かべて説得する。


「少しばかり乾燥の魔術を使う許可を頂ければ幸いです。」
「まあいいでしょう、よろしくってよ。」
「お嬢様!?」


 伴の侍女は赤の他人に魔術を使わせるなんてと驚いているが、本人からの言質は取れたので魔術を使うべく意識を集中させる。水を集める初級魔術を応用して、彼女の服から水を分離させるために呪文を唱えた。彼女と侍女からふわりと幾つもの水滴が集まったため、それをひとつにまとめると川に投げ捨てる。
 ふう、と一息ついた。この魔術は緻密な操作が求められるので、少し疲れるのだ。しかし、そんな事は言ってられない。


「大丈夫ですかね?」
「えぇ、ありがとうございます。」
「では、お座り下さいませ。……皆様お待たせしました、出発しまあ~す!」


 ずぶ濡れの彼女に気を取られてしまったが、時間通りの運行はしなければならない。ずぶ濡れの人に魔術をかけることは少なくないのでそれ自体は問題ないのだが、彼女の前だと少し緊張してしまった。やっぱりお貴族様はなんか違うなぁ、とぼんやりアルフレッドは思った。


「……ちゃんとお礼を言えてないわ。」
「彼は職務を全うしたのだから当然ですわ、お嬢様。それよりも、雨の日は本を減らしてくださいませとあれ程お願い申し上げて……──。」


 後方の席で侍女が彼女に説教しているのが聞こえてくる。まあ、あそこまで濡れれば説教されるのも致し方ないだろう。

 そういえば、彼女の名前はなんと言っただろうか。


「へ?ピーチ・フロイラインの本名?なんだっけ、ロザディッチ男爵家令嬢ってのは覚えてるけど。」
「なんだっけ、ピーチ・フロイラインが固定になっちゃって……。」

「メルティー嬢だよ、メルティー・ロザディッチ嬢。」
「「「っ、お疲れ様です!」」」


 仕事終わり、同僚にピーチ・フロイラインこと桃色髪の彼女の名前を聞けば、家名までしか知る者は居らず。そんな折に助け舟を出してくれたのは、自分の部署の上司だった。名前を知れたのは嬉しいが、上司がこのタイミングで現れるとは……と皆の思いが一致していることだろう。
 もちろん、サボってたということで皆一様に書類仕事を増やされたのだった。ただでさえ雨だというのに、今日はとことんツイていないらしい。


(メルティー・ロザディッチ嬢って言うのかぁ)


 ただまあ、彼女の名前が知れたのなら悪くは無いかな、なんて。そう思った。
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