【完結】運命の番より俺を愛すると誓え

劣情祝詞

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後編

21

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 駆け寄る、ぐったりとしているが意識はある。
 男は半狂乱になって再度襲いかかってきた、しかし都築によってその動きは封じられた。
 都築が持っていたスタンガンが男に当てられたからだ。
 物音を聞き付けたため、助手席から荷台の様子を見にきたらしかった。

「何油断してるんですか?……使えませんね」

 抑揚のない声で都築がそう言った瞬間、俺の中で何かが弾け飛ぶ音がした。
 力なくぐったりと横たわる蒼井の腕を思い切り持ち上げ、自身の肩で支える。
 そして俺は、荷台の扉のロックを外した。
 扉が風圧でバタンと勢い良く開き、風が中に勢い良く吹き込む。

「……何のつもりです?」
「……俺たちは降りる、この車から」
「頭おかしくなったんですか?」
「CASから降りるっつってんだ。頭おかしいのはお前だろ、都築翔真」

 少年の冷ややかな目が怖い。
 俺は人生に意味を見いださず、平凡な暮らしをして、おそらく気づきもしない幸せの中にいたのに、ずっと空虚で。
 俺なんかより何十倍も人生経験がありそうなこの少年と渡り合うには、全身の勇気を絞り出さなければ。

「もうお前についていくのはうんざりだ。蒼井は巻き込まれただけだし、俺は馬鹿だっただけ。そうだ、革命なんて馬鹿なんだよ!!」
「……何も考えず革命に加担する馬鹿から、革命の意義を理解できない馬鹿になっただけですね」

 あーうるせえ、御託はいい。

「革命でお前は何を犠牲にした?今はなくても、これから得られるかもしれないものを一体いくつ手放した?」
「革命で得られるもの……それだけが僕の全てですよ」
「ふっ、正義のヒーロー気取りか?それとも悲劇のヒロインか?他人が思いどおりにならないからって、革命しか思い付かない単細胞なだけだろうが、ガキなんだよ、てめーは」

 ずっしりと寄りかかる蒼井の重みを感じながら、その体温を感じながら、俺は喋る度に無敵になっていくような気がした。
 俺は今初めて心の底から本心をさらけ出している。
 目の前の恐怖とか、後先のことを何も考えずに、俺の思いのたけをぶつけている。
 都築はそれには返さず、はぁと一息、大きな溜め息をついた。

「……結局、あなた方もαとβでしかなかったんですね」
「違う。俺は水無瀬薫、こいつは蒼井君春。それだけだ。Ωの苦しみなんて死んでも理解できない、俺はΩじゃねえからな」

 俺を睨みつける都築。
 こいつには何もかも言い足りねえ。
 ガキのくせに一丁前に大人みたいなこと言いやがって。
 でも自分勝手で、短絡的で、馬鹿みたいな理想を本当に実行しようと意地になって。
 なんだよ、ただの子どもじゃねえか。

「言葉でも、暴力でも、他人のことなんてわかるわけねぇんだよ。理解したと思った時、それは『理解した気になった』だけだ。てめえだって、他のΩの考えてることなんて理解できねえだろ。お前の野望が、Ωの野望だと思ってんじゃねえ」
「βに何を言われても、全く説得力がありませんが?」
「だからβとかΩとか、集団の幸せなんてどうでもいい。社会の浄化なんてクソ食らえ。そんな大層な野望は持ってない」

 こんなガキが、なんで革命を起こすなんて大義で、自分を壊そうとしてんだよ。
 なんで、こいつは幸せになり方を知らないんだ。

「他人なんて変えられる訳ねぇんだよ。だけど、
「自分は変えられる」

 俺のその先の言葉を代弁したのは、蒼井だった。
 まだ力が入らない様子だが、首を必死に持ち上げ、都築の目を見た。

「都築くん、君は君自身を変える力がある。この腐った社会で、『君がどう生きるか』を自分で決められるんだ」

 顔色が悪く傷ついた蒼井は、たどたどしく、しかしまっすぐに言葉を紡いだ。
 一方都築は、顔色一つ変えず、俺と蒼井の方を睨み続けている。
 利口な人間だから、きっと言っている意味がわからないわけじゃないだろう。
 俺たちの言葉に耳を傾ける気はハナからないのだ。
 それは、こいつのこれまで置かれてきた環境や経験が原因かもしれないし、こいつの性格なのかもしれない。
 要するに俺や蒼井も、都築翔真という人間を理解することなどできないんだ。

 ならば、構ってられるか。
 お互い、信じた道を進めばいい。

「てめーは社会のために、Ωのために、革命なんて馬鹿やって、せいぜい大義を尽くして死ねばいい」
「……」
「だけど生憎俺は、俺とこいつを幸せにするだけで手一杯だ」

 じゃあな!
 俺はそう吐き捨て、中指を立てる。
 そのまま走り続けるトラックから蒼井を抱えて、背中から飛び降りた。
 最後に見た都築の顔は、俺たちを止める様子もなく、感情を滲ませないただの無表情。
 落下していく瞬間は、時が止まったみたいだった。
 なんの志もなくただ流されて、暇つぶしみたいに怠惰に生きてきた今までの自分を殺せたような、そんな気がした。
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