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後編
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しかし、速度のついた体が地面に強く当たった衝撃で一気に覚醒。
勢いよく転がる体、蒼井を庇うように抱きしめ、なるべく傷つかないように包み込む。
俺は、地面に強く当たりながら、身体中に擦り傷、打撲を刻んでいく。
頭だけは打たないように、蒼井の体とともに庇いながら、ひたすら勢いが収まるまで耐え続ける。
やっとの事で速度を落としながら、俺と蒼井の体は静止した。
服は摩擦でぼろぼろに引き裂かれ、汚れきっていた。
「みなせ、くん……?水無瀬くん……!!」
衝撃が止んでもなお、強い力で抱きしめ続けていた俺の腕から、蒼井はなんとか這い出て、俺の背中に腕を差し込んで上半身を軽く起こした。
ぼやける視界に、蒼井の焦った顔が飛び込んでくる。
その瞳には、涙が滲んでいた。
あぁ、こいつ泣くんだな。
……泣かせたくないな。
そう思った。
俺は力の入らない右腕を、なんとか持ち上げて、蒼井の目元に指を触れた。
「なんて……顔……してん…の」
「動かないで、止血するから」
蒼井は自身の着ていたシャツの裾を、裂け目からビリビリと引き裂き、俺のこめかみに押し付けた。
気づかなかった。
俺はこめかみからドクドクと血を流していた。
うわ……足変な方向に曲がってる気がする。
骨折してんなあ。
全身重くて、痛くて、何か考えようとすると激痛がそれを邪魔してくる。
でも、なぜだか死ぬ気はしなかった。
こいつ助けて、これから俺とこいつはやっと幸せになるんだから、死ぬわけがないんだ。
蒼井は、体が血で汚れるのもかまわず、俺の頭を抱きしめるようにして押さえ続けながら言った。
「これ、自分で押さえられる?公衆電話探してくるから、救急車
「行くな」
「……でも!」
「死なないから……ここにいろよ」
「……俺の腕の中で死にたい、なんてふざけたこと言ったら許さないからな」
「馬鹿か……死ぬ時は…ベッドの中で老衰って決めてんだ。……この現代に公衆電話なんか見つかるかよ……探してる間にくたばるっての」
「……そうだ……俺より先に逝くなよ」
蒼井は祈るように俺の体を抱きしめ続けていた。
蒼井だって、ここ数週間のリンチで、ボロボロに傷ついているし、先ほど頭をハンマーでぶん殴られたのだ。
そのままでは危ない状況のはず。
薄暗い夜の道だ、誰にも気づかれなければ、マジで共倒れかもな。
「な……ぁ、蒼井……俺のこと……大事か?」
「大事に決まってるだろう。俺から君に声をかけたの忘れたのか」
「『運命の番』…な。はは。いてて」
「喋るな、あばらが折れてるかもしれない」
「なぁ……運命の……番…なんて……要らねえ…だろ」
「水無瀬くん」
「俺の方が、誰よりも…お前のこと、好きだ。お前のこと……幸せにできる。遺伝子が選んだ……相手…より、心が……選んだ相手の方が……いいだろ…なあ」
縋るような言葉は、我ながら情けない。
αの蒼井には、きっとどこかに運命の番がいるのかもしれない。
こいつはそれをずっと求めてきた。
βの俺の負け惜しみでしかないのかもしれない。
だけど、
「運命の番より…俺を愛すると誓え…っ………!」
「……俺は運命の番と結ばれる」
「……」
そうかよ、そんなに小学生の時に立てた夢は大事なのかよ。
きっと、今俺はすごくふてくされた顔をしたのだろう。
蒼井は血で汚れる俺の顔を拭って、ムッとした口角を指で無理やり押し上げた。
大粒の雫が俺の頬に落ちてくる。
蒼井はついに涙を零しながら、愛おしそうに笑った。
「俺の心が、君を『運命の番』だと言っている。だから、君は俺の運命の番だ。俺は君と結ばれて、君と幸せになって、そして俺の『運命の番と結ばれる』という夢を叶える。……君だけを愛すると誓おう…!」
痛みなんて、どこかに吹っ飛んでいきそうだった。
幸福とは、激痛に勝るのだと知った。
そうして蒼井は、俺に誓いのキスをした。
唇が触れあうだけの優しくて幸福なキス。
「他の……奴に…目移りしたら…許さねえ…からな……」
俺の意識は、そこで途絶えた。
勢いよく転がる体、蒼井を庇うように抱きしめ、なるべく傷つかないように包み込む。
俺は、地面に強く当たりながら、身体中に擦り傷、打撲を刻んでいく。
頭だけは打たないように、蒼井の体とともに庇いながら、ひたすら勢いが収まるまで耐え続ける。
やっとの事で速度を落としながら、俺と蒼井の体は静止した。
服は摩擦でぼろぼろに引き裂かれ、汚れきっていた。
「みなせ、くん……?水無瀬くん……!!」
衝撃が止んでもなお、強い力で抱きしめ続けていた俺の腕から、蒼井はなんとか這い出て、俺の背中に腕を差し込んで上半身を軽く起こした。
ぼやける視界に、蒼井の焦った顔が飛び込んでくる。
その瞳には、涙が滲んでいた。
あぁ、こいつ泣くんだな。
……泣かせたくないな。
そう思った。
俺は力の入らない右腕を、なんとか持ち上げて、蒼井の目元に指を触れた。
「なんて……顔……してん…の」
「動かないで、止血するから」
蒼井は自身の着ていたシャツの裾を、裂け目からビリビリと引き裂き、俺のこめかみに押し付けた。
気づかなかった。
俺はこめかみからドクドクと血を流していた。
うわ……足変な方向に曲がってる気がする。
骨折してんなあ。
全身重くて、痛くて、何か考えようとすると激痛がそれを邪魔してくる。
でも、なぜだか死ぬ気はしなかった。
こいつ助けて、これから俺とこいつはやっと幸せになるんだから、死ぬわけがないんだ。
蒼井は、体が血で汚れるのもかまわず、俺の頭を抱きしめるようにして押さえ続けながら言った。
「これ、自分で押さえられる?公衆電話探してくるから、救急車
「行くな」
「……でも!」
「死なないから……ここにいろよ」
「……俺の腕の中で死にたい、なんてふざけたこと言ったら許さないからな」
「馬鹿か……死ぬ時は…ベッドの中で老衰って決めてんだ。……この現代に公衆電話なんか見つかるかよ……探してる間にくたばるっての」
「……そうだ……俺より先に逝くなよ」
蒼井は祈るように俺の体を抱きしめ続けていた。
蒼井だって、ここ数週間のリンチで、ボロボロに傷ついているし、先ほど頭をハンマーでぶん殴られたのだ。
そのままでは危ない状況のはず。
薄暗い夜の道だ、誰にも気づかれなければ、マジで共倒れかもな。
「な……ぁ、蒼井……俺のこと……大事か?」
「大事に決まってるだろう。俺から君に声をかけたの忘れたのか」
「『運命の番』…な。はは。いてて」
「喋るな、あばらが折れてるかもしれない」
「なぁ……運命の……番…なんて……要らねえ…だろ」
「水無瀬くん」
「俺の方が、誰よりも…お前のこと、好きだ。お前のこと……幸せにできる。遺伝子が選んだ……相手…より、心が……選んだ相手の方が……いいだろ…なあ」
縋るような言葉は、我ながら情けない。
αの蒼井には、きっとどこかに運命の番がいるのかもしれない。
こいつはそれをずっと求めてきた。
βの俺の負け惜しみでしかないのかもしれない。
だけど、
「運命の番より…俺を愛すると誓え…っ………!」
「……俺は運命の番と結ばれる」
「……」
そうかよ、そんなに小学生の時に立てた夢は大事なのかよ。
きっと、今俺はすごくふてくされた顔をしたのだろう。
蒼井は血で汚れる俺の顔を拭って、ムッとした口角を指で無理やり押し上げた。
大粒の雫が俺の頬に落ちてくる。
蒼井はついに涙を零しながら、愛おしそうに笑った。
「俺の心が、君を『運命の番』だと言っている。だから、君は俺の運命の番だ。俺は君と結ばれて、君と幸せになって、そして俺の『運命の番と結ばれる』という夢を叶える。……君だけを愛すると誓おう…!」
痛みなんて、どこかに吹っ飛んでいきそうだった。
幸福とは、激痛に勝るのだと知った。
そうして蒼井は、俺に誓いのキスをした。
唇が触れあうだけの優しくて幸福なキス。
「他の……奴に…目移りしたら…許さねえ…からな……」
俺の意識は、そこで途絶えた。
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