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ルノーとウーヴェ
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ルノーにとっては慌ただしい毎日だった。
かつては遊ぶことも、訓練することもなかった。ただひたすらウーヴェを殺すことだけを考えていた。自分はロボットなんだから、目的以外の思考は必要ないと思っていた。訓練しても無駄だ、最初からスペックは決まっている。改造でもしない限り能力が上がることはない。栄養補給も短時間で必要な栄養が取れればそれでいい。遊ぶこともいらない、娯楽など不要だ。雑談もいらない、仕事の連絡だけ。
しかし、それらは全て間違っていた。ルノーは人間だった。訓練すれば戦闘力は上がり、遊べば楽しく、誰かと笑って共に時を過ごす時間は何にも代えがたい。朝オリヴからの健康診断を受けて、日中はテオとザックとシュティと大騒ぎしながら訓練に勤しみ、昼は毎日色んなものを食べて、遊んで、訓練して、夜はウーヴェと他愛もない話をして、夢心地のまま就寝する。
こんな暮らしをしていいのだろうか、こんな幸せな。人間みたいな。
ベッドに潜り込む。怖くて仕方がなくなる。これは全部夢なんじゃないか、僕は人間なんかじゃない。朝起きたらB国の拠点で、ギルベルトに指示を受けて、またウーヴェを殺しに行かなければならないんじゃないか。そうなったら、きっと僕はもうウーヴェを殺すことはできないだろう。そして役立たずになって廃棄されるんだ。怖くて震える。布団の中で縮まりこむ。暗い闇の中で一人ぼっちみたいで、怖い、怖い、怖い。
「ルノー?」
はっと我に返った。布団から這い出ると、わずかに開いた扉から光が漏れていて、そこにウーヴェがいた。
「大丈夫?うなされてるのか?」
「ぁ、大丈夫……。」
「なんかあったらすぐ言いな。」
とっさにそう答えた。そうか、もう僕は一人じゃないのか。
「あの、ウーヴェ 。」
「どした?」
「一緒に…寝て……いい?」
布団で顔を少し隠しながらルノーはそう言った。ウーヴェはルノーのいるベッドの隙間に潜り込んで言った。
「いいよ。」
その顔には微笑みが浮かんでいた。暗闇だがわずかな月明かりが当たって優しく、柔らかい表情だった。二人で入るには少し小さなベッドで、ウーヴェはルノーを抱きしめた。
「やなことあったなら言ってみな。」
ウーヴェはそう囁いた。言おうか言わまいか、決めあぐねていたルノー。しかし、ウーヴェの体温は心地よく、その微笑みはどこか儚さを含みつつも、自分を愛おしそうに見つめる瞳はルノーの心を溶かすのには十分だった。
「この幸せな毎日が、全部夢だったらどうしようって。僕が本当にお前を殺すためだけに生まれたロボットだったら。そう思うと怖い。毎日、夜寝て朝起きたら全てが幻だったらって、そう考えると怖くて仕方がないんだ。」
ウーヴェは静かにルノーの言葉を聞いていた、強くぎゅっと抱きしめながら。
「君が幸せを感じてくれていたのなら良かった。」
「……お前のおかげだよ。」
「子供の時、俺と君は出逢ってるって話、したよね。」
「うん、記憶はないけど。」
「君は絶対に人間だよ、俺の初めてできた友人で、初めての好きな人なんだ。忘れるわけない。」
ウーヴェはルノーの頭をポンポンと撫でた。
「他の誰が、君をロボットだと言っても俺は知ってる。君は人間だ。」
「ウーヴェ……。」
「もしこれが夢だとして、君が俺を殺しにきたら、俺は全力で君を抱きしめるよ。」
こんな風に、とでも言うかのようにウーヴェは一層ルノーを強く抱きしめた。
「ありがとう。忘れてて、ごめん。」
記憶にない、ウーヴェとの思い出が自分の脳からすっぽりと抜け落ちているのが悔しい。あらかたことの顛末は聞いた。こんな時代だ、ウーヴェのやったことは悪いことじゃない。少なくとも戦禍に苦しんでいたB国の市民たちは救われたことだろう。それを理解できなかった僕にも非がある。
そんなことよりも、この記憶がないせいで、ウーヴェとルノーの想いにはずれがあるように感じるのだ。人間の自分を肯定してくれて、幸せな暮らしをくれたウーヴェに自分は好意を抱いている。それは間違いない。しかし、ウーヴェから自分に与えられる好意の方がその何十倍も大きいように感じる。これはきっと、失われた記憶に閉じ込められているに違いない。
「早く思い出したい。」
「……焦らなくていいよ。」
「でも。」
「俺は昔の君も、殺人兵器だった君も、今の君も全部好きだから。」
ウーヴェはそう言って、ルノーの額に小さくキスをした。
かつては遊ぶことも、訓練することもなかった。ただひたすらウーヴェを殺すことだけを考えていた。自分はロボットなんだから、目的以外の思考は必要ないと思っていた。訓練しても無駄だ、最初からスペックは決まっている。改造でもしない限り能力が上がることはない。栄養補給も短時間で必要な栄養が取れればそれでいい。遊ぶこともいらない、娯楽など不要だ。雑談もいらない、仕事の連絡だけ。
しかし、それらは全て間違っていた。ルノーは人間だった。訓練すれば戦闘力は上がり、遊べば楽しく、誰かと笑って共に時を過ごす時間は何にも代えがたい。朝オリヴからの健康診断を受けて、日中はテオとザックとシュティと大騒ぎしながら訓練に勤しみ、昼は毎日色んなものを食べて、遊んで、訓練して、夜はウーヴェと他愛もない話をして、夢心地のまま就寝する。
こんな暮らしをしていいのだろうか、こんな幸せな。人間みたいな。
ベッドに潜り込む。怖くて仕方がなくなる。これは全部夢なんじゃないか、僕は人間なんかじゃない。朝起きたらB国の拠点で、ギルベルトに指示を受けて、またウーヴェを殺しに行かなければならないんじゃないか。そうなったら、きっと僕はもうウーヴェを殺すことはできないだろう。そして役立たずになって廃棄されるんだ。怖くて震える。布団の中で縮まりこむ。暗い闇の中で一人ぼっちみたいで、怖い、怖い、怖い。
「ルノー?」
はっと我に返った。布団から這い出ると、わずかに開いた扉から光が漏れていて、そこにウーヴェがいた。
「大丈夫?うなされてるのか?」
「ぁ、大丈夫……。」
「なんかあったらすぐ言いな。」
とっさにそう答えた。そうか、もう僕は一人じゃないのか。
「あの、ウーヴェ 。」
「どした?」
「一緒に…寝て……いい?」
布団で顔を少し隠しながらルノーはそう言った。ウーヴェはルノーのいるベッドの隙間に潜り込んで言った。
「いいよ。」
その顔には微笑みが浮かんでいた。暗闇だがわずかな月明かりが当たって優しく、柔らかい表情だった。二人で入るには少し小さなベッドで、ウーヴェはルノーを抱きしめた。
「やなことあったなら言ってみな。」
ウーヴェはそう囁いた。言おうか言わまいか、決めあぐねていたルノー。しかし、ウーヴェの体温は心地よく、その微笑みはどこか儚さを含みつつも、自分を愛おしそうに見つめる瞳はルノーの心を溶かすのには十分だった。
「この幸せな毎日が、全部夢だったらどうしようって。僕が本当にお前を殺すためだけに生まれたロボットだったら。そう思うと怖い。毎日、夜寝て朝起きたら全てが幻だったらって、そう考えると怖くて仕方がないんだ。」
ウーヴェは静かにルノーの言葉を聞いていた、強くぎゅっと抱きしめながら。
「君が幸せを感じてくれていたのなら良かった。」
「……お前のおかげだよ。」
「子供の時、俺と君は出逢ってるって話、したよね。」
「うん、記憶はないけど。」
「君は絶対に人間だよ、俺の初めてできた友人で、初めての好きな人なんだ。忘れるわけない。」
ウーヴェはルノーの頭をポンポンと撫でた。
「他の誰が、君をロボットだと言っても俺は知ってる。君は人間だ。」
「ウーヴェ……。」
「もしこれが夢だとして、君が俺を殺しにきたら、俺は全力で君を抱きしめるよ。」
こんな風に、とでも言うかのようにウーヴェは一層ルノーを強く抱きしめた。
「ありがとう。忘れてて、ごめん。」
記憶にない、ウーヴェとの思い出が自分の脳からすっぽりと抜け落ちているのが悔しい。あらかたことの顛末は聞いた。こんな時代だ、ウーヴェのやったことは悪いことじゃない。少なくとも戦禍に苦しんでいたB国の市民たちは救われたことだろう。それを理解できなかった僕にも非がある。
そんなことよりも、この記憶がないせいで、ウーヴェとルノーの想いにはずれがあるように感じるのだ。人間の自分を肯定してくれて、幸せな暮らしをくれたウーヴェに自分は好意を抱いている。それは間違いない。しかし、ウーヴェから自分に与えられる好意の方がその何十倍も大きいように感じる。これはきっと、失われた記憶に閉じ込められているに違いない。
「早く思い出したい。」
「……焦らなくていいよ。」
「でも。」
「俺は昔の君も、殺人兵器だった君も、今の君も全部好きだから。」
ウーヴェはそう言って、ルノーの額に小さくキスをした。
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