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弟編 弟救出大作戦
弟救出大作戦 9
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その後、湯の中で気を失うように寝てしまったほつみを抱え上げ、神谷の部屋の布団に寝かせた。
弱っているほつみを、犬小屋のような劣悪な環境で寝かせるわけにはいかなかった。
夜も遅かったため、二人はその場で寝たものの、神谷はほつみがまた連れ去られてしまうのではないかと気が気で、寝られなかった。
次の日の早朝、目が覚めるとほつみは神谷の横でぐっすりと寝ていた。
そして、神谷は軽く正装をして、主人の居室を訪れた。
それは最終決戦、つまり、ほつみと自分がこの家を出ることを許可してくれるよう、交渉するためだ。
神谷は確信していた。
昨夜、執事が焦って報告してきた「週刊誌によるスキャンダルの電話」。
あれは、何らかの形で「ほつみへの虐待」がリークされたのだと。
それをネタに、交渉する、チャンスは今しかない。
「旦那様、失礼いたします。」
扉を開けると、主人は執事とせわしなく話し込んでいた。
「何だ、今忙しい。後にしろ。」
「……週刊誌の件でしょう。」
神谷がそう言うと、二人は目を光らせた。
神谷は怯むことなく、淡々と続けた。
「俺に聞きたいこともあるでしょう。話し合いに参加させてください。」
机の上には、週刊誌が送ってきたメールの文面の印刷が散らばっていた。
そこには写真が載っており、全裸に黒ベルトで拘束された男が、四つん這いで歩かされている姿だった。
間違いなくほつみの姿だったが、顔は写っていないため、外部からは個人を特定できないだろう。
背景は、明らかに三条家の家の中で、言い訳しようも無い。
「そもそも誰がリークしたんだ。神谷、お前じゃないだろうな。」
「誓って俺ではありません。」
「どうだか、画角的に室内から撮影されている。内部の犯行だ。」
「犯人探しの前に、今後の対処を考えるべきでしょう。来月号に掲載されるそうです。金で黙らせるか、圧力をかけるか、おそらく交渉の余地はなさそうですが。」
執事が冷静にそう諌めた。
神谷は一息吸って、意を決したように口を開いた。
「ほつみさんを、この家の外に避難させるべきでは。」
「なんだと?」
「今回の件で、誌面に掲載されようがされまいが、記者の追跡は厳しいものとなるでしょう。このまま続けていれば、間違いなく個人が特定されます。」
「……あいつを外には出さん。」
「一時的に止めたとしても、ほつみさんの体には傷が刻まれています。体格から目をつけられ、その体の傷を見られでもすれば、ほつみさんだと特定されるでしょう。」
当主は黙り込んだ。
「ただの個人の趣味ならまだしも、実の息子が対象となれば、趣味ではなく虐待だと世に知らしめられます。三条家の存続すら危ぶまれるでしょう。」
神谷は当主に跪きながら、覚悟の瞳で目を見つめた。
「俺が責任を持って、ほつみさんを避難させます。絶対にスキャンダルを広げさせません。三条家に仕える者として、この家とほつみさんを救うことにこの身を捧げます。」
もう、ほつみへの想いを隠す気は無かった。
ほつみも三条家も、神谷にとっては守りたいものなのだ。
「しかし……」
「旦那様、それがよろしいのではないでしょうか。」
神谷の意見に同調したのは執事だった。
「ほとぼりが冷めるまで、怪しまれることは避けるべきです。」
「お前らが共謀して、好き勝手する可能性もあるだろう。」
「では誓約書をお書きします。三条家で見たことを絶対に他言しないと誓います。それで…いかがでしょうか。」
主人は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。しかし、諦めたような目をして、力なくうなづいた。
それから数時間に渡る今後の話が終わって、神谷は主人の居室を出た。
ふぅ、と大きく息を吐いた。
やっと、やっとだ。
やっと、ほつみを解放できる。
19年の呪いから救える。
10年以上虐待に加担した自身の贖罪もできたようで、晴れやかな気分だ。
廊下を歩き、離れに向かい、自室の扉を開けると、ほつみはすでに目を覚まし、布団で寝転がっていた。
「あ、神谷……。」
その姿は、15年前、一人で寂しく遊んでいた子どもの頃の姿と重なった。
思わず勢いよく抱きしめていた。
「何してんだ……。」
「何をしましょうか。」
「は?」
「どこか遠くに旅行に行きますか?それとも、海外にでも行ってみますか?遊園地もいいですね。」
「意味がわからないんだが。」
「ほつみさんは何がしたいですか。」
困惑した顔をし続けていたが、考えるのをやめてほつみは神谷をぎゅうと抱きしめ返して言った。
「これでいい。」
今後のことは早急に粛々と行われた。
引越しの準備、転職先の準備。
あまりのめまぐるしさに、ほつみはついていけてなかった。
そもそも自分がこの家を出るということが未だ信じられていないのだ。
ほつみが何かしなくても、手続きのほとんどは神谷がこなしていた。
「ほつみさん、今から新しい勤め先にご挨拶に行きますので、不在にします。」
神谷は声をかけた。
ほつみは上の空でおう、と返事をしたのち、急いで神谷を追いかけた。
「待て……!俺も行く。」
「えぇ!?」
「なんだ、ダメかよ。」
「いえ、構いませんが……。」
神谷の運転する車に、ほつみは乗り込み、新しい仕事先である祖母方の家に向かった。
弱っているほつみを、犬小屋のような劣悪な環境で寝かせるわけにはいかなかった。
夜も遅かったため、二人はその場で寝たものの、神谷はほつみがまた連れ去られてしまうのではないかと気が気で、寝られなかった。
次の日の早朝、目が覚めるとほつみは神谷の横でぐっすりと寝ていた。
そして、神谷は軽く正装をして、主人の居室を訪れた。
それは最終決戦、つまり、ほつみと自分がこの家を出ることを許可してくれるよう、交渉するためだ。
神谷は確信していた。
昨夜、執事が焦って報告してきた「週刊誌によるスキャンダルの電話」。
あれは、何らかの形で「ほつみへの虐待」がリークされたのだと。
それをネタに、交渉する、チャンスは今しかない。
「旦那様、失礼いたします。」
扉を開けると、主人は執事とせわしなく話し込んでいた。
「何だ、今忙しい。後にしろ。」
「……週刊誌の件でしょう。」
神谷がそう言うと、二人は目を光らせた。
神谷は怯むことなく、淡々と続けた。
「俺に聞きたいこともあるでしょう。話し合いに参加させてください。」
机の上には、週刊誌が送ってきたメールの文面の印刷が散らばっていた。
そこには写真が載っており、全裸に黒ベルトで拘束された男が、四つん這いで歩かされている姿だった。
間違いなくほつみの姿だったが、顔は写っていないため、外部からは個人を特定できないだろう。
背景は、明らかに三条家の家の中で、言い訳しようも無い。
「そもそも誰がリークしたんだ。神谷、お前じゃないだろうな。」
「誓って俺ではありません。」
「どうだか、画角的に室内から撮影されている。内部の犯行だ。」
「犯人探しの前に、今後の対処を考えるべきでしょう。来月号に掲載されるそうです。金で黙らせるか、圧力をかけるか、おそらく交渉の余地はなさそうですが。」
執事が冷静にそう諌めた。
神谷は一息吸って、意を決したように口を開いた。
「ほつみさんを、この家の外に避難させるべきでは。」
「なんだと?」
「今回の件で、誌面に掲載されようがされまいが、記者の追跡は厳しいものとなるでしょう。このまま続けていれば、間違いなく個人が特定されます。」
「……あいつを外には出さん。」
「一時的に止めたとしても、ほつみさんの体には傷が刻まれています。体格から目をつけられ、その体の傷を見られでもすれば、ほつみさんだと特定されるでしょう。」
当主は黙り込んだ。
「ただの個人の趣味ならまだしも、実の息子が対象となれば、趣味ではなく虐待だと世に知らしめられます。三条家の存続すら危ぶまれるでしょう。」
神谷は当主に跪きながら、覚悟の瞳で目を見つめた。
「俺が責任を持って、ほつみさんを避難させます。絶対にスキャンダルを広げさせません。三条家に仕える者として、この家とほつみさんを救うことにこの身を捧げます。」
もう、ほつみへの想いを隠す気は無かった。
ほつみも三条家も、神谷にとっては守りたいものなのだ。
「しかし……」
「旦那様、それがよろしいのではないでしょうか。」
神谷の意見に同調したのは執事だった。
「ほとぼりが冷めるまで、怪しまれることは避けるべきです。」
「お前らが共謀して、好き勝手する可能性もあるだろう。」
「では誓約書をお書きします。三条家で見たことを絶対に他言しないと誓います。それで…いかがでしょうか。」
主人は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。しかし、諦めたような目をして、力なくうなづいた。
それから数時間に渡る今後の話が終わって、神谷は主人の居室を出た。
ふぅ、と大きく息を吐いた。
やっと、やっとだ。
やっと、ほつみを解放できる。
19年の呪いから救える。
10年以上虐待に加担した自身の贖罪もできたようで、晴れやかな気分だ。
廊下を歩き、離れに向かい、自室の扉を開けると、ほつみはすでに目を覚まし、布団で寝転がっていた。
「あ、神谷……。」
その姿は、15年前、一人で寂しく遊んでいた子どもの頃の姿と重なった。
思わず勢いよく抱きしめていた。
「何してんだ……。」
「何をしましょうか。」
「は?」
「どこか遠くに旅行に行きますか?それとも、海外にでも行ってみますか?遊園地もいいですね。」
「意味がわからないんだが。」
「ほつみさんは何がしたいですか。」
困惑した顔をし続けていたが、考えるのをやめてほつみは神谷をぎゅうと抱きしめ返して言った。
「これでいい。」
今後のことは早急に粛々と行われた。
引越しの準備、転職先の準備。
あまりのめまぐるしさに、ほつみはついていけてなかった。
そもそも自分がこの家を出るということが未だ信じられていないのだ。
ほつみが何かしなくても、手続きのほとんどは神谷がこなしていた。
「ほつみさん、今から新しい勤め先にご挨拶に行きますので、不在にします。」
神谷は声をかけた。
ほつみは上の空でおう、と返事をしたのち、急いで神谷を追いかけた。
「待て……!俺も行く。」
「えぇ!?」
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「いえ、構いませんが……。」
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