新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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浜町トゥインクルスパークル

浜町トゥインクルスパークル(11)

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 運転室すぐ後ろのスペースに落ち着く。
 中目黒行きの電車は、カーブを繰り返しながらこまめに停車していく。

「メティス・ブレイドが解放されていない」

 例によってリグナは唐突に話し出した。


「メティス・ブレイド?」

 モジャコが聞き返す。

「盾がノナゴナル・フィールド、火器がクロイツェル、刃がメティス・ブレイド。あと、いくつかのパラメータに異常を検知しているけど特定できない」
「異常……」
「わかりそうか?」

 ハルはスマホを操作する。
 見ても理解できるはずもないが、モジャコも画面をのぞむ。

 うーん——と、ハルは考え込んだ。
 異常と見られるような兆候はどの数値にも現れていない——が、いつからか、何とも表現しがたい気持ち悪さのようなものは感じている。

「違和感?」
「なんかすっきりしないっていうか。具体的にどうって聞かれても困るけど。あれ、これは……?」

 画面にはアルファベットが意味不明に並んでいた。まったく読めない。

「暗号化とか?」
「うーん、意味はわからなくても、アスキーの範囲内の文字にきっちりマッピングされてるし、わざわざ可読性を維持するなんて、暗号化っていうより単なる符号化なのかな?」
「……」

 聞かれてもモジャコは困る。
 ハルは言語設定をもとに戻してジシェに見せた。

「わかる? この部分だけど?」

 モジャコの頭の上からのぞむ。

「そこだけ、さっぱりわからないでござる」
「ロックを解除する方法かもしれない……」
「ロック?」
「アクセスできないデータ領域があるの。キーは単純な4桁の数字なんだけど、入力できるのは1回だけ。間違ったら二度と入力できない」
「やっかいだな。ところでさ、そもそもこういう画面——シェルっていうんだっけ?——って、英語でしか表示されないもんなの?」
「ここまでのはいまどき珍しいかも。50年前の日本で、ローカライズの参考になるようなものが無かったんだと思う」

 ハルはアプリをブラウザーに切り替え、どこかのページを表示した。
 引き出し付きの事務デスクの上にブラウン管ディスプレイとキーボードが乗っかっている——ように見えた。

「初の日本語ワードプロセッサ。1979年発売」
「あれ、ディスプレイとキーボードだけ? 思ったよりコンパクトだな」
「いちおうだけど、その事務デスクっぽい部分を含めた全体でワープロ」
「……」


「重さ220キロだって。あと値段は630万円。たぶんいまの感覚だとその2、3倍だけど、買う?」
「サンタにお願いしてみるけど、煙突、通るかな?」
「その前にトナカイの肩が外れると思う……」
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