新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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広尾デリヴァランス

広尾デリヴァランス(11)

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「ルジェはいつから円環ロンドの準備をはじめたんだ? 直径10キロメートルの環状地下空間って、そう簡単に造れるものでもじゃないじゃん。おおっぴらに堂々とやったわけでもないだろうしさ」
「この星のこよみでいえば、1923年の9月でござる。このとき、ルジェは〈ロートの追憶〉の位置を特定したと聞く」
「1923年9月……」

 モジャコもハルも繰り返す。そして思わず声を漏らした。

「あ……、関東大震災だ……」
「大地震が〈ロートの追憶〉を揺り動かした……? そして、それをルジェは感知した……?」
「もしかして円環ロンドのための地下空間は、あのとき大量に出たれきを使って、しかも、大混乱に紛れて造りはじめたんじゃないか?」
「ありえるかも……」
「で、1967年。最初の東京オリンピックが1964年、大阪万博が1970年——いろいろなものがじゃんじゃん造られた時代だ。完成させるには、ちょうどいいころだったのかもしれない」

 ポジヲのメールによれば、ゆうらくちょう駅から東池袋駅までは17分。

 ハルはコンビニで買ったスポーツドリンクに口を付けた。

 横から「ほい」とモジャコが何かを差し出す。
 1枚どう、と板ガムを勧めるような感じだが、桜の花に「都」のマークの赤い箱、都こんぶであった。


「出た……」
「出た?」

 ボンタンアメと並び、流行るでもなく廃れるでもなく、なぜか存在しつづける駄菓子。
 少なくとも子供に好評であるという話は聞いたことがない。

 でも、原材料が原材料なので、夏場のミネラル補給にぜひどうぞ。

(9つの〈追憶のカケラ〉を残された場所の意味——共通点)

 ハルは考える。

(そういえば、1つ目の〈追憶のカケラ〉があったのはコックさんの菊屋交差点で、2つ目の〈追憶のカケラ〉があったのは銀座の三原交差点の近くだった……)

 何気なく見上げた信号の標識にはそれぞれ「菊屋橋」「三原橋」と書かれていた。




 地図アプリを起動して、ハルは3つ目の〈追憶のカケラ〉があった神田に移動した。

 中央通りと、ビルとビルの隙間のような細く真っすぐな小路とが交わる場所で、すぐ南側には室町四丁目交差点、北側には今川交差点。


 これは——と、さらにはまちょうと広尾へ地図を移動すれば、4つ目が見つかったすぐ東には浜町中ノ交差点があり、5つ目が見つかったのはまさに広尾交差点である。




(〈追憶のカケラ〉は、名前が『橋』で終わる交差点に残された……!)

 ——が、地図の見える範囲を広げて、ハルは言葉を失った。
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