新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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広尾デリヴァランス

広尾デリヴァランス(13)

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 休日の午後、夕暮れも近い都電荒川線は思いのほか混み合っていて、ハルたちはポジヲのお勧めポイントであるところの後ろのほうへ移動した。
 1両だけの小さな電車、進行方向とは反対側の運転席の横。

 ハルはリグナの背面拡張コンソールを開いてチューニングをはじめた。

「リグナちゃんって今日までどうしてたの?」

 手を動かしたまま、ハルは背中越しに質問する。

「電源が入っていなかった」
「どこで?」

 リグナはくるんと向き直ってハルの巾着を指さした。
 スマホを寄越せということらしい。

 貸してほしいのーん。


 手渡すと、地図アプリを起動して秋葉原付近を拡大した。
 背中に装備されているコンソールに、自分で表示したほうが早くはなかろうか……?

「ここ」

 JR秋葉原駅は、南北に走る高架の山手線と京浜東北線の上を、さらに高い高架で中央・そうかんこう線が東西にまたぐ駅。

 東側には、山手線・京浜東北線と並行する昭和通りの地下に線の駅があって、さらにこの2つの間には、つくばエクスプレスの終着駅が地下にある。

 リグナが指したのはJR線が交差する位置を基準とすれば北東、中央改札口北側の、山手線の高架とヨドバシカメラにはさまれた広場——そのど真ん中だった。


「もしかして埋まってた?」
「……」

 熟考する。
 ぼんやり眼のリグナの無地背景には明朝体で「考え中……考え中……」が横スクロール。


 ——で。

「わからない。大量の堆積物が上にあって、起動してすぐは身動きがとれなかった」

 それを一般に埋まっていたという……。


 電車は古い住宅街の中をのんびり走っていく。

 飛鳥山停留場からは飛鳥山を巻く坂道を下る。
 道路の真ん中を走る区間で、文字どおりの路面電車。

 王子駅前停留場では降りる人も乗る人も多く、3人は、ようやく空いた席に並んで落ち着いた。

 ハルは地図アプリを起動した。
 いまいる王子駅周辺が表示される。
 自然と、名前が「橋」で終わる交差点に視線が向かう。

 画面の範囲内ではおとなし橋、紅葉もみじ橋、そして溝田橋という交差点が目に入った。


 すぐそばを流れる石神しゃくじ川の橋から借りた名前だろう。

ふなばしは確か、舟を並べて川を渡れるようにした橋が名前の由来だったっけ?)

 正解。
 市内を流れる海老川の、その名も「海老川橋」のレリーフに刻まれている。

 ちなみに海老川には、もうどうしたいのかよくわからない「ふなばしはし」という名前の橋があったりもする。
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