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広尾デリヴァランス
広尾デリヴァランス(15)
しおりを挟むハルはもう一度、地図に浜町付近を表示した。
浜町中ノ橋交差点は、東西の新大橋通りと南北の清洲橋通りがクロスするところ。
〈追憶のカケラ〉が見つかったのはその1つ西の交差点。
南東の角に、タワーマンションと一体になった複合ビルがそびえる一方、北側は、道路中央の緑道が白いアーチで出迎えていたところだ。
その緑道は北へしばらく行ったところで終わっている——が、よくよく見れば、その先も同じような区画が続いていた。
それは、交差点の南にある首都高の出入り口からはじまっていて、神田川まで、2キロ近くの距離を一直線に延びていた。
ハルには、それが水路の痕跡のようにしか見えなかった。
そして、もしそうであるのなら、〈追憶のカケラ〉が見つかったあの交差点にこそ、橋が架かっていたと考えるほうが自然だ。
(交差点にその名前を残した橋。それがあった場所。そこに〈追憶のカケラ〉は隠された……)
隣の交差点に名前が残された理由はわからない。
だけど、この論理は4つ目、浜町の〈追憶のカケラ〉が出現した場所を説明できる。
ほかの〈追憶のカケラ〉の見つかったところとも矛盾しない。
2つ目、銀座の〈追憶のカケラ〉が見つかった場所は、地図で見れば、ロータリーのような円形の街路で囲まれ、そこを起点に一方通行の道路が南北に延びていた。
3つ目、神田の〈追憶のカケラ〉が見つかった場所は、中央通りと、ビルとビルの隙間のような極端に細い小路とが交わるところ。
その小路は、東西に延々と1キロ以上も続く。
そして西の端は、浜町から延びる水路の痕跡。
ハルは胸の高鳴りを感じながら、台東区と荒川区の境界、三ノ輪付近に地図をスクロールした。
画面の中には下町らしい雑然とした町並みが広がっていた。
そこに川らしい流れは無く、橋も無い。
しかし——名前が「橋」で終わる交差点も存在しなかった。
(え……? 間違っている……?)
ハルは言葉を失った。
ふりだしに戻ってしまったことになる。
ただ、手がかりを失って途方に暮れているのかといえばそうでもなく、むしろ、やっぱりか——という思いがちらつく。
正しいはずだとは思ったけれども、確信をもっていえるほどではなかったから。
銀座の2つ目にしろ、神田の3つ目にしろ、浜町の4つ目にしろ、どの場所も、意識して見たから川か水路の痕跡だろうと推測できたのであって、何も考えずに地図を眺めてもわからない。
同時に、まさかそこにしか橋が無かったはずもなく、その場所を選んだ必然性がない。
そして50年前であること——。
モジャコがいったように、いろいろなものがじゃんじゃん造られた時代だ。
一般家庭にも自動車が普及し、道路の整備が進んだのもこの時代であって、信号機はまだ設置されていく途上だったはず。
交差点の名前は信号機の標識にあるわけだから、それを頼りに〈追憶のカケラ〉を残す場所を決めた——というロジックはどうしても弱い。
ただ一方で、完全に間違っているとも思えないのだ。
何かが足りない……。
ため息を吐いて、ハルは電車の天井を見上げた。
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