新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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広尾デリヴァランス

広尾デリヴァランス(16)

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 電車は夕暮れの下町をのんびりと走っていく。
 時間もどこか、ゆっくりと流れているような気さえする。


「どうした?」

 モジャコは視線だけ向けた。
 ジシェが車窓を楽しんでいるので、首を動かさないようにしてあげているらしい。
 ときどき尻尾が顔の前に落ちてくる。

「なんか、いいところまで行ったんだけどなー、って感じ」
「無理するのはいいけど、無理し過ぎないようにな。だいぶバテてるじゃん」
「我ながらここまで体力無いとはね……」

 苦笑いしてハルは両手を広げた。
 どこかをぼんやり見つめていたリグナが、だしぬけに、スマホを要求した。

「それ」
「ハイハイ」

 もう慣れました。

「スタミナ勝負はあたしに任しといて」

 鼻の頭がくすぐったいので、モジャコはジシェの尻尾をお腹の下に戻した。

「まだいくらでも動けるし」
「ありがと」

 素直に感謝する。
 実際には、とんでもないことに巻き込んでしまったのではないか、という後ろめたさをハルはずっと抱えていた。

 けれども、困ったときは頼れ、遠慮したらもう友達じゃない——という趣旨のご忠言を、これよりは多少穏やかな表現で(ただし真顔で)過去にいわれたことがあるので口には出さなかった。

 2人の友情はどんなものよりも固い——かどうかはわからないが、そう信じるのは自分たちの勝手ではないか、というのが共通認識だ。

 誰に抗議しているのかは知らない。

 リグナは、地図アプリを3次元表示に切り替え、ほいほいほ~い——と、スマホ本体を傾けたり、頭上に掲げてみたりしていた。


 たぶん楽しそう。

(さっきはなにを見てたんだろ……?)

 少しまえ、リグナはどこかを眺めていた。
 どうやら窓の上、天井近くに貼られた地下鉄の路線図のようだ。

(なんか地下鉄に乗ってばかりかも)

 13色で描かれた路線図。
 都電荒川線の電車に掲示された路線図は、東京都交通局のもので、東京メトロの9つの路線より、都営の4つの路線のほうが太い線で表現されている。


(銀座線で秋葉原のすえひろちょう駅からいな荷町りちょう駅、わらまち駅から浅草駅、浅草線で浅草駅から東銀座駅——)

 視線でオレンジのライン、ローズのライン——と追っていく。


 再びオレンジの銀座線で銀座からみつこしまえ、バイオレットのはんぞうもん線で三越前からすいてんぐうまえ、ライトグリーンの都営新宿線ではまちょうからじんぼうちょう、ブルーの都営線で神保町から、シルバーの日比谷線で日比谷と広尾を往復、イエローのゆうらくちょう線で有楽町から東池袋。

 全部で13の路線のうち、いつの間にか7つの路線に乗ったことになる。

(きょう1日でコンプリートしたりとか)

 まさかね——と、すぐに頭の中で否定して苦笑いする。

「もっとたくさんあった」

 リグナはスマホを返してきた。

「はい?」

 聞き返そうとして、ドアのかもの部分にある、都電荒川線だけの路線図が目に留まった。


 すべての停留場が直線状に表示されている。

 左から2つ目はおもかげ停留場、そしていちばん右、この電車の終点は停留場。
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