新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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面影橋メモリーズ

面影橋メモリーズ(1)

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5. おもかげ橋メモリーズ

 ハルは、スマホの地図をスクロールしておもかげ橋停留場の周辺を表示した。


 都電荒川線は、東西にのびる新目白通りの上を走る区間。
 早稲田停留場から西へ少し進んだ後、右折し、明治通りに沿って北上する。

 その手前、早稲田停留場から1つ目がおもかげ橋停留場だった。

 新目白通りの北側には、神田川が寄り添うように流れている。
 地図からはわからないが、停留場のそばにある橋がおもかげ橋なのだろう。

 昔は都電にはたくさんの路線があって、都内を縦横無尽に走っていたはずだ。

 ちょうどあの地下鉄の路線図と同じように。


 しかし「じゃんじゃん造られた時代」は「じゃんじゃん壊された時代」でもある。

(無くなっていこうとする路面電車、その停留場の名前には残っていたけれど、そのときにはもう無くなっていた橋。世界から自分が失われていくなかで、オーラさんはそこに想いを預けたのかもしれない——)

 いまのところ、それを裏付けるための材料をハルは持っていない。

 でも頼んだら——たぶん頼まなくても喜んで調べてくれる友達を1人、ハルは知っている。

 確かに信じられると思える何かがそこにあって、そして助けてくれる友達がいるのなら、きっとそれは答えなのだろう。

 ハルは猛烈な睡魔に襲われた——というよりも思い出した。
 くたくたの体に路面電車の揺れは毒だ。

「モジャコ、ポジヲくんにまで来てってメールしといてくれる?」
「おう」

 電車は夕暮れの下町をのんびりと走っていく。その心地よい揺れにハルはいつの間にか寝息をたてていた。

「たぶんわかったと思う……」
「お疲れさん」

 自分に寄りかかったハルに、モジャコは優しく声をかけた。

 ❖ ❖ ❖ ❖ ❖

 2人が知り合ったのは、1年生のとき。

 モジャコのほうから強引に話しかけたことがきっかけだ。
 そもそも2人は同じ高校に通っていてもクラスは別で、これといった接点も無かった。


 紫陽花が雨に濡れる梅雨の日。
 モジャコは、学食でハルを見つけて呼び止めた。

「ねえ、メシ付き合ってくれない?」
「?」

 ハルは首を傾げつつも応じた。

「単刀直入にいうと、巫女みこまいってどこで習えるのか教えてほしいんだよね」

 軽く自己紹介してからモジャコは切り出した。

 特に承諾した覚えは無いのだが、モジャコはいつの間にか、子供会のご意見番という立場になっていて、その子供会の女の子たちから、夏祭りで巫女みこまいをやりたいと駄々をこねられて困っている——とのこと。

「家が神社だって聞いて、知ってるんじゃないかって思って。あたしなんか、神輿みこし担いどけ、って思っちゃうんだけど、なんか町会の年寄り連中も乗り気になっちゃって」

「そういうことなら、わたしが教えにいってあげるけど? もともと地元のお祭りで子供たちに教えてるし」
「助かる!」

 モジャコは素直に喜んだ。

「どこでやるの、お祭り?」
れいしゃっていう小さな神社。けっこう由緒はあるんだけどね」
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