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面影橋メモリーズ
面影橋メモリーズ(2)
しおりを挟む文京区湯島は、御茶ノ水駅の北側に広がる地域。
西は本郷、駅と神田川を挟んで南は千代田区神田駿河台、東は外神田——わかりやすくいえば秋葉原、北から北東は台東区池之端・上野に接する。
湯島天神や湯島聖堂がよく知られ、神田明神もごく近い。
高台の突端にあるので、周囲には歴史の古い名前を持つ坂も多い。
その湯島の西寄りにある小さな神社が湯島御霊社。
巫女装束も貸してもらうことになって、モジャコは週末に船橋の秋葉神社まで取りに行くことになった。
ところで、モジャコははじめから自分のことを「モジャコ」であると自己紹介している。
家族にさえ本名で呼ばれた記憶が無いらしい。
そして、ハルはいつの間にか「ミコ」と呼ばれていた。
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
「——へえ、いいところじゃないの」
車を停めて、モジャコの姉、楙蓙瑪瑙はこんもりとした小さな森と、その南に開いた鳥居を見上げた。
秋葉神社のある船橋市高根町は、まわりが住宅地や団地に変わるなか、いまもなお古い集落と田畑の緑を残すところ。
地理的には市中央部の丘陵地で、そこへ海老川水系がつくった谷津が入り組む。
青空が高く透き通る梅雨の中休み。
「だね」
モジャコは頷く。
2人とも、胡桃色の瞳はいつでも何か楽しいことを考えていそうで、茶目っ気を感じる口許も同じ。
一方で瑪瑙の栗色の髪はストレートのロング、爽やかな夏色コーデはお洒落なお姉さんといった雰囲気。
モジャコはレギンスにメッシュのスニーカー、パーカーとニットキャップという格好で、ちなみにハルは、高校の制服を除けばこの組み合わせ以外を見たことがない。
瑪瑙はモジャコの3つ年上で都内の大学に通う。
鳥居をくぐって緩やかな石段を登る。
すぐ隣を交通量の多い県道が通っているものの、森の中に入ればその騒がしい音もいくらか遠のく。
モジャコはハルを見つけ、手を振った。
「来たよ」
ハルは巫女装束で、社殿の前の石畳を竹箒で掃いていた。
白衣と緋袴、足下は白足袋に赤い鼻緒の草履。
長い黒髪は、檀紙で1つにまとめ、水引で結ぶ。
瑪瑙はその姿を見て、グーにした両手をぶんぶん振った。
「やん、かわいいっ♥」
「変な気、起こすなよ……」
お洒落なお姉さん霧散(JM)。
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